日本の心…剣道。外国人にはいまだに日本に侍がいると思っている人もいるようだが、日本で思いっきり侍気分を味わえる場面は今となっては剣道ぐらいなものだろう。
日本人らしく、作法を大切にする精神性もその醍醐味だが、もうひとつ印象に残るのはあの掛け声だ。
「めーーんッ!」「胴ーーッ!」
アニメの主人公の必殺技じゃあるまいし、叩く場所を叫んだりしたら相手にバレてしまうぞ! この掛け声には、そうしなければいけないルールがあるのだろうか?
【スポーツ雑学】剣道の掛け声は「面」「胴」じゃなくてもいい?
【雑学解説】剣道では基本的には打つ部位を言わなければならない
剣道の掛け声をハッキリとした口調で聞いたことがある人はそう多くないはずだ。実際の試合となると、「ァメーーン!」といった感じで、だいたいの人が崩した言い方になっている。
では、どんな掛け声でもいいのか? というと、基本的にはしっかりと打つ部位をいわなければならない。つまり剣道は、「ここを叩きますよ」と示し合った上での攻防を問う競技なのだ。
たとえば胴と叫びながら小手を打った場合、ペナルティーにこそならないが、どんなに気持ちよく決まっても一本とは認められない。相手をあざむくことはしない、正真正銘の真剣勝負といったところか。
当然のごとく「カツカレー!」のような奇をてらった掛け声も通用しない。
それどころかこのようなおふざけをした場合、全日本剣道連盟の定めたルールにある『第3章 禁止行為 失礼な言動 第16条:審判員または相手に対し、非礼な言動をすること』に該当し、「2本負け」になってしまう。
これはサッカーのレッドカードと同じで即退場、および1点とっていてもなかったことになる厳しいペナルティーだ。掛け声はフェアな試合を行う上で非常に大切ということである。
【追加雑学①】なぜ剣道では崩した掛け声を言うのか?
ふざけた掛け声をしてしまえば即失格になる。ではなぜ剣士たちは、「アメーーン!」「コドーッ!」といった崩した掛け声を出すのだろう…。
実はこの崩した掛け声は、ふざけているわけでも、言い間違えたわけでもなく、れっきとした技術なのだ。
剣道では放った技を叫ばなければ一本にはならないが、「コドーッ!」と叫べば、「小手」とも取れるし「胴」とも取れる。つまり崩して曖昧に叫ぶことで、判定を優位に運ぼうという作戦なのである。
あからさまに相手を騙すのがルール違反なら…と、剣士たちもよく抜け道を見つけたものだ。なかには気合いが入り過ぎて、意図せず声が裏返ってしまうような人もいるが…。
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以下の動画の試合でも、試合開始直後から剣士が叫んでいるが、どこの部位を叫んでいるのかは見当がつかない。
【追加雑学②】剣道の意外なルールとは?
剣道にはもうひとつおもしろいルールがある。それは「倒れたときにうつ伏せになってはいけない」というものだ。ただ最初からうつ伏せの状態で倒れたのであれば問題はなく、このルールは仰向けで倒れた場合のみを表している。
剣士は倒れた状態でも、相手の攻撃を正面から受け止めなければならないのが剣道だ。仰向けからうつ伏せにひっくり返ると、それが相手の攻撃から逃げる行為とみなされてしまうのである。
そして、仰向けに倒れた剣士に対して相手は一本だけ攻撃をしても良いことになっている。一本攻撃を仕掛けたら審判が試合を止め、そこで仕切り直しというわけだ。
実はこのルールは審判にも知られていないことが多く、学生の試合になると倒れた瞬間に止められることがある。たしかに倒れた相手を攻撃するのは武士道精神に反するような気もするし、止める審判の気持ちもわからなくないが…。
真剣勝負の世界では相手をあざむいてはいけないが、倒れるのは自分のせい…といったところか?
雑学まとめ
剣道の試合では個性的な掛け声を出す人も多いので、自由なものかと思っていたが、ちゃんと叩く部位を言わなければいけないルールがあったとは…。そして個性的な掛け声になっているのも、その部位を叫ばなければ一本を取れないことからだった。
そもそも相手に次の攻撃を告げる真剣勝負だからこそ、技の精度も図れるというものではないか。そう考えると競技としてはもっともなルールである。