1番得意な事を「十八番」または「おはこ」という。「この歌は私の十八番だ」という風に使う人もいるだろう。
しかしこの言葉、不思議ではないだろうか? なぜ「1番得意な事」なのに「十八番」なのか? なぜ「十八番」と書いて「おはこ」と読むのか?
そう聞かれて、パッと答えられる人は少ないだろう。実は、「十八番」という言葉はある伝統芸能が関係している。今回は「十八番」にまつわる雑学を解説していこう。
【生活雑学】得意な事を「十八番」「おはこ」という由来とは?
【雑学解説】有力なのは「歌舞伎」由来
1番得意な事を「十八番」や「おはこ」というのには、さまざまな説がある。その中でも有力なのが、歌舞伎が由来となっているものだ。
江戸時代の歌舞伎役者に、七代目市川團十郎(だんじゅうろう)という人がいた。七代目團十郎は、初代・二代目・四代目團十郎が得意だった演目を18種類選定し、それらをまとめたものをお家芸にしたのだ。
この選定された18種類の演目を「歌舞伎十八番」と呼ぶ。この「歌舞伎十八番」は、市川家の大切なお家芸となっているので、箱にしまわれて大事に受け継がれてきた。
このように、團十郎が得意だった演目であったことや箱に大切に保管されていたことから、得意な事を「十八番」や「おはこ」というようになったという説だ。
江戸時代の歌舞伎といえば、大衆芸能。きっと多くの人が「歌舞伎十八番」を見たことだろう。そうして、一般の人にも「得意な事=十八番」というのが広まったのかもしれない。
十八番の元と考えられている「歌舞伎十八番」の演目内容
ちなみに、「歌舞伎十八番」の演目には以下のものがあった。
- 外郎売(ういろううり)
- 嫐(うわなり)
- 押戻(おしもどし)
- 景清(かげきよ)
- 鎌髭(かまひげ)
- 関羽(かんう)
- 勧進帳(かんじんちょう)
- 解脱(げだつ)
- 毛抜(けぬき)
- 暫(しばらく)
- 蛇柳(じゃやなぎ)
- 助六(すけろく)
- 象引(ぞうひき)
- 七つ面
- 鳴神(なるかみ)
- 不動
- 不破(ふわ)
- 矢の根
ただ、これらの演目は初演から形が変わっている。七代目團十郎の時代には、どんな内容だったのかよく分からない物もあった。
しかし形を変えつつも、市川家のお家芸として、大切に伝えられてきた得意演目ということに変わりはないだろう。
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【追加雑学①】その他の「十八番」の由来
「十八番」の由来として有力なのは、歌舞伎説だ。しかし、そのほかにも「十八番」の由来となっている説はいくつかある。簡単に紹介していこう。
仏教からきた説
仏教の仏さまの中に、阿弥陀如来(あみだにょらい)という仏さまがいる。阿弥陀如来は、修行時代に48個の誓いを立てた。この48個の誓いの中で18番目に立てられた誓いが、「十八番」の由来となっているという説だ。
阿弥陀如来の18番目の誓いは、「生きとし生けるもの、私を信じる人はみんな救う」というものだった。
阿弥陀如来以外にも誓いを立てている仏さまはいるのだが、阿弥陀如来の18番目の誓いが、どの誓いよりも優れているということで「1番優れている=1番得意=十八番」という言葉が生まれたというのだ。
武芸が由来とされる説
武士がたしなむ武芸は、全部で18種類あり、このことを「武芸十八般(ぶげいじゅうはっぱん)」という。
この場合は「得意な事」というよりも、「多才であること」という意味が強くなる。
ちなみに、「武芸十八般」にどのようなものがあったのかは、時代によって変わってくるが、大体以下のようなものが挙げられる。
- 剣術
- 居合
- 弓術
- 馬術
- 薙刀(なぎなた)術
- 槍術
- 棒術
- 忍術
- 柔術:柔道のようなもの
- 水術:武装したままの着衣水泳技術
- 砲術(ほうじゅつ):鉄砲技術
- 捕手術(とりてじゅつ):相手を取り押さえる技術
- 小具足(こぐそく):脇差の技術
【追加雑学②】色々ある歌舞伎由来の言葉
今回の雑学で紹介した「十八番」の由来の1つが、歌舞伎からきたものだった。実は、「十八番」以外にも歌舞伎は様々な言葉を生んでいる。補足トリビアとして、2つほど紹介しよう。
まずは「二枚目」。イケメンを指す言葉として使われるが、これは昔歌舞伎の入り口に役者と役名を書いた看板から由来している。この看板は全部で8枚あったのだが、2枚目の看板の役が色男役だったため、イケメンを指す言葉になったのだ。
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次に「捨てゼリフ」。よくアニメなどで悪党が「覚えてやがれ!」というようなセリフである。実はこの言葉はアドリブ(台本に無いセリフ)が元となっていたのだ。
歌舞伎で役者がアドリブでいうセリフは、その場限りのセリフ。つまり、「使い捨てのセリフ」となる。このことが転じて「捨てゼリフ」という言葉が生まれたという話がある。
雑学まとめ
「十八番(おはこ)」についての雑学、いかがだっただろうか。1番得意な事を「十八番」や「おはこ」というのは、歌舞伎が由来となっているという説が有力だ。
過去の團十郎が得意としていた演目を集めた「歌舞伎十八番」。その演目を箱に入れて大切に保管していたことから、「十八番」や「おはこ」という言葉が生まれたのは、なかなか納得のいく説だと思う。