フランス王妃「マリー・アントワネット」の首を落としたギロチンは、残酷なイメージに反して、実は「苦しまずにすぐ死ねる」よう、人道的な処刑装置として開発されたものだった。
なにしろ、それまでは四肢切断に火あぶり、内臓えぐり出し…。受刑者は処刑開始から絶命するまで、長時間にわたって苦しまなければならなかったのだ!
しかし、残酷の基準は時代によって変化する。かつては人道的とされたギロチンですら野蛮な道具とされ、さらに人道的な手段として電気椅子や薬物注射が考案された。
しかし、「人道的」だからといって、ギロチンのように即死をもたらしてくれるかというとそうではなく…。
今回の雑学では、電気椅子にまつわるショッキングな史実をご紹介しよう!
【歴史雑学】電気椅子の歴史と初死刑の悲劇
【雑学解説】電気椅子で人道的な処刑のはずが…結果は地獄絵図
電気椅子を考案したのは、アメリカの歯科医のアルフレッド・サウスウィック。1881年、電線に触れて即死した酔っぱらいをたまたま目撃し、「電撃って死刑に使える!」とひらめいたのだ。目の付け所がすごい…。
当時主流だった絞首刑の廃止論が高まっていたこともあり、サウスウィックはニューヨーク州とも連携して、「残酷な絞首刑に代わる、人道的な処刑装置」を作るべく尽力した。
ここに絡んでくるのが、なんと、かの天才トーマス・エジソン! 交流電流で感電死した技術者の事故についての記事を読み、「交流電流って危ないんじゃね?」と思った彼は、とんでもないことを思いつく。
直流電流を推進している自社のライバル・ウェスティングハウス社を陥れるため、同社の交流電流を電気椅子に使えばいいと州に売り込んだのだ!
エジソンは技術者の事故死の記事を書いた発明家ハロルド・ブラウンを雇い入れ、感電死の研究と電気椅子の開発に励ませた。そして、試作品を用いた動物の感電死ショーを各地で行い、民衆に訴えかけたのだ!
「消費者の皆さん、ウェスティングハウスさんの交流電流は死んじゃうくらい危ないんですよ! そんなとこの電力なんて使いたくありませんよね?
しかも犯罪者を処刑するのと同じ電気が家に流れてくるなんて、なんか嫌~な気持ちになっちゃいますよね? それに比べてうちの会社は直流電流を採用してるんで安全ですよ~!」
天才、やることが卑劣! このネガティブキャンペーンは大成功し、ついに人道的な処刑装置・電気椅子の使用が1889年に採択されたのだ!
初の死刑執行、その結末は悲惨だった
そして翌年8月6日、ニューヨーク州オーバーン刑務所で、電気椅子による初の死刑執行が行われた! 選ばれたのは、前年に妻を手斧で殺害したウィリアム・ケムラー。
おとなしく椅子に固定された彼の身に、1000ボルトの電流が17秒間流された。肉の焦げるにおいに耐え切れず、思わず退出する見物人もいたそうだ。前日の実験により、1000ボルトは「失神と心停止に十分」と証明されていたので、これでケムラーは死んだはず…だった。
しかし、ケムラーは絶命していなかった! 執行人はあわてて電圧を2000ボルトまで上げた! 1分ほど通電するあいだ、うめき声をもらしたケムラーの体からは煙が上がり、破裂した血管から血がほとばしったという…。
結局、電気椅子による初の死刑は、人道的な即死どころか、完全終了に8分もかかる拷問の末の死となってしまった…。自社の電流を使われたウェスティングは、この地獄絵図を評して「斧で首ぶった切った方がマシ」とコメントしている。
ちなみに、電気椅子で最初に刑死した女性であるマーサ・プレイスの場合は、幸いなことに即死だったという。
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【追加雑学】電気椅子は薬物注射よりマシ?
実は、ケムラーだけにとどまらず、電気椅子で即死できなかったケースは結構ある! そのため、さらに人道性を追求した結果、現在のアメリカでは薬物注射による死刑執行を採用しているところがほとんどなのだ。
ただし、フロリダ州やテネシー州のように、本人が希望すれば電気椅子を選ぶこともできる。実際、2018年にはテネシー州の死刑囚エドモンド・ザゴースキーが、希望通りに電気椅子での死刑執行を受けている。
「何で?」と思うが、実は薬物注射の方が電気椅子より失敗率が高いのだ! 薬物注射による死刑執行は、まず最初に鎮静剤を投与してから2種類の薬物を注射する。しかし、この鎮静剤が上手く効かないと、想像を絶する苦痛が長時間続いてしまう。
それに比べ電気椅子は、所要時間は約2分。しかも最初の電撃により一瞬で死刑囚は感覚を失う。
生きたまま焼かれるので、頭が焼けただれて皮膚がべろんと垂れ下がるという…。見るも無残な状態にはなるものの、本人は苦痛なく即死できるのだ。
ただ、このザゴースキー、男性2人を銃撃後に喉を掻っ切るという残忍な殺人事件で死刑判決を出された人物。犯人が安らかに死ぬというのは、遺族にとっては複雑かもしれない…。
雑学まとめ
今回の雑学記事では、電気椅子にまつわる残酷な史実をご紹介してきたが、いかがだっただろうか? 筆者としては、偉人・エジソンの知られざる卑劣な一面が垣間見えて興味深かった!
ちなみに、現在もアメリカで使われている電気椅子には、「オールドスパーキー」・「グルーサムガーティー」・「イエローママ」と、それぞれニックネームがつけられている! 電気椅子ってニックネームつけるほど親しみ感じる存在じゃないよね!?(「イエローママ」は本当に黄色くペイントされているとのこと)。
ケムラーの悶絶死はもちろん悲惨だが、処刑道具にあだ名つけちゃうアメリカ人の感覚もそれ以上に怖いなあ…。
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