1967年から1973年まで連載された『あしたのジョー』は、その後のボクシング界やボクシング漫画に多大な影響を与えた、戦後最大のヒット漫画に数えられる伝説的な作品だ。
中でも主人公・矢吹丈のライバル、力石徹は作中屈指の人気を誇るキャラクターである。
力石は話の途中で死亡してしまうが、人気が落ちることを恐れた編集者が殺さないように提案し、作者と揉めたエピソードも有名だ。
そして力石ほどの人気キャラが死ぬことになったのは、なんと漫画家の設定ミスが原因だという意外な雑学がある。
【サブカル雑学】「あしたのジョー」の力石徹は漫画家のミスで死ぬことになった
【雑学解説】力石徹は初登場時に大柄に描かれたせいで死んだ
あしたのジョーの力石徹は、主人公・矢吹丈の終生のライバルである。ジョーがプロボクサーになったきっかけであり、ジョーにとって力石と戦うことは生きがいであった。
最終的にプロのリングでの試合は力石の勝利となったものの、試合後に彼が死亡するという衝撃の展開は有名だ。実は、この力石の死は漫画家の設定ミスが原因であった。
作画を担当したちばてつやは当初、力石をジョーの少年院時代のライバルとしか考えていなかった。その強さを表現するため、このとき力石はジョーと比べてかなり大柄な体格に描かれた。
一方、原作者の高森朝雄(たかもりあさお)は、ちばてつやの描いた力石の顔を気に入ったため、彼をその後も活躍する重要キャラにしたという。
しかし…体格がそれだけ違えば、ボクシングの試合で戦うのは現実的ではなくなってしまう。そう、力石はジョーとボクシングの正式な試合をする予定がないゆえ、大柄なデザインでも大丈夫だった。そのはずが、試合をさせないわけにはいかない展開に変わってしまったのだ!
こうして力石はジョーと同じ階級で戦うために、過酷すぎる減量を強いられることになったのである。
水の日、脱水症に気を付けてコマメに水分補給ですけどね。しかし、力石徹のあの減量は過酷でした。
#あしたのジョー pic.twitter.com/LH0UTYtuuc— 川蝉☆奇蹟の月 (@kawasemi_11) August 1, 2019
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ジョーと力石徹の出会い
せっかく"終生のライバル"と紹介しているので、ここでジョーと力石の関係性についても少し触れておこう。
前述したように、ジョーと力石は少年院のなかで出会った。ふたりとも相当な不良少年だったのか…? と思うが、少年院に入った理由はそれぞれ印象が異なる。
ジョーは天涯孤独の不良少年で、のちに彼のトレーナーとなる丹下段平の住むドヤ街で詐欺事件を起こして捕まった。
一方、力石はデビューから13連続KOを飾る無敵のプロボクサーだったが、観客の野次にキレて暴力事件を起こしたがために少年院送りとなっている。一刻も早く復帰したいという想いが強く、少年院では模範囚とされていた。
このふたりのあいだに因縁が生まれたのは、ジョーが少年院を脱走しようとしたことがきっかけである。少年院で飼われていたブタを暴れさせ、脱走を試みたジョーを、力石が取り押さえるのだ!
「ブタパンチ」というのはもともとは漫画「あしたのジョー」で矢吹ジョーが少年院の豚小屋を壊しどさくさで脱走を企てようとしたところを阻止した力石徹の必殺技の名前で名付けの親は作者・ちばてつやである pic.twitter.com/JXpNaxS1Jn
— カタオカツグミ (@tsugsan) November 17, 2017
暴れ回るブタもジョーも構わず殴り飛ばす。(※大人のブタは普通に体重300kgぐらいある)
その後、再び院内でふたりが揉めそうになった際、丹下段平の提案でボクシングで決着をつけることに。このとき試合に備えての特訓で力石は牛をフルボッコにしている。(※大人の牛は体重700~1,000kgぐらい)
@kojiharunyan
少年院での矢吹ジョー対力石徹。初戦を控え、暴れ牛を相手にトレーニングする力石徹☺💋💋👪 pic.twitter.com/XHKzRZaVjl— 北澤利光 (@ezXUUSrJbhHt317) March 21, 2019
いろいろとツッコミどころ満載な力石さんだが、問題はジョーとの試合だ。
このときの試合では、力石が1分以内にジョーをKOすると宣言。ジョーはボクシング経験がないので力石の宣言は当然ともいえるが、なんと彼は力石にボコボコにされながら1分間耐え抜いてみせたのだ! …牛よりタフ!
逆上した力石はそのままジョーに猛攻を続けるが、なんとトドメの一撃にジョーがクロスカウンターを合わせてダブルノックダウンという結果に。こうしてふたりの因縁は、退所後のリングへとつながっていくのである。
実際に減量を行えば死んでしまうほどの階級差だった
作中で力石はウェルター級からバンタム級まで減量している。
ウェルター級は63.503~66.678kg。対するバンタム級は52.163~53.524kgで、力石は少なく見積もって10kgは減量しなければいけなかったことになる。
この減量についてちばてつやがプロのトレーナーに相談したところ、「そんなことをしたら死んでしまう」といわれたそうだ。そこから現実的な展開にこだわるため、力石を殺すことが決まったのである。
力石の減量は作中で少しずつ階級を落としていくことで、顔つきが変わっていく様子まで丁寧に描かれている。
ストーブを炊いた地下室に籠り、1日の食事はリンゴ1個。水は飲まない。自主的には地下室から出られないよう、外側から施錠するという徹底っぷりである。
発狂しかけて扉をぶち破り、地下室から這い出ても水道は針金でグルグル巻き。所属ジムの令嬢である白木葉子にこれ以上の減量はやめてほしいと諭されるが、葉子の気持ちに触れて諦めかけた減量への決意を固める。
…このストイックさと、意志の強さ。人気にならないわけがない。
試合に臨むシーンでは減量の過酷さを表すように凄みのある表情を見せているが、体はガリガリ。頭部を殴られ、頭をロープに打ち付けたことが直接の死因だが、無理な減量で体が弱っていたことが一因になったのは作者も認める事実だ。
10/5 おはようございます。涼しくなったら、少し心身が復活した感じ?こうゆう新鮮な朝っていいですね。今日も良い一日をお過ごし下さい。
☆ あしたのジョー 力石徹のテーマ
☆ https://t.co/Wx63LJqKS1 pic.twitter.com/tHNzC8o2Vb— 里芋☆もろこし村 (@satoimo23) October 4, 2017
力石のアッパー戦法は、ジョーお得意のカウンターを封じるため。マジで骨と皮しかない感じなのによくジョーに勝ったよね…。
【追加雑学①】原作者が力石を殺すと叫んだせいで警察沙汰に
力石は主人公以上に人気があったため、殺してしまうことに反対する声も多かったという。しかし、ちばてつやは力石を殺すことにこだわり続けた。
バーで力石の扱いについて話し合った際には、原作者の高森朝雄が「絶対に殺す!」と叫び、警察に通報される騒ぎになったのだとか。白熱しすぎ…。
力石が死んだ後の1970年3月24日、実際に告別式が行われ、多くのファンが参列したのも有名な話だ。以下の動画はそのときの様子である。
現代では考えられないが、時代というものだろう…。
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【追加雑学②】あしたのジョーの最終回でジョーは死んでいない
力石のみならず、あしたのジョーの最終回では、ジョーまでも死んでしまったといわれることが多い。
ジョーはこのとき、世界チャンピオンのホセ・メンドーサと試合をし、ホセが恐怖で白髪になるほどの攻撃を展開するが、試合には負けてしまう。
真っ白な姿に描かれたジョーが「燃え尽きた…真っ白にな…」と言い残すシーンで作品は完結し、その描写からファンの多くは"ジョーが死んだ"と受け取ったのだ。
下の動画はパチンコの演出だが、内容としては原作やアニメと同じものである。
ちばてつやは、このシーンを描いたことで本当に燃え尽きてしまい、しばらくジョーを描くことができなくなったという…。キャラクターに対する思い入れの強さを感じさせる逸話だ。
ただ、作中でジョーが死んだとは一度も明言されていないし、実は続編の構想もあった。またジョーの姿はどうしても死んだようには見えないというファンもおり、その真意は長らくわからないままだったのだ。
現在はテレビ番組で、ジョーが静かな余生を送る場面を描いたちばてつや直筆のページが公開されており、試合で死んだわけではないことがはっきりしている。
あしたのジョーラストカットで大方の人は同じ事を思っていると 確かにアニメ版の丹下段平や白木葉子をはじめ観客の様子から同等の事を連想するけど その後のカットが出て来たりしてるので オイラ的には「ボクサー 矢吹丈の最期」と思う様にしております(力石徹みたく葬儀してないし) pic.twitter.com/P2V88V9lVQ
— ヤジャ (@yaja_0811) May 26, 2019
ただ、明らかにしなかった期間が長かったので、あえて曖昧なままの方が良かったという意見は少なくない。
雑学まとめ
「あしたのジョーの力石徹は漫画家の設定ミスで死んだ」という雑学をご紹介した。
大柄に描かれすぎたために死ぬことになってしまった力石。しかし作中屈指の名シーンといえるストイックな減量シーンは、彼が大柄でなければ生まれていなかった。
力石はその体格ゆえに人気になり、その体格ゆえに死ぬことになってしまったということだ。
人気絶頂のキャラクターをあえて殺してしまうという作者の思い切りのよさも、あしたのジョーが名作と呼ばれるゆえんではないだろうか。