手にすることができない、あるいは手にするべきではないと禁じられていることで魅力が増し、いっそう強い欲望の対象となるものを「禁断の果実」という。
この言葉は旧約聖書の『創世記』に由来している。エデンの園を管理するために、神に生み出されたアダムとイブが追放されるまでを語る章である。
エデンの園には多くの実りがある中で、1つだけ食べることを禁止された実があった。しかし、ヘビにそそのかされたイブはその実を食べ、イブに誘われたアダムも食べてしまう。
その実を食べると2人は裸であることが恥ずかしくなり、イチジクの葉で股間を隠した。その行動によって、食べてはいけない実を食べたことが神にばれ、2人はエデンの園を追放されたのである。
このときに食べてしまった実をさして禁断の果実という言葉がうまれたのだ。ときにこの禁断の果実…一般的にはリンゴだとされているが、実はイチジクではないかという説がある。
【世界雑学】アダムとイブが食べたのはリンゴではなくイチジク?
【雑学解説】旧約聖書では何の果物か明記されていない
実は禁断の果実は、旧約聖書の中では「善悪の知識の木の果実」というだけで、具体的な果実名はでていない。絵画などではリンゴとして描かれていることが多いが、旧約聖書自体に「リンゴ」と書かれていたわけではないのだ。
なんでも禁断の果実=リンゴとなったのは、ラテン語の「malus」という単語のせいらしい。この単語は「邪悪な」・「リンゴ」の2つの意味をもっている。
そのため、ラテン語から翻訳したときに意味を取り違えた・あるいは「邪悪なリンゴ」というように二重の意味があると考えて翻訳されたために、禁断の果実=リンゴという誤解がうまれたと考えられている。
一方、禁断の果実=イチジクとする説はどこからきたのか。それは、アダムとイブが股間を隠したのがイチジクの葉であったことからきていた。こちらは「イチジクの葉」と明記されており、葉があるなら実もあるはず、という流れだ。
またミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂の天井画には、禁断の果実としてイチジクが描かれている。
この「禁断の果実は何の果物なのか」問題は、実は各地で論じられており、地域によってブドウ・トマト・ザクロなどさまざまな果物だと考えられている。
しかし旧約聖書に明記されていない以上、真実はやぶの中だ。
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【追加雑学】絵の中のアダムとイブが持つ果実は画家ごとでちがう
太い幹にぐるりとヘビが巻きつき、イブに禁断の果実を渡している有名な絵画がある。これはイタリア人であるミケランジェロの作品だ。
同時期に、ドイツ人の画家がアダムとイブを描いた絵画がある。そこにはなんと、「りんご」が描かれていた。日本人の多くは、このりんごを用いた絵から強い影響を受けているのではないだろうか。
南イタリアではイチジクがあちこちに自生する
イメージする果実が異なるのは、環境の違いも関係しているようだ。
日本でも地域によっては馴染みが薄いイチジク。だが、イチジクの絵画を描いたミケランジェロの住むイタリア南部の地方では、当たり前に自生している。
しかも日本とはまるで違う、太い幹である。この太い幹にぐるりと巻き付いたヘビを描いたミケランジェロの作品は、インパクトも強く一度みれば圧巻されてしまう絵画だ。
一方、りんごを描いたドイツ人の場合。ドイツはイチヂクが自生する地域ではない。そう、りんごの木の方が馴染みがあり、よく見かけていたのだ。
【追加雑学①】男性ののどぼとけを英語で「Adam's Apple(アダムのリンゴ)」という
男性ののどぼとけを英語では「Adam's Apple」という。その由来は、「アダムが禁断の果実を食べたときにのどにつまらせた」という伝説からきている。
しかし。リンゴ同様、旧約聖書にそのような記述はない。逆にもし、書いてあったら驚きである。英語語源辞典にもこの伝説に関する記述はあるが、その根拠は非常に薄い。つまり出どころのわからない噂が、まことしやかにささやかれているのだ。
結局何も調べても、アダムがリンゴをのどに詰まらせた説の根拠は不明だった。いつか明らかになったら追記したいものだ。
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【追加雑学②】appleはリンゴとは限らない!?
appleはリンゴ、と中学生の頃に習った。しかし、実際はそう確実な話でもないらしい。というのも、リンゴは非常に身近な果物であるため、慣用句的に使われることも多いのだ。
たとえば「the Big Apple」といえばニューヨークを指すし、「the apple of one’s eye」といえば「目に入れても痛くないほどかわいい人」を指す。
また、単純に「実」という意味で使われることもあり、「pineapple」は「松の実」…つまり、まつぼっくりのことである。果物のパイナップルは、まつぼっくりに似ていることからその名がついたのだ。
中学生の頃は知らなかったappleの奥深さに触れ、英語の難しさを痛感する筆者であった。
【追加雑学③】イチジクは「無花果」と書くが、実際は花がある
花を咲かせずに実をつけるように見えるため、中国では「無花果」と名づけられているイチジク。現在では「無花果」という漢字に、日本語の呼び名である「イチジク」を読み仮名として当てている。
しかし、実はイチジクにも花は咲いているのだ。イチジクの実のように見える部分は、実は「花嚢(かのう)」といわれる花を入れる袋なのである。つまり、実だと思っていたものの中に花が咲いているのだ。
初夏になると、イチジクの花嚢の中には無数の花が咲く。そして花が終わると小果(しょうか)といわれる小さな果実ができる。我々が食べているイチジクは、小さな実の集まりなのである。
雑学まとめ
いつのまにか「禁断の果実=リンゴ」というのが当たり前になっているが、旧約聖書には明記されていないとは驚いた。さまざまな言語に翻訳されているだけに、他にもいろいろな勘違いがあるのかもしれない。
辞書に載っている語源に根拠がない「Adam's Apple」にも驚いた。リンゴをのどにつまらせるアダムは、なんだか人間味があるが…。
イチジクに関しては、筆者は見たことがないので、花が咲かないように見えることすら知らなかった。それにしても実の内側に花が咲くとは、不思議な植物である。食べることがあればじっくり観察しようと思う。
禁じられれば禁じられるほど甘く思える禁断の果実。手を出すとろくなことがないことは肝に銘じておこう。