かき氷といえば夏の風物詩の印象があるが、最近は1年中食べられる専門店も多い。
その上、「淡雪みたいにふわっふわ」・「まるごと果実を使ったこだわりのシロップ」・「メレンゲを乗せてバーナーであぶる」など、店によって様々なウリがあるのも興味深い。なかには3,000円近い値段が付けられた、高級志向のかき氷まであるぞ!
かき氷にまで高級志向をもち込むとは、突飛な発想の人もいたものだ…などと思ってしまうが、実は日本の歴史を辿るとあながち突飛ともいい切れない。現代の庶民的なイメージとは、また違ったものとして捉えられていた時代があるのだ!
今回の雑学では、そんなかき氷の歴史についてひも解いていくぞ!
【食べ物雑学】平安貴族はかき氷を食べていた
【雑学解説】清少納言も愛した、平安時代の高級スイーツ
日本最古のかき氷の記録は、今から約1000年前にもなる平安時代の中期、清少納言によって著された『枕草子』に登場する。「春はあけぼの…」で始まる、あの有名な随筆集である。作中のかき氷を表す部分は以下の通りだ。
「あてなるもの。…削り氷(ひ)に甘葛(あまづら)入れて、新しき鋺(かなまり)に入れたる。」
これを現代語に訳すとこのようになる。
「上品なもの。小刀で削った氷に甘いシロップをかけて、新しい金のお椀に入れたもの。」
削った氷にシロップをかける…まさにかき氷ではないか!
ちなみに、ここでかき氷シロップに使われている「甘葛」とは、ツタの樹液を煮詰めて作ったはちみつ色のシロップのこと。縄文時代から使われており、江戸時代に砂糖が大量に輸入されるようになるまでは、ごく一般的だった甘味料だ。
現代の感覚からすると素朴に思えるスイーツだが、そもそも当時は氷自体が大変な貴重品。冷凍庫もなければ、輸送技術も発達していないので、特権階級である貴族しか口にできないものだったのだ。
かき氷が庶民の間に普及するのは、なんと明治になってからのこと! 誕生から約800年も経っている。高級スイーツとして扱われていた時期はかなり長いのだ。
清少納言は、かき氷の他にも「あてなるもの」として水晶の数珠(じゅず)や藤の花を挙げている。黄金色のシロップをかけた貴重な氷は、きれいな宝石や花と同じように、平安貴族たちの心をときめかせたスイーツだったに違いない。
【追加雑学①】ご当地名物!全国の変わり種かき氷
お雑煮・肉じゃが・桜餅など、地域によって食べ方の違うものは数多くあるが、実はかき氷もその1つだ。そんなご当地のかき氷を紹介しよう!
「酢だまり氷」・山形県山辺町(やまのべまち)
戦後の貧しい時期、それまでのかき氷の定番トッピングだった砂糖や小豆あんは手に入りにくかった。
しかし、何も乗せずに食べるのはさすがに味気ない…ということで、甘味の代わりに酢醤油をかけて食べたのが、山形県山辺町のご当地かき氷・「酢だまり氷」の始まりだ。
びっくりするのは、酢醤油と一緒にイチゴなど他のシロップもかけて食べること! あまり美味しそうには思えないのだが…実際食べてみると癖になるのだろうか?
「あかふく氷」・三重県
三重県のご当地かき氷は、伊勢名物の和菓子・「赤福」をアレンジした「あかふく氷」だ。抹茶シロップをたっぷりかけたかき氷の中に、あんこと餅が隠れている。
1961年の夏、海水浴客に振る舞ったのが始まりで、今でも赤福の各店舗で夏季限定メニューとして提供されている。ほうじ茶と一緒に召し上がれ!
「白くま」・鹿児島県
こちらはスーパーやコンビニなどで見かけたことがある人も多いのでは? 鹿児島のご当地名物・「白くま」は、缶詰のフルーツや小豆あんをトッピングし、練乳をかけたかき氷だ。
「白くま」の名前の由来は、練乳のパッケージに白くまが描かれていたからというものと、トッピングのレーズンを目に見立てると白くまの顔に見えたからというものがある。…当たり前だが、本物のシロクマは鹿児島にはいないぞ!
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【追加雑学②】実は世界的スイーツ?各国のかき氷
かき氷は決して日本だけの専売特許ではない。世界各国にはいろんなかき氷があるぞ!
アメリカ
アメリカでかき氷は「shaved ice」または「snow cone」と呼ばれる。
日本ではかき氷シロップといえばイチゴやメロンが定番だが、こちらのラインナップはブルーベリー・ラズベリー・スイカ・パイナップル・キウイなど、日本ではあまりお目にかかれないものばかりだ。
そしていかにもアメリカらしく、色も味も日本のものに比べるときつい。見栄えがいいからと欲張ってシロップを複数かけると、もう何の味だかわからなくなってしまうのでご注意を!
以下の動画では、ニューヨークの屋台でかき氷が売られている様子が見られる。氷の削り方も、日本とは違うようだ!
台湾
実はかき氷は台湾スイーツの代表格なのだ!
氷の削り方にもこだわりがあり、ふわふわした「雪花冰(シュエホワビン)」・シャリシャリした「剉冰(ツォービン)」・クラッシュアイスのような「刀削冰(ダオシャオビン)」とそれぞれ食感が異なるかき氷が楽しめる。
ここにシロップはじめ、フルーツやゼリー、タピオカ、アイスクリームなどバラエティ豊富なトッピングをたっぷり乗せるのが台湾かき氷の特徴だ。なかにはシーフードをトッピングした変わり種も存在するとか…。
以下の動画では、台湾の人気かき氷が紹介されているぞ。ティラミスかき氷やピーナツかき氷など、実にユニークなかき氷が軒を連ねている!
フィリピン
ミニストップの人気スイーツ・「ハロハロ」は実はフィリピン発祥のかき氷! こちらも台湾同様、トッピングはフルーツ・アイス・プリン・タピオカ・豆の甘煮・ゼリー・ココナッツなど、とっても具沢山だ。
ちなみに、「ハロハロ」はタガログ語(フィリピンの公用語)で「ごちゃ混ぜ」という意味である。トッピングもアイスも全部いっしょくたに混ぜて食べるのが美味しい!
雑学まとめ
今回はかき氷についての雑学をご紹介してきた。
今やお祭りの屋台などでおなじみのかき氷が、その昔は貴族しか食べられない幻の存在だったとは…。また平安貴族だけではなく、古代中国や古代ギリシャの王侯貴族も食べていたというから、当初は本当に高級な食べ物として扱われていたのだ。
ちなみに、ふわふわのかき氷はお店でしか食べられないイメージがあるが、自宅でもかんたんに作れるぞ! ポイントは2つ。砂糖水で氷を作る・製氷機から出したら少し置き、霜が取れて透明になった氷を使うこと。
「貴族じゃないからかき氷にそんなにお金は払いたくないけど、お店の味は再現したい」という方はぜひお試しあれ!