多数決を採るときなど、数字をひとつずつ数えていく必要がある場合、私たちはなぜか、いつも「正」の字を使う。
なんで正の字? などと聞かれても、日本人なら物心ついたころから、正の字で数える習慣は身に付いているもので、「数えやすいから」としか答えようがない。
うん、一目見て「これ一個で5」とわかる正の字はとにかく数えやすい。
というか昔の人が正の字で数えるようになったのも、きっと大した理由なんてなくて、単に数えやすいからじゃないか。
…なんて思っていたのだが、どうやら昔の人は数を数えるのに正の字は使っていなかったという。なんでもいろいろ不都合があって、中国からその用法を輸入したというが…?
今回はそんな数字を数える際の「正」の字にまつわる雑学を紹介しよう!
【生活雑学】数を数えるときに「正」の字を書く起源は、中国の清時代
【雑学解説】江戸時代までは違う文字を使っていた!
正の字で数を数える方法には、実は「画線法(かくせんほう)」という正式名称がある。みんなだいたい「正の字で数えよう」なんて言いながら書き出すので、知らない人も多いと思うが。
「かくせんほう」と打って変換しても一発で出ないあたり、よほどマイナーな正式名称だ。
日本でこの画線法が用いられるようになったのは、いつの話か?
もっと昔から使われていた可能性はあるが、史料として残されている限りでは、日本最古の和算書『算用記』に記されているのが最初だという。
算用記は安土桃山時代~江戸時代初期に作られたものなので、西暦でいえばだいたい1600年前後。つまり日本では今から400年ほど前には画線法が登場していることになる。
しかし…この算用記に記された画線法は、実は正の字を使ったものではない。
当時使われていたのは「玉」の字である。
現代の感覚からすれば「なんかわかりにくくねーか?」という感じだが、当時としては玉を使うのが一般的だったのだろう。
理由としては「そろばんの玉から連想した」「宝石なども玉というし、なんか縁起がいい」など、諸説あるが、正確にはわからない。
我々にしても正の字を使う理由を「数えやすいから」ぐらいにしか思っていないのだし、玉の字が使われていたことにも、実はちゃんとした理由なんてなかったりして…。
問題はここからどうして正の字になったのか? ということだ。
正の字が採用された理由は?
どうして正の字に変わったかに関しても理由は諸説あるが、どうやら玉の字の最後の5画目が「点」であることが問題だったらしい。
江戸時代の人は字を書くときに墨を使う。もし墨が滴って紙の上に落ちれば、この玉の字の最後の「点」と一見見分けがつかないんじゃないか。…わざと墨を落としてズルをするヤツなんかもいそうだ。
というか単純に紙が汚れていたりしても、5画目の「点」と間違えて数えてしまいそうである。
そのため打開策として中国清王朝ですでに、数のカウントに使われていた「正」の字が使われるようになったというのが、有力な説だ。
ちなみに今でも中国や韓国といった漢字圏では、正の字が一律で使われているぞ。うん、全部を直線で書ける正の字のほうがやっぱりわかりやすいしね!
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【追加雑学①】正の字は「せいのじ」?「しょうのじ」?
ネット界隈の意見を見ていると、正の字の読み方は「せいのじ」か「しょうのじ」どっちが正しいの? みたいな疑問を口にしている人をよく見かける。
これに関してはツイッター上でもアンケートを取っている人がちらほらいて、だいたいは「せいのじ」に軍配が上がっているぞ。
個数とかカウントする時に使う正の字の読み方
— アリア (@Mio010kattyosan) November 9, 2016
「正の字」読み方は?
— 渡部志穂 (@shiiiiii24) February 12, 2016
しかしこれはあくまで「せいのじと読む人が多い」というだけの話で、その読み方が正しいという話ではない。
実際のところカウントする方法に「画線法」という名前はあっても、書かれている正の字をどう呼ぶかは決められていないのだ。記号みたいなもんだし。
よって「せいのじ」でも「しょうのじ」でも、もっといえば「ただしいのじ」でも、どれも正解である。
【追加雑学②】正の字以外の画線法もある
数字を数える目的としては、正の字以上にわかりやすい漢字などもはや存在しない。しかし世界を見渡せば漢字を使う国のほうが少ないわけで、そういった海外諸国には、正の字以外の画線法がある。
ここではそんな海外の代表的な画線法をいくつか紹介していこう!
アメリカ・ヨーロッパ・オーストラリアの画線法
世界的に見ると一番ポピュラーなのが、この「Tally(タリー)」という画線法である。4までを縦線で数えて、5画目の横線で一区切り。なるほど、これもわかりやすい。
南米で使われる画線法
南米では升の記号にそっくりな画線法を使う。これは日本人でもなじみやすそう。
このほかに五芒星(星マーク)を使って数える、ちょっとオシャレな画線法もあるぞ!
10画を数える画線法も…
5画で一区切りとするものもあれば、10画を一区切りにする画線法もある。
- 五芒星を書いて、さらにそれを五角形で囲む
- 「4つの点+4つの線+2つの対角線」
のように書くものや、イタリア・シチリア島なんかでは以下のような画線法もあるという。
昨日べったにあげた正の字ペッシ、描く前にイタリアの画線法調べたらヨーロッパはタリーと出たのでそうしたんだけど、シチリアの画線法がやたら物騒で昔の首吊りゲームみたいだなって思った
タリーもシチリア流も本当の所どうなのか分からないからイタリア人の人教えてほしい… pic.twitter.com/P19I8q2ZiB— SS (@SsKasugaharu080) June 1, 2019
これマジなの? めちゃくちゃ物騒というか、わかりにくいだろこんなの…。
このほかにも、3画・6画・12画を一区切りにした画線法もある。そんなの日本人からすれば違和感しかないが…、ヨーロッパ諸国のように12進法になじみがあれば自然なのかも。
【追加雑学③】「正」に代わる漢字は?
「正」の字は間違いなくカウントに向いている漢字だといえるが、果たして本当に「正」がベストなのか? 言うまでもねーだろ…という感じだが、もしかしたらということもある。
というわけで、「正」に代われそうな漢字も考えてみたぞ!
画線法に使いやすいポイントとしては…
- 5画
- 直線のみ
- すべての線が触れ合っている
ということである。
上記を満たす漢字だと、ざっと以下のようなものが挙げられるぞ!
- 立
- 生
- 本
- 矢
- 丘
- 未
…うん、自分で挙げといてなんだが、どれもぱっと見で「5」という感じがしない。やっぱり数を数えるなら正の字が一番である。
そ…それをはっきりさせるための検証だからな!
雑学まとめ
今回は数を数える際に使う「正」の字についての雑学を紹介した。
正の字で数を数える方法は、江戸時代に中国からやってきた。以降、この漢字以上に適した字は現れなかったわけだし、最初に正の字で数えようと考えた人はほんとにすごい!
今度正の字を使うときはぜひ、中国の風を感じて…というのは、さすがにちょっと無理があるか…。