目の不自由な人の心強いパートナーである盲導犬。人間の指示を理解し、飼い主の外出をサポートする彼らはとっても賢い!
街で見かけたという人もいるだろうし、盲導犬と里親の絆を描いた映画に感動したという人もいるかもしれない。…そんな彼らの活躍を見ていて、ひとつ気になることがある。
「盲導犬の指示は、なんで英語なんだ?」
そう、盲導犬への指示は「カム(来い)」「ゴー(進め)」など、ほとんどが英語で行われる。まさか…犬にも国籍があって、日本語は理解できないのか?!
なんてことはない。指示が英語で統一されていることには、彼らが仕事を全うするための深い理由がある。今回はそんな盲導犬に関する雑学を紹介しよう。
【動物雑学】盲導犬に英語で指示を出すのはなぜ?
【雑学解説】英語のほうが言い回しが統一しやすい
なぜ盲導犬の指示は英語なのか? 「盲導犬はみんな外国の犬なので英語でお願いします」的な感じか…?
いやいや…たしかに犬種は外来のラブラドールレトリバーがほとんどだけど、日本の盲導犬協会で訓練される盲導犬はみんな日本で生まれている。それに盲導犬への指示は合図のようなものなので、犬が響きを覚えれば日本語でも通じる。
「じゃあ、日本語でよくね? ここ日本だし…」
…と、思うところだ。それなのに英語で訓練するのは、イギリスやアメリカから訓練技術が輸入されたという背景ももちろん関係がある。しかし一番の理由は、英語で盲導犬を訓練すると、以下のような理由で都合がいいからだ。
- 英語は男女の違いや方言など、飼い主によって言い回しが変わることがない
- 日本語の命令口調は周りの人をびっくりさせてしまうことがある
それぞれ解説していこう。
英語で訓練すれば飼い主による言い回しの違いに困らない
たとえば盲導犬をこちらに呼びたいとき、日本語で呼ぼうと思うと「来い」「おいで」「来なさい」など、いろんな言い回しがある。前へ進む指示を出す場合も同じで「進め」「進んで」「進みなさい」といった具合だ。
盲導犬を日本語で訓練すると、こういった微妙なニュアンスの違いで困る場面が出てくる。言葉を教えてくれた訓練士と、サポートする飼い主で言葉遣いが違うと、犬を混乱させてしまうのだ。
「来い」なら「来い」で統一していればいいだけじゃない? と思うかもしれない。
しかし普段こういうきつめの命令語を言い慣れていない女性なんかは、とっさに「来い」とは言えなかったりもするものだ。訓練の段階ではまだ飼い主も決まっていないため、飼い主に合わせて訓練することもできないし…。
一方で英語なら以下のように指示を統一できる。
- 来い…カム
- 進め…ゴー
- 待て…ウェイト
- 座れ…シット
- 伏せ…ダウン
- 褒める場合…グッド
- 叱る場合…ノー
見ての通り、英語には日本語のような言い回しの違いがなく、飼い主による差に困ることがないのだ!
日本語の命令口調は周囲をびっくりさせてしまう
盲導犬を日本語で訓練しないもうひとつの理由は、日本語の命令口調は、周囲をびっくりさせてしまうことがあるからだ。
想像してみてほしい。あなたが道を歩いていて、後ろからいきなり「待て」などと聞こえてきたら、自分に言っているのかと思って振り返ってしまわないだろうか。私ならいきなりそんな言い草で呼びかけられたら、決闘でも申し込まれるのかと身構えてしまう。
一方、英語で「ウェイト」と言うのなら、明らかに盲導犬への指示だとわかる。日本で道を歩いていてそんな風に人を呼び止めるのは、外国人かルー大柴ぐらいだ。
このように盲導犬を英語で訓練していると、周りから見て「盲導犬への指示だな」とすぐにわかるという利点もあるのだ。
以下の動画のように、盲導犬候補の犬は小さなころから英語での指示でしつけられる。訓練を終えるころには、なんと30種類もの指示を理解できるようになっているというぞ! めっちゃかしこい!
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【追加雑学①】日本語で盲導犬を指示する場合もある
上記のような理由から、盲導犬の指示はほとんどが英語で行われるが、なかには日本語で行われる指示もある。
たとえば「きっぷ」という指示は「きっぷの販売機を探して」という意味。たしかにきっぷという言葉に言い回しの違いなんてないし、命令口調でもない。このような名詞なら、日本語でも問題ないわけだ。
たしかに「ゴー」や「カム」のような簡単なものならともかく、きっぷと言うのに「チケット」だなんて、それこそ「あれ…なんだっけ」と、ど忘れしてしまいそうである。
そして実は盲導犬協会のなかにも、主に日本語で指示を覚えさせている協会があるのだそう。日本でも歴史の長い「アイメイト盲導犬協会」や「日本盲導犬協会」の影響で英語がメジャーになっているが、なかには考え方が違う協会もあるのだ。
余談だが、日本人は英語の発音が苦手な民族である。盲導犬への「シット(座れ)」の指示が、外国人には「Sit」ではなく「Shit(うんち)」に聞こえ、トイレトレーニングと勘違いされたなんて笑い話もある。
まあ、盲導犬に伝われば困ることはないのだが、外国人が近くにいるときに指示を出すのはちょっと恥ずかしいかも…。
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【追加雑学②】盲導犬に話しかけてはいけない?
犬が好きな人なら、散歩中の犬に声をかけることも珍しくない。おばちゃんが飼い主に構いもせず「可愛いわねえ~」と、他人の犬を撫でまわしているのもよくある光景だ。
こういうのは飼い主同士で好きにすればいい話だが…実は盲導犬に限っては、安易に声をかけてはいけない。
盲導犬にとって主人との外出は「仕事」であり、お散歩ではない。彼らは単に指示を待つだけでなく、段差などの障害物があれば止まって知らせ、指示されても主人に危険が及ぶと感じた場合はその場を動いてはいけない。
注意が主人を導くこと以外に向けば、犬がこれを全うすることは難しい。たとえ訓練された賢い盲導犬であっても、本能には逆らえず、「かわいい~」と撫でられたりすると、嬉しくて集中力が切れてしまうのだ。
そのため盲導犬に話しかけたり、にっこりと笑い掛けたりするのはルール違反となっている。
食べ物を与えたり、自分の犬にあいさつさせたりなんてもってのほか。仕事中の盲導犬は「優しく無視すること」が最善のマナーなのだ。
ちなみに、声を掛けてはいけないのはあくまで盲導犬に対してである。盲導犬を連れた視覚障害の方がなにか困っている様子であれば、積極的に声をかけてあげたい。
【追加雑学③】英語で盲導犬は何と言う?
これは盲導犬への指示に使うわけではないが、「外国人に盲導犬を説明するときって、どう言えばいいんだろう…」と思っている人もいるだろう。
英語で盲導犬を表す言い回しは大きくふたつある。
- seeing eye dog(シーイングアイドーグ)
- guide dog(ガイドドーグ)
「代わりに見てくれる犬」に、「案内してくれる犬」。たしかにどちらも盲導犬だとわかる。seeing eye dogはアメリカでよく使われる言い回し。guide dogはそれ以外の英語圏という感じだ。
例文を挙げてみると、以下のような使い方ができる。
- 「I use seeing eye dog.(私は盲導犬を利用しています)」
- 「He is guide dog.(彼は盲導犬です)」
- 「Can I bring a guide dog?(盲導犬を連れて入ってもいいですか?)」
外国人と一緒に歩いていて盲導犬に出会うことがあるかもしれないし、盲導犬を連れている友だちと外国人の家に遊びにいくこともあるかもしれない。覚えておけばどこかで役に立つはずだ!
雑学まとめ
今回は盲導犬の指示にまつわる雑学を紹介した。
盲導犬の指示は、人によって異なる日本語の微妙なニュアンスや、実社会においての周囲への配慮から英語で統一されている。盲導犬とのやり取りに関しては、あえて普段使わない言語を使う方が都合がいいのだ!
盲導犬はもちろん日本語だって理解できるようになるし、訓練を終えてからも、飼い主の接し方によっては新しく指示語を覚えることもできる。犬のなかでもとても頭のいい盲導犬…やっぱりすごい!
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