誰かのおうちにお邪魔するときは、靴を脱ぐのが日本では当たり前の話だ。このとき、みなさんは靴のつま先をちゃんと外側に向けて揃えているだろうか?
たとえ気心の知れた友人宅であろうと、靴の脱ぎっぱなしは意外と相手に不快感を与えているかもしれないのだ。
もちろん、しっかり靴を整える人も多いと思うが、この靴を外に向けるというありふれたマナー。古くは武士の時代の名残ということまでは知らないのではないか?
ここでは、なぜ靴を外に向けて置くようになったかの理由と、靴を脱ぐときのマナーにも触れて記事にしてみたぞ!
他人の家で恥をかかないためにも、当雑学が役に立てば幸いだ。
【ルール雑学】玄関で靴のつま先を外に向けて揃える習慣は、武士たちの名残
【雑学解説】武士の防衛手段!
元は茶の席に招かれた武士が「躙り口(にじりぐち)」の外に履物を置く際に、上記の理由からいつでも外に出られるようにしたことが始まりだといわれている。
実際に茶の席は、礼節を重んじるいわば聖域といっても良い厳かな場所で、ここでは武士といえど礼儀をわきまえなくてはならないのだ。
よって履物を脱ぎ、丸腰で入室することが当たり前となる(基本、刀も持ち込みNGだ)。しかしだ、茶室にいるときに予期しない敵の襲撃が起きることもあり得る。
こういった事態に備えて、すぐ外に出てこれを迎え討てるようにしなくてはならない。つまり脱いだ「草履(ぞうり)」をすぐ履けるように、履物を置くときは常につま先側を外に向けて置くということへとつながったのである。
現代でも引き継がれていることだが、歴史を振り返ると元はこうした武士の習慣だったのだ。
もっとも、お茶に毒を盛られる可能性もあるため、こうした例外については意味がない話となってしまうのだが…。
せっかく敵に備えて履物をそろえたのに、茶に毒を盛られて死んでしまった武士がいたとしたら、これは気の毒というほかない。
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【追加雑学①】社会人必見!靴脱ぎのマナー
奥ゆかしく礼節にもシビアな日本人は、靴の脱ぎ方一つとっても場所に適した方法を選ぶことが好まれる。特にビジネスマン・ウーマンたちは、正しい靴の脱ぎかたを知っておくことでビジネスマナーとしても役立つはずだ。
ということで、ここでは一般の家庭を訪問するときや、座敷があるお店での靴の脱ぎ方マナーを紹介するので、新社会人の方はぜひ参考にしてほしい。
なお女性の場合、ブーツを履く人もいるだろう。これも革靴と脱ぎかたの基本は同じだ。しかし、ブーツにはジッパーがあったりと、作りにも違いがあるため、こちらの脱ぎ方は自分で調べていただければありがたい。
①玄関先で靴を脱ぐとき
まず靴を脱ぐときの絶対ルールとして、相手側に背中を向けず正面を向いたまま靴を脱ぐこと。このとき玄関の左右どちらかに寄って、はじの方で脱ぐと良いだろう。
もしスリッパが用意されていたら、それを履くように勧められるか、一言ことわって履いてから靴を整える流れへと進む。
なお玄関と床に高さがあって立ったまま脱ぐことが難しい場合、これも一言ことわってどこか手を付ける場所に手を置いてから靴を脱ごう。
もちろん、このときも正面向きのままだ(場合によっては座って脱ぐことがあるが、このときも相手の方向にお尻を向けないようにすればオーケーだ)。
補足として、お店などで靴を直してくれる人がいた場合、靴は正面を向いて脱いだ状態のままで上がって良いのだ。だが、このときでも直してくれる人にお礼をきちんといおう。
②靴を整えるとき
ここではどうしても相手に背中を向ける状態になると思うが、靴を整えるときもお尻を相手側からそらすようにしよう。
立ったままではなく片膝をついて半分座るような状態にしてから、靴の向きを直すということを念頭に入れておくとよい。
このとき、相手にお尻を向けないように意識していれば大丈夫だ。相手だってベロっと真正面で、お尻を向けられることはあまり良い気持ちにはならないはずだ。
③靴の置き場所
基本は玄関床の両脇のどちらかに置くのだが、玄関にも「上(かみ)座」と「下(しも)座」があることは知っていただろうか?
上座は玄関中央、または出迎えてくれた人がいる方向となる。靴の置き場所はこの上座をさけるのがマナー。置くときは武士の話と同じで、玄関のはじっこでつま先を外側に向けて置くと良い。
なお靴箱がある場合は、こちらが下座にあたるため、靴を置くときは靴箱側となる。置きかたは上記と同じだ。
もともと玄関はじの方で靴を脱ぐということを記述したので、下座がどちらかある程度判断したらそちらに寄って脱ぐようにすると、置き場所もそのままなので流れもスムーズだろう。
※例外として、靴箱の上にお花や飾り物が置かれている場合は、こちらが上座となるのだそう。こうしたパターンは逆の壁側が下座となるため、そちらへ靴を置くようにしよう。
もし来客用の靴箱がある場合、そちらを利用させてもらうのも良い。この場合は事前に一言「こちらを使わせていただいてもよろしいですか?」くらいで充分。
勝手に使用することは基本NGだ(お店の場合は例外かもしれないが、出迎えの店員さんがいた場合は案内に従おう)。
そして靴箱に入れて置くときは、つま先側を手前に向けて置くとオーケーである。
④帰るときは
ここからは自分が靴を履けるように置きなおして、そのまま履くだけだ。マナーの一節では、帰り際はそもそもが相手に後ろを向けた状態のはずなので、最初のお尻を向けてはならないルールは適用されないのだとか。
しかし、やはりお尻は向けないほうが良いだろう。なので靴を履くために置きなおすときも、家に上がるときと同様にすると間違いはない。
補足だが、ポケットサイズの靴ベラを所持しておくと脱ぎ履きのときに便利だ。指ですき間を開けながら着脱するのも仕方ないが、けっこう手間どるだろうし所作もあまりよろしく(美しく)ないのだ。
なにより、道具を使用してでもスムーズに靴を履けた方が本人だって楽だろう。この小さな靴ベラは靴屋さんのほか、百均でも見かけるので外出用に1つ購入しておくのがおススメ。
ついでに、わざわざここまで礼儀をつくすのだから、靴や靴下自体もキレイな状態にしておこう。とにかく最低でも正面を向いて靴を脱ぐことと、入退出時に靴を整える際は、お尻を相手に向けないということをおさえておけばバッチリだ。
靴の脱ぎ方動画
訪問先での靴脱ぎ作法が実演されている動画ものせておいたぞ!
なお、お手本となるのは二番手の女性の先生だ。
実演しているのは複数の女性の方たちだが、履いているのは革靴なので、男性の方にも適合したやり方となっている。
訪問時に外着やマフラーなどをどうするか、といったマナーの説明までされているのでぜひ参考にされたし!
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【追加雑学②】つま先・かかとの向きの呼び名
ついでのトリビアだが、靴のつま先を外に向けて置く形を「出船(でふね)」。反対につま先を内に向け置く形を「入船(いりふね)」と呼ぶこともある。
これは靴を「船」に見立てた場合、海へ出航する状態(つま先が外向き)を出船と呼び、反対に港へと船が帰ってきた状態(つま先が内向き)は入船と呼ぶことに由来しているのだ。
そして、武士が出船にしておいた履物を履く際、船(自身)が大海原(戦い)へと出航(出発)するとき、つまり、戦いへとおもむくときの「いざ行かん!」という心構え的な意味も込められているのだとか。
現代でも出掛けるときには、上記のような武士の気持ちで「出船」の靴を履き、仕事に向かう人も多いのではないだろうか?
雑学まとめ
今回は、靴を外に向けて置くようになった理由と、靴を脱ぐときのマナーについての雑学をご紹介してきた。
武士の時代も所作には厳しいところがあったとはいえ、それは敵からの襲撃への対策も兼ねてのことだったわけである。
現代のシーンでも、履物のつま先を外に向けておくと相手への礼節も兼ねて、かつ自分もスムーズに外に出られるのだ。
これは地震など急な災害時のことを考えても、自分や家族が素早い避難行動をする際、とても理に叶った置き方だと思う(微々たることかもしれないが、秒を争う事態になった場合、けっして無駄な行為ではないだろう)。
不測の事態に備える意味で、みなさんも武士の心構えにならい相手先だけではなく、自宅でも靴をきちんと揃えることを心掛けてみてはいかが?