数種の野菜と薄切り牛肉で香り豊かに煮込まれたハヤシライス。この上品でコク深い味わいが人々を虜にする。
一方でカレーライスのせいでいつも2番手止まりという、ある意味不遇な扱いの料理でもある。いやいや…「ハヤシライスのほうが好きだよ!」って人もいるはずだ! 今回はそんなハヤシライスに関する雑学である。
そういえば…ハヤシライスって洋食っぽく見えて、めちゃくちゃ純和風な名前だよな…。いったいどんな由来が隠されているんだ?
【食べ物雑学】ハヤシライスの由来と語源
【雑学解説】ハヤシライスの由来と語源は諸説ありまくり!
洋食なのに思いっきり純和風なネーミングのハヤシライス…その由来にはおおまかに分けて、5つの説が囁かれている。
ハヤシライスの由来
- 早矢仕有的(はやし ゆうてき)説
- あちこちで林さん説
- ハッシュドビーフ・ウィズ・ライス説
- 早いライス説
- 早死ライス説
このように諸説ありまくりで、はっきりしたことは断定できないのだ。
なんかもう、すでにツッコミどころ満載の説ばかりでめちゃくちゃ気になる。さっそくそれぞれ解説していこう!
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由来①早矢仕有的(はやし ゆうてき)説
最初の説は丸善雄松堂の創業者・早矢仕有的さんが最初に作ったというもの。この説はジャーナリストの蛯原八郎氏が1980年に発刊した『丸善百年史』にも掲載されている。
早矢仕さんはもともと、福沢諭吉の門下生だった。そして当時、福沢諭吉は「滋養にいい」という理由で周囲に牛肉をすごく推していたのだとか。それを早矢仕さんが野菜と一緒にごった煮にして作ったのが、ハヤシライスの始まりだというのだ。
また早矢仕さんが贔屓にしていた「三河屋」という洋食屋さんで「ハッシュ・ビーフ」という料理が流行っており、これを参考にしたという話もある。
医師も務めた早矢仕さんは患者向けの病人食としてハヤシライスを用いたほか、ご飯とおかずが一度に済むという理由で、丸善の従業員食にも重宝したという。
野菜と牛肉の出汁がふんだんに染み出したハヤシライスは、手軽さと栄養を兼ね備えた画期的な料理だったのだ!
由来②あちこちで林さん説
ふたつめの説は、いかにもありがちな「林さんという人が広めた」というものだ。しかしこの説…どの林さんが最初なのか全然はっきりしない。
- 上野精養軒の林さんが作った
- 横浜在住の林さんというお客さんが毎日注文していた
などなど…あちこちの林さんが対象にされている。ちなみに横浜在住の林さんが注文していたのは「カレー粉抜きのカレーライス」だったらしく、洋食屋に行くたびに注文していたという話だけで、店名などはわからない。
「またあのお客、カレー粉抜きとか言ってるぞ…。それもうカレーちゃうからな」などと裏で言われてたのかなーなんて想像するとちょっとおもしろい。
しかしこれだけ諸説があると、ハヤシライスという名前を聞いてから「きっと林さんが作ったんじゃない?」と想像した感じが満載である。
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由来③ハッシュドビーフ・ウィズ・ライス説
みっつめの説はもともとの正式名称がなまったというものだ。
ハヤシライスはそもそも「ハッシュドビーフ・ウィズ・ライス」という名前だった。直訳すれば「薄切りの牛肉と飯」である。そう言ってしまうとなんか牛丼っぽくもあるが…ハヤシライスなのだ。
このハッシュドビーフ・ウィズ・ライスが…
「ハッシュライス」→「ハッシライス」→「ハヤシライス」
と変化していったのだという。うん、正式名称だと長すぎるし、ハッシュライスと呼ぶのも日本人的にはなじみにくそう。
また明治期には「薄く切る」という意味の「はやす」という言葉が存在したといい、その意味も混同していったといわれる。これはかなり有力な説じゃないか?
現在でも近畿方面の年配の方なんかは、ハヤシライスのことをハッシライスと呼ぶというぞ。お年寄りがそう呼んでいるところもなんとなく想像できる。
早矢仕有的さんの説でも「ハッシュ・ビーフ」という料理が出てきたし、「早矢仕」と「ハッシュ」のふたつを掛け合わせた可能性もありそうだ。
由来④早いライス説
続いては、北九州市は門司港・栄町商店街にあった大衆レストランが起源とする説だ。
このお店では乗船までの少ない待ち時間で立ち寄るお客さんが多かったため、ケチャップベースのソースをご飯にかけて出すスピードメニューが考案された。
これが「早いライス」と呼ばれており、そこからハヤシライスに変化していったのだという。そっちか! 「この店のライス…早し!」みたいな。
由来⑤早死ライス説
福沢諭吉が勧めていたように、明治時代は牛肉を食べることが文明開化の象徴とされていた。当時はその影響ですき焼きが一大ブームを巻き起こしていたというぞ!
しかし文明開化の象徴ということは、それだけ日本人にとってなじみの薄い食べ物だったということだ。牛肉が解禁されたばかりのころは「四つ足のものを食べると早死にする」などと言って、毛嫌いする人も少なくなかったのだとか。
ハヤシライスも同じ理由で縁起悪がられ、「早死にする」という理由で「ハヤシライス」と名付けられたという説があるのだ。すごく人聞きが悪いのだが、よく言えば明治の人たちの価値観が感じられるネーミングである。…よく言えばね!
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ハヤシライスの由来、どの説が有力?
何が正しいかは今となっては分からない。しかし特に有力とされているのはやはり…
- ①の早矢仕有的(はやし ゆうてき)説
- ③のハッシュドビーフ・ウィズ・ライス説
である。筆者としては③の説のほうがより自然に感じられる。今でも「ハッシライス」と呼んでいる人がいるというのが良い証拠ではないか。
【追加雑学①】「ハヤシライス元祖」を名乗る店舗が多い!
あちこちで林さん説でも触れたように…「うちこそがハヤシライスの元祖である」と名乗る店舗は実に多い!
上野精養軒のハヤシライス
前述したように「コックの林さんが考案した」と主張する上野精養軒は、明治5年創業で、日本の西洋料理店の先駆者といえる存在だ。そういった意味では「ハヤシライスの元祖」というのも実は信憑性があるのかも?
以下の動画でお店が紹介されている。ハヤシライスももちろん健在だ!
お店の様子からも格式の高さと歴史を感じさせられる。上野公園内にあるので駅からのアクセスもバッチリだ!
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銀座・煉瓦亭のハヤシライス
また銀座にある明治28年創業の洋食屋さん、煉瓦亭は「ドミグラスソースのハヤシライスはうちが元祖!」と主張する。
創業年から考えても、ハヤシライスの元祖が上野精養軒で、そこにドミグラスソースを導入したのが煉瓦亭…というのは筋の通る話だ。
以下が煉瓦亭の紹介動画である。庶民的な雰囲気の親しみやすいお店だ。
煉瓦亭はオムライスの元祖としても知られている! 紛れもなく、明治期の日本の洋食化に貢献した一店舗である。
うーん…丸善の早矢仕有的説もあるが、やっぱり洋食屋さんは専門家だしなあ…。元祖かどうかはわからないが、ハヤシライスが広まった時期の味を知っているお店という意味で、味わう価値は十分にありそうだ。
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【追加雑学②】実はハヤシライスはカレーライスより古い!?
いつもカレーライスの二番煎じ的な扱いを受けているハヤシライスだが、実は日本における歴史はハヤシライスのほうが古い可能性がある。
カレーが初めて登場した日本の文献は、福沢諭吉が1860年に発刊した「贈呈華英通語」だ。文献内では「Curryコルリ」と書かれていた。また初めてカレーの調理法を記載したものは、敬学堂主人という名義で1872年に出版された「西洋料理指南」である。
一方、ハヤシライスの名前が初登場した文献は、1888年の「軽便整容料理法指南:実地応用一名・西洋料理早学び」だ。
うん…やっぱり二番煎じじゃないか。
…となるところだが、元の呼び名が「ハッシュドビーフ・ウィズ・ライスだった説」を思い出してほしい。
この説が本当なら、ハヤシライスという呼び名に変化するまでには、それなりの年月が必要なはずだ。カレーが登場するより前にこの「ハッシュドビーフ・ウィズ・ライス」があった可能性は十分にある。
いずれにしても出回り出したのはどちらも明治初期の話で、その時期に大きな差はないのだ。
【追加雑学③】カレーライスの由来は?
カレーの由来は、南インドに住むタミル人の話すタミル語の「Kari(カリ)」からきている。その意味は「汁・ソース」で、当たり前だが、辛いからカレーというわけではない。
小学校ぐらいのころは辛いからカレーなのだと本気で思っていたが、そもそも外来語なのに思いっきり日本語で「辛ぇ!」っておかしいよね…。
カレーが辛くなったのはトウガラシがインドに伝わった17世紀のこと。実は辛い食べ物になったのは後々の話で、まったくの偶然なのだ。
その後明治期に入ると、当時インドを統治していたイギリスを経て、カレーは日本へと伝わった。
そのため当時の日本人にとってカレーはインド料理ではなく、イギリス料理という認識だったという。どおりでインドカレーと日本のカレーライスじゃものが全然違うわけだ。
カレーライス特有のとろとろした質感は、イギリス海軍が「揺れる船上でも食べやすいように」と改良したものだとか。たしかにインドカレーはサラサラしていて、スープに近いイメージがある。
「ハヤシライスの由来」の雑学まとめ
今回はハヤシライスにまつわる雑学を紹介した。
ハヤシライスは正直、カレーほどの人気もないし、具材にしても野菜と牛肉がお決まり。カツカレーにシーフードカレー…その他なんでもありのカレーのバリエーションにも敵わない。
…しかしその上品な味わいはカレーには出せない唯一無二のものだ。二番煎じなんて言わないで、もっと愛されてしかるべきである!
……よし、今日のランチはカレーにしよう!!
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