昭和のマンガながら、今なお根強く支持されている『北斗の拳』。
北斗の拳のおもしろさの秘密は、その魅力的な敵キャラクターにもある。特に存在感を放つキャラクターとして、南斗鳳凰拳の使い手「聖帝サウザー」を挙げる人は多いだろう。
ケンシロウの北斗神拳は、体内の経絡秘孔を突いて敵を内部から破壊する暗殺拳だが、サウザーには北斗神拳が通用しなかったのだ。
なぜなら、サウザーは内臓の位置が普通の人とは左右逆転しているため、経絡秘孔の位置も違う。いくら北斗神拳を浴びせようと、まったく効果がなかったのだ。
そんな中二心をくすぐるサウザーだが、なんとその名前がついた遺伝子があるのだ! 今回は、「サウザー遺伝子」についての雑学をご紹介していくぞ!
【人体雑学】サウザー遺伝子と内臓逆位とは?
【雑学解説】「サウザー遺伝子」が誕生した経緯とは?
2004年、東京理科大学の松野健治助教授(当時)が、ショウジョウバエの消化器官の「左右逆転」に関わる遺伝子の突然変異体を発見した。
遺伝子を発見した人物は、その遺伝子に名前をつけることができる。そしてなんと…松野教授はこの細胞に「サウザー遺伝子(Myo31DFsouther)」と名付けたのだ!
由来はもちろん、北斗の拳のサウザーである。何を隠そう、松野教授は北斗の拳の大ファンだったのだ!
きっとこの遺伝子を発見したとき、真っ先に「うわ! サウザーやん!」とテンションが上がったのだろうな…。わかるぞ! 何かとアニメやマンガにたとえたくなる気持ち。
思わず高ぶってしまうネーミングだが、学会で大真面目に発表されているところを想像するとちょっとおもしろい。
サウザー遺伝子は左右を逆転させる細胞ではない
ここで勘違いしがちな点を補足しておこう。
サウザー遺伝子は左右を逆転させる細胞ではなく、消化器官の位置を形成するための細胞で、すべてのショウジョウバエがもっている。
左右逆転が起きるのは、あくまでサウザー遺伝子が突然変異を起こしたときである。
つまり正確には「左右逆転の原因になることもある」という理由でその名前が付けられたわけだ。
ちなみにサウザー遺伝子のように身体組織の位置を形成する遺伝子は、マウスなどの哺乳類の研究でも確認されており、徐々にその仕組みが解明されていきつつある。
とはいえ、医学的にはまだまだ未発展の分野。現代医学をもってしても解き明かせないとは、やはり中二心をくすぐられる…。
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【追加雑学①】サウザーの特徴「内臓逆位」とは?
冒頭で紹介したサウザーの特徴は「内臓の位置が普通の人とは左右逆転している」というものだった。わかりやすい例でいえば、左にあるはずの心臓が右にある…みたいな感じだ。
この症状「内臓逆位」は、実はマンガの世界だけの話ではない。乳児の約2万2000人に1人が、この内臓逆位で産まれてくる可能性をもっている。
とはいえ、医者をしていれば一生に一度ぐらいは出会うことがあるといい、「幻の内臓逆位!」となるほど珍しくはないらしい。
内臓逆位で産まれてきた人は、血管の数や位置の関係で心疾患を抱えている場合が多く、5歳まで生存できる確率が5~13%程度とされている。
さらに、医師も診断したケースがほとんどないため、事故や病気の手術をしようにも判断を誤ってしまう可能性が高い。「北斗神拳が効かないの憧れる~」なんて言ってられないほどリスキーな症状なのだ…。
そういえば、手塚治虫のマンガ『ブラック・ジャック』で、内臓逆位の子どもを手術するエピソードがあったが、その際は鏡に写った内臓を見ながら手術していたな…。
【追加雑学②】内臓逆位で99歳まで生きた女性がいた
「内臓逆位の人はほぼ長生きできない」という常識を覆してしまった例もある。
アメリカ・オレゴン州のローズ・マリー・ベントリーさんは内臓逆位でありながら99歳まで生きたのだ。
死因は、内臓逆位はまったく関係ない老衰によるもの。しかも本人や家族も内臓逆位についてはまったく知らず、死亡後の解剖で初めて発覚したのだという!
虫垂炎などで手術の経験はあったものの、そのときは「虫垂の場所が普通と違いますねー」ぐらいで済まされていたのだとか。なにか大きな病気でもない限り、意外とわからないものなのかもしれない。
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内臓逆位の発見時、献体に出されたベントリーさんの遺体は医学生の課題に使用されたが…
医学生
「教授…大動脈が見つからないんですけど…」
教授
「なんだ! そんなもんもわからんのか! って内臓が逆ー!?」
というやり取りで見つかったという。なんかコントみたいだぞ。知らされた家族も「本人が知ったらおもしろがったと思う」と言っているのでいいんだが…。
しかし、内臓逆位で産まれた人がベントリーさんのように健康な生涯を送れるケースは、5000万分の1の確率ともいわれている。
【追加雑学③】ダイエーの創始者は「内臓逆位」だった!
ここまで紹介してきたように、内臓逆位はレアな体質で、豊かな人生を送れる可能性も低い。
しかし実は、日本有数の経営者のなかにも内臓逆位の人物が存在する。ダイエー創業者・中内功だ。
中内さんは高校卒業後に兵役となったが、学生時代の仲間が幹部候補生として扱われているのに対し、彼は兵隊として最低評価を受けた。これは身体検査で内臓逆位だということが判明したからだと、本人が語っている。
のちに部下からは、「ボスは心臓が右にあったせいか、少し変わった考えをする」などといわれていたが…これに関しては内臓の位置はあまり関係ない気もする…。やっぱり内臓逆位などと聞くと、誰しも中二的な発想をせずにはいられないのだ。
内臓逆位で生きられる人ですら稀なのに、なおかつ敏腕経営者になった日本人がいたというのはなんだか誇らしい。
「サウザー遺伝子」の雑学まとめ
今回は、サウザー遺伝子と内臓逆位についての雑学をご紹介した。
自分が発見した遺伝子に「サウザー」という名前をつけた松野教授…当時はニヤニヤが止まらなかっただろう。
そして内臓逆位…それは決してマンガの世界だけの話ではなかったのだ!
普通とは違う形で産まれてくるわけだから、体内器官が正常に機能する確率も低ければ、医療機関での扱いも難しい。我々の中二心とは裏腹に、重い宿命を背負った症状である。
大人まで生きられることがまず稀なこと。内臓逆位の成功者は、まさに奇跡の存在なのだ。
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