どこの家に行っても、台所に必ず置いてあるサランラップ。もはや生活必需品と呼んで過言ではないアイテムである。
しかし…あなたの家にあるのは、ほんとにサランラップだろうか。実はラップのなかでも、サランラップと呼べるものは限られている。え…サランラップじゃないラップもあるってこと? それってどういうこと?
さらにこのサランラップという名前の由来にも、おもしろいエピソードが隠されているぞ! 今回はそんなサランラップの語源に関する雑学だ!
【生活雑学】サランラップの語源は人の名前
【雑学解説】サランラップと呼べるのは旭化成とダウ・ケミカル社が作るものだけ。その由来とは…
まず、あなたは"サランラップ"が、日本では旭化成ホームプロダクツから販売されているラップだけだということを知っているだろうか。そう、サランラップというのはアメリカのダウ・ケミカル社と、旭化成が共有する登録商標。つまりは商品名だ。
この2社以外が販売しているものはサランラップではなく、また別の商品名がある。有名なのはクレハから出ているクレラップ。このほかのラップも合わせて、総称は食品包装用ラップフィルムだ。
要するに、お使いを頼むときにメーカーを特に問わないなら「サランラップ買ってきて~」ではなく「食品包装用ラップフィルム買ってきて~」が正解である。…まったくもって伝わる気がしない。
以下はサランラップのCM動画だが、商品名じゃなきゃ、「サランラップだよ」とここまで連呼しないよね。
…それはいいとして、本題はこの旭化成が販売するサランラップという商品名の由来である。
サランラップの由来は開発者の妻の名前
サランラップの商品名については、旭化成ホームプロダクツの公式サイトにて、以下のように説明されている。
ある日、フィルム製造メーカーの職長を務めていたラドウィック、アイアンズの二人は、妻を伴って近所の人々とピクニックに出かけました。
ラドウィックの奥さんは、たまたま夫が会社で作っていたフィルムにレタスを包んで持っていきました。すると「このラップとてもきれい。どこで手に入れたの?」「私も欲しい。どこで売っているの?」と大変な評判になってしまいました。そこでラドウィック、アイアンズの二人は驚き、早速翌日上司に報告し、クリング・ラップ・カンパニーを設立して開発に着手し、ダウケミカル社から取り寄せた樹脂のロールを紙管に巻き付けて箱詰めし、サランラップ第1号が完成したという訳です。
完成すると近郊の都市でも試験的に販売され、結果は上々でした。名前もラドウィック、アイアンズの二人の妻サラ(Sarah)とアン(Ann)にちなんで「サランラップ」と決定されました。(出典:サランラップ®の歴史)
そう、サランラップの由来は開発者2人の妻の名前。サラ(Sarah)とアン(Ann)でサランラップなのだ!
ピクニックにレタスを持っていくため、会社で作っていたラップフィルムを使ったことがきっかけだったとは…。
ん? ということは、そもそもラップは食べものを保存するために開発されたわけではないということか?
サランラップは戦争のために開発された
食品の保存に使われる以前のラップの用途についても、旭化成ホームプロダクツの公式サイトで以下のように説明されている。
この合成樹脂は、太平洋戦線で兵士を悩ませた蚊から身を守るための蚊帳、ジャングルを行進する兵士を水虫から守る靴の中敷き、銃や弾丸を湿気から守るための包装フィルムなどが、主な用途だったそうです。(出典:サランラップ®の歴史)
なんと、サランラップの原型である合成樹脂「ポリ塩化ビニリデン」は、20世紀初頭のアメリカで開発され、主には戦場におもむく兵士の衛生面や、兵器の保管に利用されていたのだ。
そして戦争が終わり、役目を失いつつあったラップの新たな活用法を見出したのが、製造メーカー職員の妻だった。技術者には思いつかない主婦ならではの観点が、世紀の発明を生み出したのだ!
【追加雑学①】アメリカではサランラップの由来に異説が唱えられている
1950年代に入り全米で展開されたサランラップは、この数年後に日本にやってくることになる。
1952年旭化成とダウ・ケミカル社が提携し、「旭ダウ株式会社」を設立(後に旭化成工業と合併)。サランラップの登録商標も共有され、1960年から日本での販売が開始された。
つまり旭化成の公式サイトに載っているサランラップの由来は、本家であるダウ・ケミカル社に限りなく近く、信憑性があるように思える。しかし…アメリカのWikipediaではなんと、以下のような異説が唱えられているのだ。
John Reilly (Ralph Wiley's boss)[4] and Ralph Wiley of The Dow Chemical Co. completed the final work needed for introduction of PVDC, which had been invented in 1939.[5] PVDC monofilaments were also extruded for the first time.[6] The word "Saran" was coined by a combination of John Reilly's wife's and daughter's names, Sarah and Ann Reilly.(出典:Wikipedia-Saran(plastic))
開発者2人の名前は「ジョン・レイリー(John Reilly)」と「ラルフ・ウィリー(Ralph Wiley)」。さらにサラはジョンの奥さん、アンは娘の名前だと書かれている。
ラルフへのインタビューが載った新聞記事がソースになっているので、信憑性もたしかである。
…なんで旭化成の説と違ってるんだ? ラドウィックとアイアンズはどこへ行った…?
非常に不可解だが…とりあえず、技術者の奥さんが考えたというのはほんとの話。違っているのは名前だけということで、旭化成にエピソードが伝えられる過程で勘違いがあったのかも。
【追加雑学②】日本で初めて販売されたラップは「クレラップ」
日本でラップといえば俄然サランラップだが、実は日本で最初に販売された食品包装用ラップフィルムは、呉羽化学工業株式会社(現・株式会社クレハ)の「クレラップ」である。
「クレラップ」の発売は1960年(昭和35年)7月のことで、サランラップより数ヶ月ほど早かったのだ。アメリカで話題になっていたラップにクレハが目を付け、旭化成とは別に開発を進めていたのだろう。
しかし当時のこと、冷蔵庫の普及率はまだ低く、保存に使うラップの用途も一般層にいまいち伝わらないという難題があった。
そこでクレハは、デパートに冷蔵庫を買いに来た客に対し、カットしたスイカを包んで冷蔵庫に保存する実演販売を行ない、クレラップの普及に努めた。
ラップの実演販売ってすごいな….。当時はそれぐらい、使い方が想像できない道具だったわけだ。時代を感じさせられるなあ。
なお、クレラップは1989年(平成元年)に「NEWクレラップ」としてリニューアル。ユーザー目線からの細かい改良を加えて、現在も続くロングセラー商品となっている。
うん! 今もサランラップとクレラップは間違いなく、ラップ界の二大巨頭だ。
その歌もおなじみだけど、最近のクレラップのCMもまたメッセージ性があっていいぞ! …とりあえず、めっちゃええ旦那。
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【追加雑学③】まだまだある!一般名称ではなく商品名だったアイテム
サランラップのほかにも、商品名なのにまるで一般名称のように名前が使われているアイテムはけっこうある。以下より代表的なものをいくつか紹介しよう。
オセロ
ボードゲームのオセロは、株式会社メガハウス(かつては株式会社ツクダオリジナル)の登録商標である。そう、オセロは日本で誕生したゲームであり、海外では「リバーシ」と呼ばれている。
つまりリバーシが一般名称になるのだが…厳密にはオセロとリバーシは別のゲームだともいうぞ?
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タッパー
食品の保存に使うタッパーは、実は登録商標である。タッパーウェア社が販売しているもの以外のプラスチック容器は、タッパーではなく、あくまで"食品保存用のプラスチック容器"である。
まあ、プラスチック容器をタッパーと呼ぶ人に「それ、タッパーじゃないけどね」などと言えば、逆に変なヤツだと思われそうだけど…。
エスカレーター
エスカレーターは、1900年にオーチス・エレベーター社によって商標登録された商品名である。…え、じゃあエスカレーターじゃないエスカレーターもあるの…?
これに関しては、"昔はそうだったのかもしれない"という、曖昧な答えをせざるを得ない。
実は1950年に裁判が行われ、オーチス社は商標を放棄することになったのだ。裁判では「エスカレーターという言葉は、特定の商品ではなく普通名詞として長い期間使用されていた」という点が指摘された。
裁判に負けているということは、エスカレーターはそもそも一般名称だったとも捉えられるし…、裁判以前は商品名だったとも捉えられる。…非常に微妙なラインである。
で、エスカレーターと呼ばないならなんと呼ぶかというと"自動階段"だ。…うん、エスカレーターでいいや。
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タバスコ
アントニオ猪木が初めて日本に持ち込んだことで有名なタバスコも、実は商品名である。
タバスコソースは、メキシコのタバスコ州原産のトウガラシを使用した辛味調味料であり、アメリカのマキルヘニー社が商標を持っている。
一般名称としては「トウガラシを使用した辛味調味料」といったところ。…一瞬なんのことかわからないよね。
雑学まとめ
今回はサランラップという商品名の由来を始めとする雑学を紹介した。
サランラップの由来は開発者の大切な家族の名前。これはたしかに、ほかの商品と一緒にするわけにはいかない!
…でも、一般名称と勘違いされるぐらい日本で浸透していることは、奥さんたちもきっと嬉しいはずだから…まあいいか。
ほかにも、今までなにげなく呼んでいた商品名を調べてみると、まだまだ意外な発見があるかも!
個人的には、「熱冷まシート」や「のどぬーる」など、個性的な商品名をつける小林製薬のネーミングセンスについて興味津々なのだが…。