陸上競技で何より驚くのが、アスリートたちのパフォーマンスの高さである。なぜ、あれほど早く走れるのか、なぜ、それほど物を遠くに飛ばせるのか。そのパフォーマンスにあらためて感嘆してしまうのだ。
ところで、この陸上選手たちのパフォーマンスに大きな影響を及ぼすもののひとつが「風」である。一般には追い風が吹いていると記録が伸びやすい傾向があるといわれるが、陸上競技のすべてがそういうわけでない。
とりわけ「投擲競技」(とうてききょうぎ)では、試技の際、向かい風が吹いている方が有利といわれているのだ。その説は本当なのか?
この記事では、円盤投げでは向かい風の方が記録が伸びるとされる、その真相について迫っていく。
【スポーツ雑学】「円盤投げ」では向かい風のときに投げるのが有利?
【雑学解説】「円盤投げ」では、追い風と向かい風はどちらが有利?
陸上競技では、選手が試技する際、「追い風」が吹いていると記録が伸びやすい傾向にある。100メートルなどの短距離や幅跳びなどがその典型である。
だが、必ずしもそうとは限らない競技がある。それは「投擲競技」である。円盤投げを例にとって説明しよう。
選手は円盤を投擲した際、空中にある円盤の角度は斜め上方向に飛んでいく。下の動画は、リオオリンピックでメダルを獲得した選手たちの試技だ。円盤がやや上向きに飛んでいることがお分りいただけるだろう。
この際、飛ぶ円盤の表面には、空気抵抗によって円盤の上部と下部では異なる空気の流れが生じる。
当然ながら、円盤の前方部は空気抵抗を受けることになるが、円盤の後方部では空気が集まることになる。これを「収束」と呼ぶ。この収束によって、円盤を上方に持ち上げる「揚力」が発生するのだ。
当然ながら、そこに向かい風が加われば円盤後方に空気が集まり、より揚力が生じることになる。揚力は進行方向からの風が強いほどその作用が強まるので、「向かい風有利説」が唱えられているのだ。
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ただし、向かい風になると、あらゆる場合に円盤の飛距離が伸びるというわけではない。円盤の角度やブレが生じたりすると、いくら向かい風が吹いていても、記録は伸びないことになる。この「向かい風有利説」は、同じ投擲競技のやり投げでも同様のことがいわれている。
そして良い条件で向かい風が吹いたときに関しても、有利だというのは確証のある話ではない。というのも、投擲競技では、試技する際の選手のコンディションが記録されていないからだ。
投擲距離が伸びるかどうかの要因は、選手個々の投法や体格、また風の強さなど、様々な要因が絡んでいるといわれており、単純に「追い風」と「向かい風」のどちらが有利なのかは明らかになっていないのが現状だ。
それを物語るように、向かい風だけでなく、追い風が吹いている際にも好記録が出ているという。追い風が有利なのか、向かい風が有利なのか…。真偽のほどは、はたしてどちらなのだろうか。
【追加雑学】女子の世界記録が男子の世界記録を上回っている競技がある
陸上競技の場合、女子の記録が男子の記録を上回ることは、常識では考えられない。だが、女子の世界記録が男子の記録を上回っている競技がある。それが「円盤投げ」だ!
ここで実際の投擲の模様をご覧いただこう。下の動画は、リオオリンピックの女子円盤投げのメダリストたちの試技である。青い空を背景に、円盤が宙を飛ぶ光景がなんとも美しい。
1988年に東ドイツの女性選手、ガブリエレ・ラインシュが出した世界記録は、76メートル80センチ。男子の世界記録は、ユルゲン・シュルトという同じく東ドイツの男性選手が1986年に出した74メートル08センチなのだ。
つまり、女子選手の世界記録の方が男子選手の記録を上回っていることになる。ちなみに歴代2番目の記録をもつ女性選手も、男子の世界記録を上回っているという。
女性選手が男子選手の世界記録を上回ることは不可能とはいえないが、これは信じられない事実だ。では、どうしてこんな記録が出たのか。
それは、1980年代の当時のドーピング検査の精度が未熟なことを利用し、東欧諸国が中心になって、国家ぐるみでドーピングに手を染めたのはではないか、というのである。その中心は東ドイツだった。
それを物語るように、女子円盤投げの歴代記録を見ていくと、上位10人までが1980年代の東欧諸国の選手で占められている。噂は本当なのだろうか。真実はすでに闇のなかだ。
雑学まとめ
今回は、円盤投げでは向かい風の方が有利とされる雑学と、女子選手の世界記録が男子選手の世界記録を上回っている雑学についてご紹介してきた。
陸上競技では、追い風が吹いていると記録が伸びる傾向があるが、投擲競技(円盤投げ)ではその傾向は必ずしも当てはまるわけではないようだ。
「追い風」か「向かい風」か。白黒はっきりさせるためにも、それぞれの試技を記録して、論議に決着をつけてみるのもいいのかもしれない。