普段、何気なく食べているタコ。弥生時代の遺跡からも、タコ漁に使っていたとみられるタコ壺が発見されており、わたしたち日本人にとっては、はるか昔からなじみの深い食材である。
そんなタコだが…なんでも、「命を懸けた子育て」と呼ばれるほどの子育てをするタコがいるらしい。
今回は、タコの中でも世界最大といわれるミズダコの、壮絶な子育てを紹介しよう。海の底で生きる母ダコの愛は、海より深いかもしれない…。
【動物雑学】ミズダコの「命を懸けた子育て」とは?
【雑学解説】ミズダコのメスは、孵化を見届けたあとに死ぬ
世界最大のタコといわれるミズダコ。腕の間の膜を広げると巨大な傘のような形になり、その大きさは3mにもなる。そのまま獲物を風呂敷のように包みこんで食べるのだ。
…一度捕まったら、誰も逃げることができない。ミズダコは、海の底では最強の生き物だといっても過言ではないのだ。
ただ、これは大人になってからの話。まして、産まれたばかりの卵など、近くに住む魚たちのかっこうのえじきだ。
しかしミズダコの卵は孵化するまでの間も、安心して成長することができる。それは…母ダコが命懸けで卵を守るからだ。
ミズダコのメスは卵を守る10ヵ月間、エサも食べない…
ミズダコの卵はとても小さく、大きさは1mmほどで、一度に生まれる卵の数は、なんと7万個! これが約300個ずつ房状に連なっている。
産卵が終わった母ダコは、腕を広げてこの卵のかたまりを優しく抱き、孵化するまで、なんと10ヶ月間、一歩も離れずエサも食べずに過ごすのだという。
断食している母ダコは、とうぜん衰弱していく。それでも、ときには腕で新鮮な水を卵にかけ、卵を狙う外敵がいれば果敢に立ち向かって追いはらい、わが子を守り続ける…。
そして、10ヵ月後、命を懸けて守った卵が孵化するとき、母ダコは最後の力をふりしぼって卵を優しく撫で、赤ちゃんが卵を破って孵化する手助けをするのだ。10ヶ月もの間なにも食べずに衰弱し、体を動かす力など残っていないはずなのに…。
そして…元気に誕生していくわが子を見届けたあと、母ダコは力尽きて死んでいく。
なんて壮絶な子育てなんだ…。その様子をとらえた貴重な映像を見つけた。この瞬間までの10ヶ月間の母ダコのことを思いながら、ご覧いただこう。
ときおり映る母ダコの腕…。赤ちゃんが外の世界へ飛び出しやすいように、卵を撫でる様子がよく分かる。この瞬間のために、母ダコは卵を抱き続けたのだ。
子供の誕生は、人間にとっても人生で最も幸せな瞬間だ。母ダコも同じであろう。しかし、我が子を大海原へと旅立たせたあとは、力尽きて死んでしまうなんて…。産卵した瞬間、母ダコの命のカウントダウンが始まるということか…そんなの切なすぎる。
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【追加雑学①】ミズダコの繁殖は一生に一度だけ
卵の孵化を見届けたら、死んでしまう母ダコ。それなら、卵を産むのは一回だけ?
そう、ミズダコの繁殖は、一生に一度だけである。
ミズダコの寿命は4年。つまり孵化してから4年後、生涯最後にオスとメスが結ばれ、産卵をするのだ。子孫を残すために、メスをめぐってオスたちは足がちぎれるほどの激しいバトルを繰り広げ、晴れてカップルとなる。
そして、生涯一度きりの交尾(タコに関しては交接と呼ぶ)をゆっくりと数時間かけて行う。実は…オスの生涯は、これで終わるのだ。
えーっ!? オスはここで死んじゃうの? と、さらに切なくなるが、オスはメスを奪い合う戦いで、もはや力尽きてしまい、最後に残った力を振り絞って子孫を残すのだ。
メスにも増して切ないじゃないか…。オスもメスも、子孫を残すために命がけなのだ。
【追加雑学②】孵化したミズダコのうち、生き残れるのはほんの数匹
母ダコの献身的な子育てのおかげで、無事に孵化した赤ちゃんダコ。大きさは1cmと、とても小さく、数ヶ月は海の中をふわりふわりと浮遊して生活するそうだ。
ふわふわと泳ぐ赤ちゃんダコの映像だ。か、可愛い~っ! この子が成長すると、海の底では敵なしの、世界最大のタコになるのか…。信じられないくらい小さいな。
母ダコが命がけで守り、最後の力をふりしぼって送り出した赤ちゃんダコだが、実はこの浮遊している時期に、ほとんどが食べられてしまうのだ。
母ダコが産卵するのは7万個…そのうち、大人になれるミズダコはほんの数匹だという。命を懸けて残した子供たちだと知ったあとに、この生存率の低さを知って、ショックで愕然としてしまった。
雑学まとめ
ミズダコの命を懸けた子育て。卵が孵化したときが、母と子の別れのときなのだ…。10ヶ月も断食して卵を抱き続けるとは…。このあと自分の命が尽きることなど、母ダコにとってはどうでもいいことなのかもしれない…。その深い愛情に泣けてくる。
こんなこと知っちゃったら、もうタコ食べれないよ~! と、思っていたが…わたしは無類のタコ好きである…。これからタコを食べるときは、親ダコに心から感謝して、おいしくいただくとしよう…。