「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」
このセリフを聞いて私が想像するのは、高貴な女性が、飢餓に苦しむ民をバカにするように言い放った、傲慢な姿である。
そして多くの日本人が思い浮かべるのは、派手な髪飾りをつけたマリー・アントワネットだろう。しかし、この言葉には大きな誤解があった。
今回の雑学記事では、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」…この言葉の真実をお伝えしよう。
【歴史雑学】「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」の本当の意味とは?
【雑学解説】誤解された 「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」の意味
1788年フランスでは、小麦不足によってパンの生産ができず、深刻な飢饉に見舞われていた。この飢饉は、その後「小麦粉戦争」の名で歴史に残る、大規模な暴動をも引き起こすほどであった。
パン不足に苦しむ民に向かって、あるたいへん高貴な女性が、こう言い放った。「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と。
しかし、この「お菓子を食べればいいじゃない」の部分に、大きな誤解を生む秘密が隠されていた。
フランス語では「Qu'ils mangent de la brioche!」と書き、直訳すると「ブリオッシュを食べればいいじゃない」となる。
マリー・アントワネットのいう「お菓子」とは?
ブリオッシュとは、当時の価格の安い小麦の品種で作られたものである。原材料が小麦・バター・卵・砂糖であり、小麦の使用量も普通にパンを作るより少ない。
ミルクや砂糖が使われたパンのことを、当時はケーキやお菓子と呼んでいた。これが、誤解を生む原因である。
つまり、小麦が不足してパンが作れないのなら、価格の安い小麦で作れるお菓子(ブリオッシュ)を食べれば、飢餓がしのげるのではないか、といった意味である。
実際、ブリオッシュの価格は当時のパンの半分ほど。悪い言い方になるが、「生活が苦しいのに、なぜ高価な食事を選ぶのか。身の丈に合った生活をしなさい」という意味だと考える。
こう考えると「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」というセリフは、常識的で理にかなった言葉である。
ちなみに、当時のフランスの法律には「パンの価格が高騰した場合は、ブリオッシュと同等の価格まで下げるように」と記載されている。
現代だったらブリオッシュの方がバターと砂糖を使っているので全然高そうだが、当時のフランスでは違ったのだろう。
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【追加雑学①】「パンがなければ〜」は、マリー・アントワネットの言葉という記録はない
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったのは「あるたいへん高貴な女性」と説明したが、実は、マリー・アントワネットが言ったという記録は残っていない。
この言葉が最初に登場したとされるのが、フランスの哲学者であるジャン=ジャック・ルソーが残した自伝的著書『告白』の中の一文である。
出版されたのは1782年であるが、この本が書かれたのは1765年。当時のマリー・アントワネットはわずか9歳であり、フランスに嫁ぐ前であった。
嫁ぐ前? 民衆が嫁ぐ前の娘の話を大々的に聞いたのだろうか?
しかも、「告白」の中でも「たいへんに身分の高い女性」が発した言葉とされており、マリー・アントワネットが言ったなんて、一言も書いていない。
嫁ぐ前にしゃべったって、王妃でも何でもないのだから、気にするようには思えない。そのうえ書かれた当時の身分から見ても、マリー・アントワネットが発したと考えるには無理があるのではないだろうか。おそらくガゼネタだったのだろうと思われる。
なぜマリー・アントワネットの言葉と誤解された?
ではなぜ、マリー・アントワネットが言ったと誤解されているのか…これには、多くの仮説があり、真相の究明には至っていない。
たとえば…
- 飢饉などによる市民の不満から噂が作られ、王妃(マリー・アントワネット)が言ったという話になって広まった。
- ルソーの『告白』を読んで「たいへんに身分の高い女性」はマリー・アントワネットを指すと勘違いした雑誌記者が書いた、など
また、そもそも誰が言ったのかに関しては、さらに多くの憶測が飛び交い、終いには「パンがなければお菓子を」なんて言った人はいなかったという説まである。
今のところ真相は定かではないが、飢饉などによる市民の不満から噂が作られ、マリー・アントワネットが言ったという話になって広まったのではないかと、私は考える。
【追加雑学②】美味しいブリオッシュの作り方【動画】
言葉の意味がわかったところで、この有名なセリフに出てくる「ブリオッシュ」とは、どのようなものなのか、気になる。
ホームベーカリーがなくても、自宅でできるブリオッシュの作り方をYoutubeで発見! その動画がコチラ。
パンよりも安価なお菓子とされているが、美味しそうな菓子パンである。ホームベーカリーがある場合は、発酵までの手順を機械に任せれば良い。
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」の雑学まとめ
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」についての雑学、いかがだっただろうか。このセリフを聞いた時、なんて傲慢で、知識の乏しい人が発する言葉なのか、と誤解していた。
「身の丈にあった生活をせよ」とは、当時のフランスだけでなく、現代の私たちにも、十分通用する言葉である。
見栄なんて張らず、身の丈にあった生活こそが、一番幸せなのではないかと考えさせられた。
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