花見といえば桜を愛でながら、桜の木の下でどんちゃん騒ぎ。というのが毎年のお決まりになっている方も多いのではないだろうか。場所取りや幹事など、めんどくさい作業も多いのだが、そのぶん、満開の桜の下での宴会は感慨深いものがある。
そんなお花見だが、時代によってやっている内容が変わってきたというのはご存知だろうか。さらには、現在のウェーイ系のノリの花見のルーツは豊臣秀吉によってもたらされた、ということを知っていただろうか。
さすが”元祖リア充系成り上がり戦国大名”の豊臣秀吉である。花見を上司から押し付けられた幹事は、秀吉を存分に恨むがよい。
【歴史雑学】日本最大の花見をしたのは豊臣秀吉
【雑学解説】花見の起源と秀吉の花見
万葉集で在原業平(ありわらのなりひら)の詠んだ「世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」という短歌がある。
これには「春に桜がなかったら、人の心はどんなにのどかであったことでしょう。」という意味があるように、古来より日本人は桜には振り回され、一喜一憂してきたのだ。
それ以前にも、もちろん花見はあった。古くは奈良時代にまで遡るのだが、奈良時代の花見は桜ではなく梅であった。これは、当時中国から輸入された梅の花が大流行したことからきている。
花を愛で、短歌にその思いをしたためる。それが奈良時代の梅の花見であり、決してどんちゃん騒ぎなどはしていない。
平安時代に入り梅の人気は落ち着き、桜の人気が熟してくると、桜が花を表す言葉に代わる。しかし、ここでも上品な平安貴族たちは和歌を詠むのがメインで、どんちゃん騒ぎなどはしていない。
豊臣秀吉の花見
上品な花見の作法がおよそ600年ほど続くのだが、花見のメインは歌会であり、酒を飲んでどんちゃんはあったにはあったのだが、粗野で野蛮な風習として市民権を得るには至っていない。
そんな中、花見界に一大革命が巻き起こる。
豊臣秀吉の出現である。
秀吉は大きな花見を二回行なっている、それが「吉野の花見」と「醍醐の花見」だ。
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吉野の花見
1594年に吉水神社にて、5日間ぶっ通しで花見を計画した秀吉だが、あいにくの雨。
次の日も雨。3日目も雨。すると、とうとう秀吉は「坊主ども! 雨ごいをしろ! 明日晴れなかったら火をつけて帰るからな!!!」と、ブチ切れてしまう。
焼き殺されてはかなわないと、坊主たちの必至の祈祷が天に届いたのか、4日目でようやく晴れとなり、無事に花見を開催することができた。そして、この花見が凄い。
まず、参加した大名自らコスプレをし、寸劇をし、皆で飲めや歌えで大いに盛り上がった。参加人数は約5000人ともいわれている。
それまでの花見の規模は数人から数十人。多くてもせいぜい100人くらい。ここら辺は今の感覚とそう変わらないであろう。100人規模の花見なんてどこぞの大学のサークルか、意識高い系のウェーイ系の「何人花見に呼べるかなプロジェクト」くらいのものだろう。
そこで数千人規模とか、さすが関白様。パネェっす。
ちなみに、コスプレの趣向として、自分より身分の低いものの仮装をすることとのお達しがでており、秀吉は茶屋の下男、伊達政宗は山伏の恰好をしておったそうな。
この吉野という場所は昔からの桜の名所であり。ソメイヨシノの語源ともなった場所である。
醍醐の花見
1598年には、豊臣秀吉は京都の醍醐寺で一族総出と、さらには諸大名とその配下の女房女中合わせて約1300人で再度、大掛かりな花見を行なったのである。
これが世にいう醍醐の花見で、秀吉主催の出し物として世に広く知られることとなった。なぜだか、吉野の花見よりも醍醐の花見の方が有名らしい。
かつての花の名所だった醍醐寺も、度重なる戦乱のおかげですっかり寺は荒れ果てていたのだが、その醍醐寺の復興に大きく協力したのが秀吉だったのだ。寺の伽藍(がらん)の修繕や建て替えのために援助したりと、醍醐寺にとって秀吉とは大恩人だったのだ。
その縁で、醍醐寺を舞台とした花見をすることとなり、その花見の準備がこれまたすごい。なんと、近畿の桜の名所から桜を移植したのだ。その数およそ700本。
山の中腹から寺の境内全域に、立派な桜をもってきては植えたのだ。それだけにとどまらず、八軒の茶屋も新造し、さらには、参加女性に二度の衣装替えを命じたために、一人三着の衣装をも新調することとなった。
豊臣秀吉の最後の巨大事業として知られ、この約半年後に秀吉は息を引き取っている。
雑学まとめ
以上のように、日本人のアイデンティティの一つでありながら、意外と知られない花見のルーツがあるのだ。
次のお花見では秀吉にならって、衣装チェンジ必須の花見や寸劇・コスプレを提案してみるのも面白いだろう。日本人にとって、やはり桜はいつまでたっても「のどけからまし」なのかもしれない。
花見の姿は変わっても、本質は在原業平の時代から変わってはいないのだろう。