「むかしむかしあるところに…」という、昔話のお決まりフレーズ。今からどのような「物語」が始まるのだろうと、子ども心にワクワクしたものだ。
…子ども心にといったが、当然、物語は子どものためだけのものではない。
こういった昔ながらの物語は大人になった今だからこそ、その味わい深さがわかるものだ。忙しい毎日で忘れていた純粋な気持ちを、物語は取り戻させてくれる!
ということで、今回はそんな物語のなかで、日本最古といわれるお話の雑学を紹介しよう。
【歴史雑学】日本最古の物語は「竹取物語」
【雑学解説】竹取物語は源氏物語でも"日本最古の物語"と紹介されている
日本人なら誰しも、幼いころに一度は聞いたことがあるはずの童話『かぐや姫』。その元となったお話『竹取物語』は900年頃に作られた。
しかし…実は詳しい成立年や作者はまったく謎なのだ。
え…じゃあ、なんで日本最古だってわかるんだ? という話である。
平安時代に紫式部が残した『源氏物語』のなかで、竹取物語がこう紹介されているのだ。
物語の出で来はじめの祖(おや)なる竹取の翁
つまり、日本で一番最初に作られた物語だと書かれているのである。
おすすめ記事
-
本名じゃない!最古のペンネーム"紫式部"。名前の由来は?
続きを見る
また作者は謎ではあるものの…
- 当時の識字率の低さ
- 紙を入手することの難しさ
- 民間伝承や和歌に精通している人物でないと書けない
といった要素から、身分が高く、学のある人物であったことは確実とされている。候補として挙げられる人物には以下のように、けっこうな有名どころも名を連ねている。
- 『古今和歌集』の選者として小野小町の和歌も選出した紀貫之(きのつらゆき)
- 北野天満宮に学問の神様として祀られている菅原道真(すがわらのみちざね)
などなど。このほかにも平安時代の歌人など、数名が考えられるという。
竹取物語は創作性が高い
平安時代の初期に書かれ、伝承された『日本霊異記(にほんりょういき)』の方がより成立代は古いのではないか? という意見も出てくるかもしれない。
たしかに、『古事記』や『日本書紀』などのような神話や伝説、『日本霊異記』の説話なども物語といえるかもしれない。ただ、これらはすでにあった伝承を記録しただけのものと考えられている。
対する竹取物語は、昔話などの伝承を土台にはしているものの、作者自身が話を創造し、膨らませている部分が大半である。つまり物語としての創造性が高いこともあって、日本最古の物語は竹取物語とされているのだ。
そんな日本最古を誇る竹取物語は、2013年、スタジオジブリの『かぐや姫の物語』が公開されたこともあり、今や世界から称賛される物語となった! 以下はそのトレーラー映像だ。
現代の作品でありながら、物語の色を損なわない古めかしさのあるタッチ…。素晴らしい!
スポンサーリンク
【追加雑学】竹取物語には政治的なメッセージも含まれている
竹取物語には、かぐや姫に求婚する5人の貴族が出てくる。かぐや姫は、この5人の貴族に無理難題を押しつけては、結婚をかたくなに断り続ける。
結婚したくないあまり悪女になりきるかぐや姫と、なんとしても要求に応えてかぐや姫を自分のものにしたい! と意気込む貴族たちの攻防が、ハラハラすると同時にとても面白くもある。
恋におぼれた男たちの右往左往するさまの滑稽ぶりが、痛々しいほど際立っているのだ。
この箇所が物語の醍醐味といえるのだが、ここは当時絶対的な権力をもっていた貴族を、物語を通して批判しているともいわれている。貧しい暮らしを強いられていた翁に代わり、かぐや姫が富と権力を懲らしめるという政治的なメッセージを含んだ物語なのだ。
作者は不明ではあるが、当時の権力者である藤原氏に不満をもっていた人物であるのは間違いない。
そういえば作者候補に挙がっていた菅原道真は、反感を買っていた貴族たちの陰謀で左遷されて、最後は悲運の死を遂げた人物である。彼が左遷先で書いていたとしたら、それこそ相当な恨みが込められているぞ…。
おすすめ記事
-
晩年が悲惨…。菅原道真はもともと学問の神様ではなかった!
続きを見る
「ざまあみろ!」なんて言いながら書きなぐっていたのだろうか…。
貴族たちのモデルも実在する
ちなみに、江戸時代の国文学者である加納諸平(かのうもろひら)は、物語に登場する名前が実在の貴族たちを連想させているとも指摘している。
この5人のうち、
- 阿部御主人・大伴御行・石上麻呂足…飛鳥時代に実在した貴族の名前そのまんま
- 石作皇子…石作氏と同族で、古墳時代の宣化天皇の子孫である多治比嶋(たじひのしま)
- 車持皇子…母親の姓が「庫持」だった藤原不比等(ふじわらのふひと)
…と実は揃いも揃って、672年の壬申の乱に関わっている人物である。この点から、飛鳥時代末期~奈良時代初期ぐらいが舞台だということが推測されているぞ。
こういうのって、歴史が好きな人なんかはちょっとワクワクする要素なんじゃないか。
日本最古の物語「竹取物語」の雑学まとめ
日本最古の物語『竹取物語』についての雑学をご紹介した。作者不明。かぐや姫の正体も不明。改めて見てみると謎が謎を呼ぶ成り立ちに興味を惹かれる。
近年の映画作品を観るのもいいし、現代語訳された書籍もたくさん出版されている。さまざまな作品に触れて、いろいろと考察してみるのも楽しそうだ! これこそ大人流の物語のたしなみ方ではないか。