仕事やプライベートでツラいことがあっても、愛があれば乗り切れる! なんかいきなりきれいごとみたいなことを言うが…事実、愛する人の支えは心強いもんだ。
そんな愛の力を利用した軍隊が、古代ギリシャには存在していた。その名も「神聖隊」。
軍隊で…愛? 愛する妻や恋人、家族のために戦ったってこと…? ということではない。神聖隊は…男性の同性愛者の恋人同士で構成された部隊だ! 要するにガチの意味で愛の戦士たちである。
なにそれ気になる! どんな感じで結成されたの!? ということで今回は、愛の力を武器に大きな戦果を挙げた神聖隊の雑学を紹介する。
【歴史雑学】紀元前ギリシャには男性の同性愛者だけの軍隊があった
【雑学解説】男性同性愛者だけの軍隊「神聖隊」が最強だった理由
紀元前378年のこと、神聖隊(ヒエロス・ロコス)は古代ギリシャの都市国家テーベにおいて、ゴルギダス将軍という人物によって結成された歩兵部隊である。
もしかして、男性同性愛者は差別されて最前線に送り出されたのでは…なんてことはない。そもそもテーベにおいて男性の同性愛はごくごく当たり前のことだった。
テーベではギリシャ神話の英雄・ヘラクレス崇拝が盛んだった。このヘラクレスという神様、実は少年愛のエピソードがけっこうある人なのだ。神話版BL。
ヘラクレスは甥っ子のイオラオスを愛しており、イオラオスの墓所はテーベの同性カップルが愛を誓い合う場所として親しまれていたのだという。
さらにこのふたりの関係を見習い(?)、テーベにはけっこうな歳の差の同性カップルが多かったのだとか。世代も性別も超えてしまう愛の力…!
ゴルギダス将軍は、そんな少年愛に勤しむ男たちの力に目をつけた!
「愛する人の前で無残な死に方はしたくないし、愛する人を守るために奮戦するだろう」という狙いで、150組300人の恋人同士からなる神聖隊を編成するのだ。
ゴルギダス将軍は国費で彼らを養い、平時から厳しい訓練を積むことで精鋭歩兵部隊とした。完全戦闘特化型同性カップル部隊の誕生である。
神聖隊がその名を轟かせたのは、紀元前371年のレウクトラの戦いのこと。当時ギリシャ最強といわれたスパルタとの戦いで大活躍し、テーベがギリシャの覇権を握ることに貢献したのだ。
テーベが列強スパルタを下したレウクトラの戦い
レウクトラの戦いにおいて、テーベ軍は同盟国から兵を集めても、その兵力でスパルタ軍に圧倒的な遅れを取っていた。
- テーベ同盟軍…6,900人
- スパルタ同盟軍…11,000人
という、普通ならどう考えても負ける戦争である。
テーベの知将・エパメイノンダスは横一列に陣を構える隊列のうち、一番左の隊だけに兵力を集中させる戦法を駆使し、この劣勢をひっくり返そうとした。
スパルタ同盟軍のうち、スパルタの精鋭が集中しているのが一番右の部隊であり、相対したときにこちらの左翼が丁度ぶつかる位置にあったからだ。敵の右翼さえ潰してしまえば、なんとかなるという算段である。
横一列をすべて12列で編成したスパルタ軍に対し、テーベ軍の左翼は50列。まともにぶつかれば、最強のスパルタ兵たちもひとたまりもない。
しかしそのぶん、テーベ軍は左翼以外の部隊が手薄になってしまうため、これらを少し遅れる形で進軍させることにした。これによって陣形が斜めに展開されるため、この戦法は"斜線陣"と名付けられた。
RT
個人的には、古代ギリシャ都市国家テーベの名将エパミノンダスの斜線陣が好きだな。兵の質が敵に比して劣っていても、知略と工夫と勇気によって精鋭揃いの戦闘狂集団「あのスパルタ」をも下す事ができるという爽快感がたまらない。 pic.twitter.com/BalNMIAKYc— ファランクス兵士 (@shinshigeru1952) November 12, 2017
レウクトラの戦いにおける神聖隊の活躍
神聖隊が活躍したのは、この斜線陣を前にして、スパルタ軍が陣形を変えようとした場面においてのことだった。
スパルタ軍はテーベ軍の左翼に集められた重厚な隊列を崩すべく、正面衝突ではなく、周囲から取り囲む陣形を展開しようとした。これを阻止しに走ったのが神聖隊である!
テーベ軍左翼の側面に陣を展開しようとするスパルタ兵の進路を神聖隊が塞ぐことで、斜線陣の作戦は手はず通り進められ、結果この戦争はテーベ軍の勝利に終わったのだ!
斜線陣についてもう少し詳しく知りたい人は、以下の動画がわかりやすいのでぜひ。第二次世界大戦など、近代戦争でも使われたこの戦法…非常に奥が深い。
愛ゆえに壊滅してしまった神聖隊
戦争というのはいくら強くても、やはり負けてしまうことがある。
紀元前338年のカイロネイアの戦いにおいて、神聖隊はマケドニア軍の騎馬隊に壊滅的なダメージを与えられてしまう。ただ…このときも彼らは試合に負けて勝負に勝った!
その勇敢な姿を目にしたマケドニア王・ピリッポス2世が彼らの亡骸を前に涙を落とし、彼らのことを讃えたそうだ。愛の力で活躍した神聖隊は、なんと…愛の強さゆえに逃げる者がいなかったがために、壊滅してしまったのである。
愛する人と散れることもまた、本望とでもいうのか…。もう神聖隊の勝ちでいいよ!
…ちなみにこのときピリッポス2世の子息であるアレクサンダー(のちのアレクサンダー大王)は、
「アイツらは槍で突くより、アレで突き合ってるほうがお似合いだぜ!」
…と、バカにしていたらしいよ。あ…アレクサンダー…。
この戦いの後、神聖隊が再結成されることはなかった。しかし近代でギリシャの精鋭部隊に「神聖中隊」という名前が付けられたのは、この神聖隊が由来である。彼らは後世にその名が受け継がれていくほどの勇姿を見せたわけだ。
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【追加雑学】アメリカでは同性愛者の入隊が認められていなかった
歴史を辿れば、同性愛者などの性的マイノリティは差別を受ける場面が多い。しかし近年となっては、そんな差別意識はもはや時代遅れである。
当然、人権意識の高いアメリカでは、率先して彼らを受け入れている…と思いきや、アメリカ軍では最近まで同性愛者が軍隊に入ることは認められていなかった!? なんだかちょっと意外だが、これにはいくつかの事情がある。
まず宗教的な観点から。アメリカのキリスト教において同性愛は不道徳とされる。そのため同性愛者が軍隊に入り国を守るのは言語道断だというのだ。アメリカのキリスト教徒は敬虔な人が多いからな…。
また、同性愛者と行動をともにすることを嫌がる兵士も多く、士気に関わるから…という理由もあった。やっぱり偏見はなくなっているように見えて、根強く残っているものなのか。
未だ平行線を辿るアメリカ軍と同性愛者の関係
近年の人権擁護の観点からすると、この同性愛者の入隊禁止は人種や生まれなどによる差別と同じく理不尽なものであり、機会損失であるとの批判が高まっていた。
そこで、1993年にクリントン政権は、「同性愛であることを公言しない限り入隊を認める」という軍務規定を制定する。つまり同性愛者の入隊はダメだけど、黙ってるなら大丈夫…という、とても曖昧な規定でお茶を濁したのだ。
もちろんこの規定は根本的な解決にならず、入隊後に同性愛が発覚して除隊させられた兵士は1万人を超えたという。…規定作らないほうがよかったまであるんじゃないか…。
そして2011年のこと、オバマ政権が上記の規定を撤廃し、ようやく同性愛を理由に入隊を拒否されることがなくなったのである。オバマさんさすがっす。
アメリカ軍と性的マイノリティの関係はこれで解決…と思いきや、実はこれでは終わらない…。
2017年に就任したトランプ大統領が、トランスジェンダー(心と体の性別が一致しない人)は性転換費用などの医療コストが増大するとの理由で、アメリカ軍への入隊を認めないと発言したのだ。ええー!! せっかく解決に向かってたのに…。
このように、人権意識の高いアメリカでも、性的マイノリティと軍隊の関係はとても難しい問題となっている。同性愛を許容し、その特性を活かした古代ギリシャのほうが時代を先取りしているのでは…。
雑学まとめ
愛があればどんな困難も乗り切れる!
今回の雑学に目を通してくれたあなたは、この言葉への理解も一層深まっているはずだ。
愛の対象は誰でもなんでも構わない。たとえそれが、テレビの向こうの芸能人や2次元だろうと、愛することがあなたに力を湧き起こすのだ!
これからも、常に愛を胸に抱いて生きていこう…と深く誓う筆者であった。
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