桃から生まれた少年が、犬・猿・キジを仲間にして、人々を苦しめる鬼を退治しに行くという昔話『桃太郎』。
このあまりにも有名な昔話に、実は続編があることを知っているだろうか? まさかの『桃太郎Ⅱ』!? 『帰ってきた桃太郎』!? 『桃太郎リターンズ』!?
と、バカな妄想をしてしまうが、シリーズ化されたみたいな発想はあながち的外れでもない。江戸時代に成立した桃太郎の続編は全部で3つあり、それぞれまったく異なった結末が用意されているのだ。
これはいよいよ気になってくる! ということで今回は、桃太郎の続編にまつわる雑学をたっぷり堪能しようではないか!
【面白い雑学】「桃太郎」には3つの続編がある
【雑学解説】全部で3パターンある「桃太郎」の続き
「桃太郎」には続編がある…と声高に言ってのけたものの、作られている3つの続編は、いわゆる二次創作で、作者が作った公式の物語ではない。ファンが作った同人誌みたいな感じだ。
大昔から「この話に続きがあったら…」というファン心理は不変のものなのである。
異なる作者によって作られた桃太郎の続編は、作られた順に以下の3つとなる。
- 桃太郎後日噺(ごじつばなし)…1777年
- 桃太郎再駈(にどのかけ)…1779年
- 桃太郎元服姿(げんぷくすがた)…1784年
いずれも江戸時代真っ只中に成立した作品だ。それぞれの作者やあらすじを解説していこう。
昼ドラ的続編「桃太郎後日噺(ごじつばなし)」
「桃太郎後日噺(ごじつばなし)」は、1777年、朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)という作家によって作られた続編だ。朋誠堂は桃太郎のほかに「かちかち山」の続編も作っているぞ。
「桃太郎後日噺」のストーリーは以下の通り。
鬼に勝利した桃太郎は、宝箱と一緒に心優しい白鬼を連れて村へ帰った。それから時は流れ、桃太郎は16歳の元服(成人の儀式)を迎える。その際、白鬼も角を切り落として元服し、「鬼七」と名乗ることになった。
このとき、鬼七の元服姿がとても似合っていたので、お供だった猿も真似をして元服し、「猿六」と名乗るように。
…と、この猿六と鬼七の関係を巡って、物語は波乱を迎えることになる。猿六は桃太郎の召使いであるおふくに恋をしていたのだが、おふくは鬼七と両想い。そのため猿六はいつもフラれていた。
このことからあるとき、2人のラブラブな現場を目撃した猿六は「奉公人同士の恋愛は禁止のはずだ!」と桃太郎に告げ口してしまうのだ。…職場内恋愛ダメなやつだったのね。
すると桃太郎は、「自分の恋が叶わないからって告げ口をする猿六も同罪だ」と、おふくと鬼七に10両ずつ、猿六には200文のお金を渡して追い出してしまった。いわゆる謹慎処分ってやつだ。
追い出されたおふくと鬼七は、桃太郎からもらったお金でお店を開いて暮らした。鬼退治にやってきた桃太郎の家臣になり、クビになっても逆境にめげず幸せを掴みに行く鬼七。なかなかやり手の鬼である。
しかしそんな鬼七の元に、ある日突然「鬼七の婚約者だ」と名乗る鬼の女の子が現れる。猿六と距離を置くことで事なきを得たかと思えば、これは一気に修羅場だぞ…。
予期せぬ婚約者の登場に激怒したおふくは角を生やし、大蛇の姿に変身。追いかけられた鬼七は、寺へと一目散に逃げ込む。
鬼の女の子もこれにはマズイと思ったのか、「殺してやる!」と興奮するおふくを止めようとする。しかしうまくいかず、彼女はなんと自害してしまうのだ…。
鬼七も間一髪かと思われたそのとき、やってきたのは我らが桃太郎。彼はすっかり化け物と化してしまったおふくを切り殺すのである。鬼の女の子は猿六の回し者だったため、彼もまた桃太郎に踏み殺されることとなった。
ただ鬼の女の子が鬼七の婚約者というのは本当の話。婚約者のある身でいながら桃太郎の元で働くことになり、その先で偶然恋に堕ちてしまったという複雑な事情が実はある。猿六はその事情を利用したわけだ。
猿の嫉妬から始まったドロドロの展開…そして最後は誰も幸せにならないバッドエンド。かつてお供として一緒に冒険した猿が元凶となり、制裁を下さなければならない桃太郎が気の毒である。
おふくが激怒して大蛇に変身するのは、浮気がバレたときの女性の恐ろしさを体現しているような…。
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大人になっても冒険へ?「桃太郎再駈(にどのかけ)」
「桃太郎再駈(にどのかけ)」は、1779年に市場通笑(いちばつうしょう)という作家によって作られた。そのストーリーは、以下のとおりである。
鬼に勝利した桃太郎は、鬼の宝である隠れみの・隠れ笠・打ち出の小づちを持って帰った。打ち出の小づちは鳴らせば金銀が次々に出てくる代物で、桃太郎はこれを使い大金持ちになる。
するとお婆さんは途端に贅沢になり、毎日のようにお芝居や遊びに出かけるように。お爺さんはさらに欲が出たのか、隠れみのと隠れ笠を見世物にして金儲けをし始める。
このお婆さん・お爺さんの変わりように心を痛めた桃太郎は、なんとか元の2人に戻すことはできないかと考え、2人の留守中、とんだや霊蔵という人物に偽の宝物を作ってもらった。
宝物が壊れて使い物にならなくなったと知れば、お爺さんとお婆さんは元の慎ましやかな暮らしぶりに戻ると思ったのだ。
桃太郎はお爺さんとお婆さんに「隠れ笠の妖精が現れた」という作り話をし、その話を信じた2人は使い物にならなくなった偽物の宝物を見て嘆いた。
一方、偽物の宝物を作った霊蔵は、桃太郎に再び鬼が島へ行くことを勧める。ん…? なんで? となるところ。実は桃太郎は鬼が島に行くと言いつつ、実際は江戸きっての遊郭・吉原へ行くことになっていた。
いやいや…どういうこと? 手に入ったお金で自分だけ良い思いしよう的な!?
そんなことはつゆ知らずのお爺さんとお婆さんは、「また宝を持って帰ってきてくれ!」と張り切り、金の入ったきび団子を作って見送るのだった。
桃太郎と霊蔵は吉原に向かう途中、犬二郎・喜二郎(きじろう)・左次兵衛(さじべえ=猿)と出会う。そして、桃太郎は吉原の遊女を気に入り、お金を払って花嫁道具や宝物と一緒に村へ帰ってきた。
遊女をお嫁さんにした桃太郎には2代目桃太郎が生まれ、その後幸せに暮らすという結末で物語は幕を閉じる。
なるほど…最後は家族という本物の宝を見つけるというオチか! 遊郭に行く展開になったときはどうなるかと思ったぞ…。2代目がどんな風に育っていくのか、続きも気になる話だ。
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鬼の娘と桃太郎の悲恋「桃太郎元服姿(げんぷくのすがた)」
「桃太郎元服姿(げんぷくすがた)」は、「桃太郎後日噺」を作った朋誠堂喜三二によって、1784年に作られた話である。ストーリーは、以下の通りだ。
桃太郎に敗北し、宝を取られてしまった鬼たちは黙っているわけもなく、宝を取り返すために「桃太郎暗殺計画」を立てた。作戦は鬼が島で一番美人な鬼娘・おきよを桃太郎のところへ送り、油断した隙を狙うというものだ。
さて、人間に化けて桃太郎の元へ働きにやってきたおきよ。ところがなんと、彼女は正体を伏せて桃太郎と暮らすうち、彼に恋をしてしまうのだ。
自分がやってきた目的はあくまでも桃太郎を暗殺するためで、仲間を裏切るわけにはいかない。しかし桃太郎のことはどうしても好きだ…。この重圧に耐えられなくなり、おきよは自害してしまう。
こうして鬼たちの作戦は失敗に終わった。この事実を知った桃太郎は、以降鬼退治をしなくなってしまったという。これ以上、悲しみを繰り返さないために…?
個人的には一番好きな続編がこの桃太郎元服である。桃太郎のことを想い、仲間のことも裏切れないおきよが健気すぎる…。
たとえば桃太郎に本当のことを告げたとして、一度鬼退治を成し遂げた彼ならおきよを守ることもできる。それでもおきよは双方が傷つかないよう、自分が犠牲になることを選んだのだ。…切ない。
【追加雑学①】芥川龍之介が考えた桃太郎のその後が辛い…
このように、勧善懲悪の元祖といえる桃太郎は多くの作家の想像力をかきたて、江戸時代には3つもの続編が生み出された。この作品に妄想を繰り広げるのは、近代の作家たちも同じである。
たとえば、本家の桃太郎が鬼退治を成功させたところで終わっているのに対し、芥川龍之介は桃太郎が故郷に帰ってからどうなったかまでを想像して作品にしている。
ダークな作風が売りの芥川らしく、その内容はとても「めでたし、めでたし」という感じではない…。
- 復讐に燃えた鬼が桃太郎の家に火をつけにきたり、復讐に来たときに出くわしたキジを食い殺してしまったり…。
- 猿・犬・キジはそれぞれ「自分が一番の功労者だ」と考えており、財宝の取り分を巡って意地汚い本性が見え隠れする
- 持ち帰った財宝を目にするとお爺さんとお婆さんも、欲に溺れてしまった
なんか、誰も信じられなくなっちゃうような結末だよね。
案の定、この一連の出来事に心を痛めた桃太郎は、一人行方をくらませてしまう。
その後は都で剣術の師範をしていたとか、鬼ヶ島の王となり、セカンドライフを満喫したとか…いろいろ噂あるけど、どうなんだろうね? みたいな終わり方になっている。
【追加雑学②】桃太郎のモデルは紀元前の人物
ここまでは桃太郎の続編について触れてきたが、本家についても、いったいいつ頃にできた話なのか気になっている人がいるのではないか。
桃太郎の成立自体は、前述の通り時期や作者などがまったくの不詳である。しかし「この話が由来では?」とされている古来の伝説があるのだ。
桃太郎のモデルとして有力なのは、8世紀に成立した『古事記』『日本書紀』にも登場する吉備津彦命(きびつのひこのみこと)。紀元前の時代に日本列島を作ったとされる神・イザナギこと孝霊天皇の皇子で、別名をスサノオともいう。
この吉備津彦命が桃太郎のモデルとされることには、複数の理由がある。以下より詳しく迫ってみよう。
イザナギと桃の因縁
吉備津彦命の父・イザナギには、桃の力を借りて鬼を追い払った逸話がある。まず、その要素が桃太郎の参考のひとつになっているのではないかといわれているぞ。
イザナギにはイザナミという妻、もとい妹がいた。日本列島はこのふたりによって作られたというのが、イザナギ・イザナミの伝説である。
この伝説のなかで、イザナミはイザナギを残して先に亡くなってしまう。悲しみに打ちひしがれたイザナギはイザナミを連れ戻しに黄泉の国へ行くのだが…そこで待ち受けていたのは、すっかり腐ってしまい、見るも無残になったイザナミの姿。
これを見たイザナギは思わず逃げ出してしまい、イザナミはこれに激怒。黄泉の国の鬼たちにイザナギを追わせるが、イザナギは間一髪のところで桃の実を鬼に投げつけ、無事現世へと帰ることができたという話だ。
なるほど、たしかに桃で鬼退治している。でも、これだと吉備津彦命は関係ないよね? …となる。もちろん吉備津彦命本人にも、桃太郎のモデルといわれる根拠の伝説が残されているぞ。
吉備津彦命の鬼退治「温羅(うら)伝説」
吉備津彦命は紀元前に権力を握った大和政権の要職で、現代でいう岡山・広島・兵庫の統治を任されていた。
この吉備津彦命を巡って、岡山周辺には「温羅伝説」という伝承が根付いており、その内容が桃太郎のモデルとしてかなり確信に近いものになっている。その内容は以下の通りだ。
あるとき、吉備津彦命の統治する地域のひとつ、吉備国(岡山)で温羅という鬼が暴れ回っており、彼はその退治を命じられる。その際、吉備津彦命がお供と連れて行った人物が以下の3人だ。
- 犬飼部 犬飼健(いぬかいべの いぬかいたける)
- 猿飼部 楽々森彦(さるかいべの ささきもりひこ)
- 鳥飼部 留玉臣(とりかいべの とめたまおみ)
そう、連れて行ったお供の名前が、犬・猿・キジ(鳥)なのだ! 鬼退治に行く吉備津彦命と、動物にちなんだ名前をもつ3人のお供。残りは岡山名物のきびだんごを合わせれば、桃太郎の出来上がりである。
現在でも岡山県には伝承に基づいた史跡が数多く残されている。
以下は倉敷市の鯉喰神社(こいくいじんじゃ)。吉備津彦命が鯉に化けて逃げようとした鬼を仕留めたとされる場所だ。
この温羅伝説と、イザナギが桃を鬼に投げつけたくだりから、桃太郎の構想は練られたと考えられているのだ!
温羅伝説は大和政権が行った抵抗勢力の制圧?
吉備津彦命の温羅伝説には、ちょっと残念(?)な裏話がある。
ここまで鬼退治、鬼退治としつこいぐらいに繰り返しているが、鬼が実在しないことなんて誰でも知っている。伝承で鬼とされているものは、単なる比喩表現。実際は吉備津彦命が行った抵抗勢力の制圧だと考えられているのだ。
ということで、鬼の正体は大和政権に不満を感じていた地方の民衆だとか、吉備国にやってきた朝鮮人だとか諸説ある。どちらにせよ、要は吉備津彦命が自身の領地を平定したという話なのだ。
なんだか急に現実に引き戻された感じになるな…と思っていたら、残念なのはまだまだここから。
このうち、吉備国にやってきた朝鮮人を討伐したという話に関しては、彼らがさも暴れ回ったかのように、美談として伝説が語られている。
しかし実際は朝鮮人が吉備国を荒らしまわったかは定かではなく、彼らの優れた製鉄技術を我が物にするため、行われた制圧だったという説があるのだ。
…ほんとだったら、どっちが鬼だよって話だぞ…。
【追加雑学③】ちょっと意外な桃太郎のトリビア
続編やその成り立ち以外にも、桃太郎には意外と知られていないトリビアがけっこうある。ここでは、そのなかでも特におもしろいものをいくつか紹介するぞ!
桃太郎は桃から生まれてなんかいない
「桃から生まれた桃太郎!」
今でこそ、桃太郎の決まり文句かのように扱われるこのセリフだが、実は本来、桃太郎は桃から生まれてなんかいない。じゃあ、何から生まれたの…? という話だが、普通に女の人から生まれている。
現在の桃太郎が桃から生まれたという設定は、明治期に新しく作られたもので、原作の桃太郎では、お婆さんが桃太郎を生んでいるのだ。
どういうことかというと、お爺さんとお婆さんが川から流れてきた桃を食べると途端に若返り、その結果桃太郎が生まれたのである。桃は古くは不老長寿の果実とされていたため、原作はこういった設定になっていたと考えられる。
しかし明治期に入り、桃太郎が小学校の教科書に載ることになると、このままでは問題がある。子どもたちに「どうしてお爺さんとお婆さんが若返ると子どもができるの?」と聞かれたときに、大人の事情を語るわけにはいかない。
こうして、桃太郎は現在の"桃から生まれた"という設定に塗り替えられたのだ。
童謡「桃太郎」の歌詞がえげつない
桃太郎といえば、「も~もたろさん、ももたろさん♪」という童謡もおなじみだ。一見明るくて軽快な感じだが、終盤になるに従って、その歌詞がけっこうえげつなく変貌していく。
1~3番までは…
桃太郎さん桃太郎さん お腰につけたきびだんご ひとつ私にくださいな
やりましょうやりましょう これから鬼の征伐について行くなら やりましょう
行きましょう行きましょう あなたについて何処までも 家来になって行きましょう
と、まあ普通である。個人的に3番の"家来"という表現も引っかかる部分があるが、吉備津彦命の伝承で連れて行くのはたしかに家来だしね。
そして問題は4番と5番。
そりゃ進めそりゃ進め 一度に攻めて攻めやぶり つぶしてしまえ鬼ヶ島
おもしろいおもしろい 残らず鬼を攻めふせて ぶんどりものをエンヤラヤ
戦場に情けは無用といわんばかりに「つぶしてしまえ」と、急に物騒な言葉が出てくる。挙句、自分たちの優勢ぶりに「おもしろいおもしろい」と、快楽まで感じ出す始末だ。
桃太郎が正義のヒーローであることはたしかだが、その性格にはちょっと難があるのかもしれない。
以下の動画で全編を聴くことができる。メロディーが底抜けに明るいのも、ちょっとサイコパスっぽいよね…。
「桃太郎の続編」の雑学まとめ
今回は、昔話『桃太郎』の続編に関する雑学を紹介した。
桃太郎には、それぞれ結末が異なる3つの続編が存在する。その内容は、浮気が発覚したときの女性の恐ろしさ・お爺さんとお婆さんが欲に溺れる・鬼と桃太郎の悲恋と、なかなかにドロドロしたラインナップが並ぶ。
子どもにはとても読み聞かせできない…。あなたはどの続編が好きだった?
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