トウキョウトガリネズミという動物がいる。全長8cm・体重2gほどの、世界最小のほ乳類ともいわれる動物である。
このトウキョウトガリネズミ、どう考えても東京に住んでいるに決まっている。東京に住んでいるとがったネズミだからトウキョウトガリネズミ。しっくりくるネーミングである。
ところが! この動物、なんと東京には住んでいないのである。それでも、住んでいるところが千葉か埼玉あたりならいい。「首都圏」ということでお茶を濁そうじゃないか。
しかし、彼らが住んでいるのは首都圏ですらない。北海道に住んでいるのである。極寒の地に住んでいながら「トウキョウ」トガリネズミと名づけられてしまった理由についての雑学を調べてみた。
【動物雑学】北海道にしかいないのに「トウキョウ」と名のつくネズミがいる
【雑学解説】トウキョウトガリネズミの由来がヒドイ。
トウキョウトガリネズミが初めて発見されたのは、1903年のこと。イギリスの動物学者であるホーカーという人が、死んでいるトウキョウトガリネズミを発見。ビンに保存した上で採集地を記したラベルを貼った。
このラベルが後に、トウキョウトガリネズミの命名に関わってくるのである。
1906年、後にトウキョウトガリネズミと呼ばれることになる動物は、発見者の名前をとってホーカーヒメヂネズミと名づけられた。
事情が変わったのは1920年代に入った頃である。この頃の日本では、新種の記載と命名が進んでおり、動物の種類の細分化も進んでいったのだ。
そしてヂネズミ属もその対象となった。ホーカーヒメヂネズミはもともとヂネズミ属に入っていた。しかし、大きさや歯に違いがあることから、ヂネズミと区別するために「ヒメ」ヂネズミとされていたのである。
新種の記載が進む中で、ヂネズミ属が、ヂネズミ属とトガリネズミ属に分かれた。その際にホーカーヒメヂネズミは、トウキョウトガリネズミへと改名されたのだ。
この改名のときに参考にされたのが、ビンに貼られていたラベルである。採集地として記載されていたのは「Yedo Inukawa」という言葉だった。
これを見た新たな命名者が、東京に生息しているものと思い込んで、トウキョウトガリネズミと命名してしまったのである。そんなバカな勘違いがあろうかと思うが、実際にあったのだから驚きである。
ちなみにその当時、トウキョウトガリネズミはホーカーが発見した1匹しか発見されていなかった。そのため、採集地についてもラベルに頼るしかなかったというわけだ。
初めての発見から54年後、北海道弟子屈町(てしかがちょう)で9頭のトウキョウトガリネズミが見つかったことにより、YedoとYezoの書き間違い説が浮上。
しかし、1903年といえば、江戸から東京に、蝦夷から北海道になって30年以上経っている。ホーカーがなぜ今さら、それらの言葉を使って記録しようとしたのかは謎のままである。
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【追加雑学①】トウキョウトガリネズミはモグラの仲間
トウキョウトガリネズミ、なんとネズミですらなかった。「トウキョウ」も「ネズミ」も嘘だったのだ。「トガリ」についてはどうなのか。こちらの動画をごらんいただきたい。
トウキョウトガリネズミの鼻先がとがっていることがわかる。どうやら、名前の中で納得できるのは「トガリ」だけである。
トウキョウトガリネズミはトガリネズミ目トガリネズミ属トガリネズミ科ということで、ネズミ目とは別の分類となる。
系統としてはモグラやハリネズミに近いとのこと。書いていて気づいたが、ハリネズミもネズミの仲間ではないということか。紛らわしい名前をつけないでほしい。
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【追加雑学②】トウキョウトガリネズミを常時見られるのは多摩動物公園だけ
トウキョウトガリネズミ、実は生きた個体が初めて捕獲されたのは1999年と結構最近である。
それまでは死んだ個体しか見つけることができなかったのだ。しかも、異なる環境下で見つかることが多く、捕獲が非常に困難だったのだ。
1999年にサロベツ原野で初めて生きた個体を捕獲。その後海岸沿いが捕獲しやすいことがわかり、15年ほどで150匹捕獲と捕獲数が飛躍的に伸びた。
しかし、その生息数はあまり多くないことが推察され、環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類とされている。
そのため、生きたトウキョウトガリネズミを見ることができるのは、東京にある多摩動物公園のみとなっている。パンダよりも希少といっても過言ではないだろう。
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雑学まとめ
東京に住んでいないどころかネズミでもないとは、トウキョウトガリネズミにはすっかり騙された。ラベルの書き間違いがここまでの混乱を生むとは、ホーカーも驚いていることだろう。
しかし、トウキョウトガリネズミが、北海道にしか住んでいない希少な動物であることを初めて知ることができた。
また、初めて生きたまま捕獲できたのが発見から90年以上あとというのもかなり驚きである。そこにたどり着くまでに紆余曲折あったのだろうと思うと、研究者の皆さまに頭の下がる思いだ。
今回の雑学でトウキョウトガリネズミに興味がでてきた方は、ぜひ多摩動物公園へいってみてほしい。