春といえば桜。日本人のほとんどは、毎年のお花見を楽しみにしているのではないか。それぐらい、桜は日本の文化に深く根付いた花だ。
しかし実は…日本に咲いている桜のほとんどがクローンだという衝撃の事実がある。クローンって…? ほとんどが人工的に増やされたってことか?
多少人の手が入ってても、綺麗なもんは綺麗でしょ…というのは間違いないが、まったく同じもののコピーとなるとちょっと怖い。いったいどういうことだ?
今回は、そんな日本のクローン桜の雑学をお届けしよう!
【自然雑学】ソメイヨシノは完全なクローン桜
【雑学解説】ソメイヨシノは同じ遺伝子をもつクローン
日本の桜の代表格といえばソメイヨシノだ。桜と聞けば誰しも一番に思い浮かべる品種ではないだろうか。
それもそのはずで、日本に咲いているソメイヨシノの数は100万本以上、国内の約80%の桜はこのソメイヨシノである。もはや「日本の桜=ソメイヨシノのこと」だと思って問題ないぐらいだ。
さて…今回の本題はクローン桜に関してだが、日本の桜のどのぐらいがクローンなのかというと…
なんと、このソメイヨシノ全部がクローンである。
ええ!? つまり日本の桜の8割はコピー品ってこと? 春のあの素晴らしい景観は…自然ではなく人間の文明が作り上げたってことー!?
ソメイヨシノをクローンにした理由とは?
なんでそんなことしちゃったの…? というと、それはソメイヨシノがあまりにも美しかったからだ。
江戸時代末期に誕生したソメイヨシノは、「オオシマザクラ」と「エドヒガン」という桜を交配した新種の桜だった。その美しさは「桜界の美女」と呼ばれ、たちまち有名に。
せっかく生まれた美女なのだから、長く広く愛され続ける花になってほしいというのは作り手の心理である。しかしこのとき誕生したソメイヨシノは1本しかなく、交配する相手がいなかった。
桜の木は花がたくさん咲いているが、同じ木の花はみんな同じ遺伝子をもっているため、交配することができないのだ。別の桜と交配することはできるが、それだと次の代に生えてくるのはソメイヨシノではない、別の品種になってしまう。
これではせっかく咲いたソメイヨシノも一代で終わってしまうではないか…。
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そこでクローン製法だ! 江戸時代にクローンなんて言葉は不釣り合いだが、植物のクローンとなればさして珍しいことはない。
ほかの桜の枝を切り落とした部分の断面に、ソメイヨシノの枝をくっつける「接ぎ木(つぎき)」という手法である。
つまり根元はオオシマザクラだけど、枝から先はソメイヨシノ…みたいな状態だ。こうして育てられた花は、まったく同じ遺伝子をもつクローンとして育つ。
文字の説明だけではちょっとわかりにくいかもしれないので、桃の木にスモモの枝を接ぎ木している動画を紹介しておこう!
とっても不思議だが、品種の違う植物と組み合わせても、この方法ならソメイヨシノを増やしていくことができる。今や100万本を超えるソメイヨシノは、こうして次々に増やされていったのだ!
つまり100万本のソメイヨシノは、すべて江戸時代に生まれた最初の1本のコピーということである。クローンなんていうからがっかりする話かと思いきや、それはそれですごい。
元祖に近いソメイヨシノは「小石川植物園」に
ソメイヨシノの最初の1本が今どうなっているかは、残念ながら記録が残っておらず、定かではない。
しかしそれとほぼ同世代のソメイヨシノは、東京大学の教育実習施設「小石川植物園」に今でも咲いている。
元園長・東大教授だった中井猛之進(なかいたけのしん)さんが論文のなかで、江戸時代に植えられたものだと記しており、最初の1本にかなり近しいソメイヨシノであることがわかるのだ。
いずれにせよ、樹齢140年のソメイヨシノというのはかなり貴重な存在である。
以下は、小石川植物園のソメイヨシノの動画だ。
最高齢のものは正面玄関付近の老木だという。
近所の人はお花見がてら見に行ってみては?
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【追加雑学①】ソメイヨシノが開花予想に使われるのはクローンだから
春が近づくとテレビで流れる桜の開花予想。あの開花予想に使われる桜は、ほとんどがソメイヨシノだ。そりゃあ日本の桜は8割ソメイヨシノなんだから、そうなるよね…。
と思うところだが、このことには今回の本題、ソメイヨシノがクローンであることも関係している。
まったく同じ遺伝子をもつクローン桜は、日照時間や気温など開花に関わる条件もみんな一緒! そのため、ソメイヨシノの開花は同条件ならほとんどズレることなく、一斉に始まるのだ。
日本の桜の8割が同じ条件で咲き始めるなら、それは予想も立てやすい! クローンという言い方をするとちょっと聞こえが悪いが、人工的に増やされたソメイヨシノは、人間のお花見のサポートにも一役買っていたわけだ。
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【追加雑学②】ソメイヨシノの名前の由来とは?
ソメイヨシノ…この日本らしく雅な名前の由来は、この花を最初に交配した植木屋が関係しているとのこと。
なんでも東京都の豊島区「染井村」にある植木屋が交配した桜に「吉野」という名前を付けたのが最初だったのだとか。なるほど…つまり「染井村の吉野さん」だったわけだ。江戸時代の美女にいそうな名前である。
これが吉野のままだと、奈良の吉野山の桜と混同してしまうということで、現在の「ソメイヨシノ」というカタカナ呼びになったという。
当時の人たちがなんとしても後世に残したいと思ったソメイヨシノ。生で見るのが一番だが、以下に動画も紹介しておこう。
現在日本には600種近くもの桜があるという。その600種近くある桜の中でも、ソメイヨシノは花が大きく固まって咲くため、より美しく見えるといわれる。桜界N0.1の美女の異名は今でも健在なのだ!
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【追加雑学③】桜には毒がある!?
桜はとっても美しいが、実は毒をもっていることを知っているだろうか。
何!? のんきに花見なんかしてる場合じゃないじゃないか! …なんてことはない。この毒は人間にはほとんど害がないので安心してほしい。
桜の葉は「クマリン」という毒をもっている。クマリン…毒だけどなんかカワイイ。
桜の葉は、雨水とともに落ちると木の周辺にクマリンをまき、雑草が生えるのを防いでいる。つまりは自分が土から吸い上げるはずの栄養を、ほかの植物に取られないようにするための毒なのだ。
「私の半径数メートル以内に近寄るんじゃないわよ!」…という感じか。やっぱり花でも美人は近寄りがたいものなのだ。うかつに近づくと怪我するわよ!
また桜の葉と聞いて、「桜餅の葉は大丈夫なの?」と不安に思った人もいるだろう。その点も安心してほしい。やっぱりクマリンは人間にはほとんど害がなく、桜餅の葉ぐらいだったら食べても全然平気である。
完全に対雑草用ということか…。ほんとによくできている。でも食べ過ぎるとお腹を壊すこともあるのでほどほどに。
ちなみに桜餅の良い香りはクマリンの毒の香りである。毒なのにあんなに爽やかな香りがするのか。
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ソメイヨシノの雑学まとめ
日本の桜の80%を占めるソメイヨシノが、まさかのクローンという今回の雑学…。
衝撃の事実だったが、詳しく知ってみると全然がっかりな内容ではない。美しいソメイヨシノを後世に伝えたいという、当時の人たちの想いの結晶である。
今度花見をするときは、ソメイヨシノ1つ1つの花の形がどこまで似ているのか、という点に注目してみよう。今までと違った楽しみ方ができるかも?
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