数日前、草野球チームの先輩からラインがきた。
「知り合いの作品が書籍化されたので読んでみてほしい。」Amazonのリンクも丁寧に引用されている。
怖い先輩なので、「買って読まないとコロス」だと判断した私。さっそくAmazonで情報を見てみた。
タイトルは「俺は2度死ぬ」。
ひねくれ者の私としては、あまり引っかからない。そこらのパリピーよりも若いころから苦労してきたし、「波乱万丈出れるよ」と言われるくらいの人生経験ももっている。
書籍の概要を読むと…
俺は2度死んでいる…。
1度目は脳腫瘍の発作
2度目は轢き逃げによる交通事故2回とも、なんの前触れも予兆もなく突然自分の身に降りかかった災難でした。
うーん。自分や友人のことならいざ知らず、他人の不幸話を読んでおもしろいものか。
ただ、怖い先輩のお知り合いの書籍である。読まなければ、至近距離からウンコを投げつけられるかもしれない(先輩はゴリラではない)。
というわけで、渋々購入。翌日にAmazonから届いた。
さあ〜てしゃあねえな、という感じで読み始めたのだが…
おおおおおおいい!! 読む手が止まらねえよ!! 涙も止まらねえよおおおおおお!!
S先輩、すみませんでした…。そして作者のサシダユキヒロ先生…もっとすみませんでした…。
ネタバレしないようにレビューを書いていこうと思う。
【書籍レビュー】「俺は2度死ぬ」を読んでみた。
まず言っておきたいこと。
それは、そこらのくだらない不幸自慢マンガではないということだ。そのため、マンガ全体を貫く空気感が重くない。むしろとてもコミカルで軽く、読みやすい。
本を買ってくれた叔母から連絡があり叔母のお父さんが「実体験からくる話だから説得力がある」とか「文章がうまい」とかブツブツ言いながら夢中になって読んでいると。叔母のお父さん91歳…フォロワーの方が小4の娘さんが夢中で読んでますっていうコメントをくれたので上は91歳から下は9歳の子供まで…
— サシダユキヒロ@「俺は2度死ぬ」好評発売中!! (@y_sashida) 2019年6月12日
サシダユキヒロ先生もTwitterに書かれているが、この絶妙な軽さが幅広い年代にウケている要因だろう。
ただ誤解しないでほしいのは、内容自体は超重い。もうほんと重い。ゲロ吐きそうなほど重い。自分が当事者だったら完全にメンタルやられてる。
このクッソ重い人生を笑いに昇華させている点に、サシダユキヒロ先生の人間力の強さを思い知る…。
「俺は2度死ぬ」の内容
冒頭で引用したが、「俺は2度死ぬ」の内容はいたってシンプル。主人公であるサシダユキヒロ先生が2度死にかける実話マンガだ。
2度の「死」
- 1度目…脳腫瘍
- 2度目…轢き逃げ
ネタバレに気をつけつつ、それぞれについて書いてみる。
【俺は2度死ぬ】1度目の「死」…脳腫瘍の発作
サシダユキヒロ先生を襲う2度の「死」の1回目は、脳腫瘍の発作だ。
もちろん当事者や家族、友人からしてみればたまったものではないのだが、マンガを読む読者の視点としては、まあよくある内容だ。私たちは悲劇系の映画やドラマ、マンガを見すぎている…。
そのため、実話とはいえ、そこまで衝撃を受けたかというと…正直NOである。
ただ、実話ゆえの細かい描写に説得力がある。
ドラマなどでは描かれることの少ない「尿道カテーテル」を抜くシーン(これは笑う)や、抜糸の様子は経験者しか知りえない情報だろう。また、サシダユキヒロ先生が実際に使った、放射線治療用のプラスティックマスクの写真が掲載されてもいる。
…と、ここまで偉そうに批評してきたが、やはり前提として忘れてはいけないのが「本人の実話」だということ。脳腫瘍で生死の狭間を彷徨っているのに、さまざまな場面に笑いが散りばめてあり、スラスラと読める。脳腫瘍の闘病記とはとても思えない。
サシダユキヒロ先生も作中で書かれているが、作り物じゃないからこそ、いまピンチの人に響く内容だろう。
作中の言葉を引用する。
だから今どんな状況にある人も笑ってほしい。笑う事が出来ればきっと頑張れる。笑う事が出来れば生きていけるから。
(中略)
普通の人に言われたらお前みたいな幸せな奴に俺の私の何がわかる! って心が反発してしまう人もいると思うんです。
でも「俺死ぬ」読んで、この作者そこそこシンドイ思いしてるなって思ってくれた人なら僕の言葉が届くんじゃないかって思うんです。
ー「俺は2度死ぬ」48ページより
パリピに言われたらシカトだが、2回死んでる人に言われたら響くかもしれない。響いてほしい。
脳腫瘍から奇跡的に復活したサシダユキヒロ先生。「脳腫瘍篇」のラストでは、ハッピーな出来事もある。
…が! ほんとにどんな星の下に生まれたのか…と読者が嘆いてしまうほど、急転直下の展開へ…(ここは書籍でびっくりしてほしい)。
そして本編は「交通事故 障害者篇」に移る…。
【俺は2度死ぬ】2度目の「死」…轢き逃げによる交通事故
さて、「俺死ぬ」の怒涛の展開はここからである。
ここからがひどい。もうひどすぎる。
「交通事故 障害者篇」は、怒りなしでは読めない。当事者ではない私がこれだけムカついているのだから、サシダユキヒロ先生本人はもちろん、ご家族やご友人の憤り、そして悲しさ、やりきれなさは想像できないほどだ…。
レビューの前にムカつきまくってしまったが、本題に戻ろう…。
あーーームカつく…。
ほんとに戻ろう…。
脳腫瘍から回復し、若干の麻痺は残ったものの、ほぼ日常生活を送れるようになったサシダユキヒロ先生。しかし、そこにさらなる悲劇が襲う。
2度の「死」の2回目は、轢き逃げによる交通事故だ。
意識不明の重体から奇跡的に意識が戻ったものの、またもや脳にダメージを受けていた。
言葉がうまく出てこなかったり記憶力が安定しなかったりなど、交通事故後のリアルな描写が続く。
そして、警察に説明される形で本人に告げられる。「轢き逃げされた」と。犯人は逮捕されたものの、賠償金の支払いに関してトラブルが勃発する…。
現在も左半身に障害が残っているとのことだ。
サシダユキヒロ先生の苦悩を作中の言葉から引用する。
障害の受け入れというのが健常者として生まれてきた人間にとって、一番難しいとリハビリで入院してた病院の先生に言われました。
(中略)
ですが退院をして一般社会に戻ってきた時、僕は嫌という程、それを思い知らされ見事にメンタルを壊しました。メンタルヘルスにも通院しました。
ー「俺は2度死ぬ」108ページより
脳腫瘍篇で鉄のメンタルを見せたサシダユキヒロ先生だったが、自分が障害者になったという感覚は想像できなかったのだろう…。リハビリに期待をしていたせいかもしれない。
犯人には沢山のものを奪われました。本当に本当に沢山のものを。
だけど漫画を描くという事だけは奪われませんでした。
(中略)
これだけは最後の最後に一つだけ運に見放されなかった事だと、思っています。
ー「俺は2度死ぬ」109ページより
熱い…熱すぎてもう涙が止まらねえよお…。
轢き逃げの犯人について
当然すぎて書くのもアホすぎるが、轢き逃げなんて最低最悪の人間のすることである。
犯人についてサシダユキヒロ先生は…
こういう事は言うべきではないのかもしれないけど、正直言えば犯人を同じ目に遭わせてやりたい。今の身体がどれだけ大変か、犯人にも味わわせてやりたい…。
ー「俺は2度死ぬ」131ページより
このように書いている。もうほんとにそのとおりである。
が!!!!!
サシダユキヒロ先生が書いた犯人像がコレだ!
警察から「犯人は半グレ」と説明を受けたときのイメージらしいのだが、ほんとこの人どんだけマンガに魂売ってるんだと思ってしまうほどのコミカルぶり。
ふつう、自分を轢き逃げした犯人をこんな絵柄で書けるか…? 絶対無理だ…。恐れ入ります…。
轢き逃げ裁判について
ネタバレにならないように深入りしないが、どうしても納得できない裁判の話。
日本の裁判は「加害者が得をする」というのはよく聞く話だが、ここまで読んでサシダユキヒロ先生に想いが溢れまくっている以上、ムカつきが倍増する。
マンガ本編には、サシダユキヒロ先生の「刑事裁判意見陳述書全文」も記載されている。ストレートな想いがビシバシ伝わってくるので、ぜひ飛ばさずに読んでほしい。
【俺は2度死ぬ】エンディング
ラストで描写されるのは、退院後の様子だ。
障害の残る体との一生の付き合い…脳腫瘍再発の不安…。さまざまな困難と戦いながら、サシダユキヒロ先生の決意が描かれる。
最後、マジで泣きます。うわーん。。。カッコいいよう。。
「俺は2度死ぬ」書籍レビューまとめ
というわけで、Amazonから届く→一気読み→一気レビューで書いてきた記事でした。
もし、いま死にたいくらい悩んでいる人がいるなら、一刻も早く手に取って読んでほしい。なにかのキッカケになるはずだ。
また、死にたいと思っていない人にも読んでほしい。サシダユキヒロ先生と同じくらい、自分は日々戦っているか、自問してほしい(自戒を込めて…)。そして、自分がピンチのときに、周りに自分を救ってくれる人がどれだけいるか考えてほしい。
最後に、「笑い」は人類が持つ最強の武器だということを教わった、とまとめておく。
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サシダユキヒロ先生のTwitterはこちら!