キリスト教社会では、悪魔と契約した者を魔女と呼び、背教者とする習慣がある。中世のヨーロッパでは、こうした背教者を裁判にかけて、尋問を繰り返してきた。歴史に名高い「魔女狩り」である。
魔女狩りの対象となるのは、女性のみならず男性にも及んだ。その代表的な裁判のひとつといえるのが、17世紀のアメリカで開かれた「セイラム裁判」である。
この記事では、17世紀のアメリカにおいて開かれた魔女裁判の真相についてご紹介する。
【歴史雑学】「セイラム魔女裁判」の悲劇とは?
【雑学解説】「セイラム魔女裁判」の犠牲者の多くが魔女であることを否定していた
魔女裁判とは、悪魔と契約を交わした者を裁判にかけて、摘発・投獄・拷問,刑罰を科した一連の迫害のことをいう。キリスト教では、悪魔に仕えて得た呪術で人々に事故や災いを招く者を魔女と呼んだ。
そのことから、女性に限らず、男性も魔女の対象とされたのである。魔女裁判は、15世紀末から17世紀のヨーロッパでさかんにおこなわれ、その犠牲者は4~6万人に及んだとされる。
同様の裁判はヨーロッパのみならず、アメリカでも開かれている。アメリカ・ニューイングランド地方のマサチューセッツ州で開かれた「セイラム魔女裁判」である。
この裁判では、200名近い村人が告発され、多くの犠牲者を生んだ。そのなかには男性の犠牲者も含まれていた。今回調べたかぎりでは、男性の犠牲者がどれぐらいの人数にのぼったかは分からなったが、少なくとも村の地主だったジョン・プロクターという男性が含まれていた。
彼は裁判中に魔術を使った疑いで有罪判決となり、絞首刑となっている。
魔女裁判が開かれた経緯
事の発端は、村内の牧師の娘ベティと従姉妹アビゲイルという2人の少女が、友人らとともに降霊会に参加したことにあった。
その会のさなか、少女たちが突然暴れだし、奇妙な行動をとって周囲を騒がせた。後日、医師らは少女の奇怪な行動を悪魔が憑依したことに原因があるとの判断をくだした。
以降、降霊会の参加者であった多くの少女たちが、次々と異常な行動をおこすようになる。異常な行動をとったのは、いずれも村内に住む10代の娘たちであったとされる。
関係者の証言から、3人の少女が事件に関係していることが明らかになった。裁判が進むさなか、事件に関与した人物が次第に明るみになり、逮捕者は150人近くにのぼったのである。
そのなかに村の地主、ジョン・プロクターが含まれていた。この事件では、1人の被告人の裁判に長時間を要したため、裁判が実現したのは3分の1にも満たなかったという。それだけ大多数の人たちが巻き込まれたのである。
後世、この裁判で犠牲になった者たちは、悪魔が憑依したのではなく、パニック症や集団幻覚などに原因があったとされる。さらに魔女裁判で刑に処せられた人物たちは、全員が魔女であることを否定していた者たちだったという。
皮肉なことに、魔女であることを自供した者は一人も絞首刑になっていなかったのだ。何ら罪のない人々が関係者の証言のみによって裁判にかけられ死刑になった、忌まわしい事件である。
ちなみに、セイラム魔女裁判を題材にした『るつぼ』という戯曲があるが、とてもいい作品だ。
【追加雑学】かつて動物裁判というものがあった
裁判にかけられる対象は何も人間だけに限らない。その対象は動物や植物にも及んだことをご存知だろうか。
13世紀~18世紀のヨーロッパでは、人間に危害や損害を与えた動物は、裁判にかけられて処罰されたのだ。通称「動物裁判」と呼ばれている。
裁判にかけられたのは、ブタ・ウシをはじめ、ネズミやミミズなど、大小さまざまな動物たちだった。裁判では、動物たちを弁護するために弁護士が付いたという。
その嫌疑には、人を殺した罪・農作物を荒した罪・魔術にかかわる罪、などがあったという。また昆虫や植物にも、同様の嫌疑がかけられて裁判が開かれたそうである。
もちろん現代においては、こうした事件が起こった場合、管理者の責任が問われることになるだろう。いくら宗教の影響が強いとはいえ、現代では考えられない事例である。
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雑学まとめ
以上、魔女裁判で男性が犠牲者になっていた雑学と、中世のヨーロッパで、人間に危害や損害を与えた動物が裁判で裁かれた雑学についてご紹介してきた。
裁判で有罪になった人々は、全員が魔女であることを否定していた者たちだった。皮肉なことに、魔女であると自供した者は、ひとりも絞首刑になっていなかったのである。
宗教の迷信や先入観によって生じた「魔女裁判」。情報が氾濫する現代も、こうした先入観や固定観念は何かと生じやすい。この史実を過去の教訓としたいものである。