白飯にひき肉を乗せた、ボリューム満点のメニューかと思えば、レタスやアボカドをふんだんに使ったヘルシーなアレンジも。その手軽さから幅広い層の人気を集めているタコライス。
タコライスと聞けば、食べたことがなければ「タコが入っているのかな」なんて思う人もいるかもしれない。しかし…タコライスに海鮮のタコは入っていない。
そのタコじゃなくて、異国情緒たっぷりのあの料理からとったタコなんだよね!しかし…日本でどうして海外風のこのメニューが生まれたのだろう。今回はそんなタコライスの発祥の雑学に迫ってみよう。
【食べ物雑学】沖縄発祥のメニュー、タコライスの由来は"タコス"
【雑学解説】タコライスはお金のない若い米兵のために作られた!
タコライスは1984年、沖縄県金武町(きんちょう)にある「パーラー千里」で考案されたメニューだ。
どうしてこの時代の沖縄にて、異国情緒たっぷりの新メニューが完成したのか。これには金武町の米軍キャンプ・ハンセンが関係していた。地図を見るとたしかに米軍キャンプの目の前にパーラー千里があることが確認できる。
このパーラー千里の店主・儀保松三(ぎぼまつぞう)さんは兼ねてから米兵を相手に、沖縄の各地でバーを経営していた。なんでも米兵同士のケンカでお客が出禁になったりなどのトラブルはしょっちゅうで、商売を波に乗せるのに苦労していたという。
そんな折、キャンプ・ハンセンができたことで、金武町に米兵向けの飲食店を開くのがブームになっており、儀保さんもその波に乗ることにしたのだ。
ただ…儀保さんがパーラー千里をオープンした1984年というのは、ブームに乗っかるにしては少し遅いぐらいの時期。なにかお客のニーズを満たす新しいものがないと、ここでも商売を成り立たせるのは厳しい。
そこで儀保さんは当時の米兵たちが置かれている状況を踏まえ、「安価でボリュームのあるメニューを作れば、米兵たちも喜んでくれるんじゃないか」と、タコライスを考案したのだ。
というのも日本は1973年から、その国の情勢に合わせて外貨の価値を決める「変動相場制」を導入しており、1984年当時は円高ドル安の状況にあったのである。つまりアメリカ人たちからすれば「…日本物価高ぇ…」という感じだったわけだ。
メキシコ料理のタコスの具材を使った海外風メニュー
儀保さんは新メニューに「安い・ボリュームがある」だけでなく、海外料理の要素も組み込んだ。
タコライスはメキシコ料理の「タコス」の具材を白飯にのせたものである。儀保さんがバーを経営していたときに出していたタコスがアメリカ人に人気だったため、この発想にいたったのだという。
タコスは合いびき肉と玉ねぎをスパイシーな「チリペッパー」で炒め、トルティーヤで巻いて、トマトベースの辛い「サルサソース」をかけたメキシコ料理。
このひき肉をトルティーヤではなく、ご飯にのせて出したところ、米兵のあいだでたちまち人気となった。なつかしい祖国の味と、安価でお腹いっぱい食べられるという点が大いにウケたわけだ。
儀保さんは英語ができなかったが、「タコス&ライス」なら、アメリカ人でも一発でわかるので、そういう意味でもタコライスを看板メニューにしたことは好都合だったようだ。…ていうか、英語できないのにずっとアメリカ人相手の商売してたってすごくないか?
以下の動画でパーラー千里とタコライスが紹介されている。これは食べ応えがありそう!
ニューヨークに行くと、「チキンオーバーライス」という屋台飯がそこかしこで売っているのだが…パーラー千里のタコライスの風貌はそれとどこか似ているような気がする。以下で紹介されているのがチキンオーバーライスだ。
ランチはMOMAの近所の超人気屋台、The Halal Guysのチキンオーバーライス。NY留学経験のある友達に「必ず食べろ」と念を押された品です。ふわふわのサフランライスにクリスピーなチキン、スパイシーなソース。評判通りの美味しさでした。朝はコーシャ、昼はハラル。この街の多様性を味わっております。 pic.twitter.com/HpJQCP1wio
— SaltyDog/塩崎省吾 Kindle本『焼きそばの歴史《上》:ソース焼きそば編』発売中! (@SaltyDog_wow) May 1, 2018
うん、生野菜を使っているところといい、やっぱり似てる! タコライスの成り立ちは、単純にメキシコ料理由来というだけでなく、アメリカ人の母国愛をくすぐるものになっていたのではないか。
またパーラー千里では、メニューも以下のように好みに合わせて選ぶことができる。
- タコス…500円
- タコライス…400円
- タコライスチーズ…500円
- タコライスチーズ野菜…600円
実はタコライス考案当初、よく食べに来ていた米兵は生野菜を嫌がったため、このようにメニューが分かれているのだという。野菜も食べなきゃバランス偏るぞ! 兵士なんてそれこそ身体が資本じゃないか! …まあ、選べるのはうれしいけどね。
それにしてもこのボリュームでこの値段ってめっちゃお得! 以下で紹介されているのは動画とはまた違うタコライスチーズ野菜。美味そう…。
キング級のボリュームとおいしさ!タコライス発祥の店「パーラー千里」(平成27年6月に閉店)の創業者家族が経営するタコス&タコライスの専門店を紹介!
⇒https://t.co/eyp6UbDJUc pic.twitter.com/gapTZuf7BM— たびらい沖縄 (@fanokinawa) December 15, 2015
【追加雑学①】パーラー千里の味は系列店のキングタコスで!
残念ながらパーラー千里は2015年6月29日に閉店してしまった。しかしその味は現在も系列店の「キングタコス」に引き継がれているので、変わらず金武町にて味わうことができるぞ!
https://twitter.com/snowballcondo/status/1231399642111176704
キングタコスはパーラー千里が開店した翌年、1985年に儀保さんが同じ金武町内に開店したタコライス専門店。当初は「パーラー千里の物件を立ち退かなければならないかも…」という状況から作られたお店だったという。
開店の際、儀保さんは「自らが生み出したタコライスで頑張っていくんだ」という想いを胸に、お店の名前をキングタコスと名付けたのだ。
現在は経営者の座が儀保さんの孫である島袋小百合さんに譲られ、沖縄県内に7店舗を展開されている。儀保さんの郷土愛とタコライス愛を引き継ぎ、本土への出店はなし。全店舗が一族経営というこだわりのお店だ!
お店のカウンターに立っている店員さんにも、儀保さんのお孫さん、ひ孫さんが混ざっているかも? ハンバーガーやポテト、フライドチキンなど、よりアメリカ人のニーズを考えたメニューも揃えられている。
以下はキングタコス金武本店のレビュー動画。ファーストフード店感覚で入れるのがうれしい!
ちなみに「赤・白・緑・黄色」で作られた看板は、タコスをモチーフにしているそうだ。
- 赤…チリペッパーで炒めたひき肉
- 白…ご飯
- 緑…レタス
- 黄色…チーズ
という感じ。
金武町から全国へ広がったタコライス
キングタコスの味は沖縄でしか味わえない。しかし、とにかくたくさんの人に食べてもらいたいという考えでタコライスを作った儀保さんにはあまり商売っけがなく、彼は商標登録を行わなかった。
そのおかげで、今となってはさまざまなアレンジがされたタコライスが、日本全国、場合によっては海外でも食べられるようになったのだ!
なんでもタコライスが人気になった当時は、近隣で真似をするお店も相次いだそうだが、それでも儀保さんはまったく気にしていなかったという。器がでかい。
作った本人は「カレーライスみたいなもんだろ」と思っていたそうだが、けっこうすごい開発しちゃってますよあなた!
こうしてすっかり国民食の仲間入りを果たしたタコライスは、沖縄ではそれこそ社会に溶け込み、「ケンタッキー・フライド・チキン」「吉野家」といったチェーン店でもメニュー化されているぐらいである。
沖縄吉野家のイカれた限定メンバーを紹介するぜ!
沖縄B級グルメの代表格、タコライス!
牛丼の具のせタコライス、ビフタコ!
沖縄ソウルフード、沖縄そば!
沖縄ふるさとの味、ゆし豆腐!
浦添の高江洲そばが元祖だ、ゆし豆腐そば!以上だ!! pic.twitter.com/wIZTh5YTag
— じゅんなま (@viva_happousyu) December 26, 2019
全国チェーンのメニューにまでなってしまうタコライス。冷静に考えてすごすぎ…。
【追加雑学②】都内のお店でも!さまざまにアレンジされるタコライス
パーラー千里、もといキングタコスのタコライスはひき肉とチーズ、レタスなどの生野菜を使ったシンプルなものだった。ここから全国に広がったタコライスはよりバラエティー豊かなアレンジがされているぞ!
なかでも、今回は都内のお店をいくつか紹介しよう。
吉祥寺「ハモニカ・クイナ」
吉祥寺のタコライス専門店「ハモニカ・クイナ」では、アボカドチーズタコライスが定番メニューとなっている。
アボカドチーズタコライス (@ ハモニカ・クイナ 吉祥寺本店 - @tacorice917 in 武蔵野市, 東京都) https://t.co/MlwcH80Gxw pic.twitter.com/iS2gNHwzbl
— アオヤマ ミント (@MintoAoyama) May 30, 2015
濃厚な味わいのアボカドを、ご飯とひき肉に絡ませて食べるとまた美味いんだよね! 駅近なので都内住みの人はぜひ。ソーキそばもあるよ。
江古田「我達(ワッター)食堂」
江古田にある「我達食堂」で食べられるのはオムタコライス。目玉焼きのアレンジはよく見かけるが、オムライス風はちょっと珍しい。これもまた違った食感が味わえるぞ!
ふつうのタコライスは高カロリーだけどこのオムタコライスはカロリーを大量のオムでがっちり包んでいるので実質0kcal。@江古田・我達食堂 pic.twitter.com/F9VEXOxJDM
— みずしな孝之 (@sinamism) January 21, 2019
こちらも駅近の好立地! 沖縄飯が恋しくなったら行ってみよう。
このほかにもお店によって変わり種がたくさんあって、かつて筆者が食べたのは、タコス部分に花椒のきいた「麻婆タコライス」など。
そういえばダイエットむけで水切り豆腐の上にタコスがのった「タコ豆腐」なんてものもあった。具材どころかベースまでマジで自由な料理である。
https://twitter.com/Family_doctor19/status/1261296289645387776
沖縄料理のお店に限らず、タコライスはカフェ的なお店で提供されていることも多い。お近くのカフェにふらっと入ったときなんかにも、置いていないかチェックしてみよう! 自分だけのお気に入りを見つけるのも楽しい。
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【追加雑学③】タコライスは自宅でも簡単に作れる!
お店で食べればそりゃあおいしいけど、タコライスは自宅でも簡単に作ることができる。
ベースになる白飯は炊いたご飯そのままでOK。いちばんの特徴となるひき肉を炒めるときのチリペッパーも、実は100均でも売っているぐらい手軽な調味料である。千切りレタスやトマトを一緒に乗せれば、野菜もしっかり摂れる。
うおお…めっちゃ簡単! 一人暮らしのスピード飯にぴったりじゃないか!
またチリペッパーは辛いというよりも風味が独特な感じなので、子どもでも案外喜んで食べる。苦手な場合はカレー粉を使うのもおすすめだ。
以下は人気ブロガーみきママの10分で作れるタコライスレシピの動画。めっちゃわかりやすく解説してくれているのでぜひ見てほしい!
なるほど! 生野菜を使うから、ひき肉を炒めてるあいだに野菜を切るなんて芸当もできるわけだ。これはマジで早い!
雑学まとめ
今回はタコライスについての雑学を紹介してきた。
当初のタコライスは、お金のない若い米兵のために作られたメニュー。それが今は全国に広がり、カフェの定番メニューの一枠にもなりつつある。沖縄では吉野家さえも出しているのはちょっとビビった…。
お手軽メニューゆえ、そのアレンジも自由自在。タコライスにタコが入っていなくても、オリジナルでタコを入れちゃうのも普通にありだ! あなたもぜひ自分だけのアレンジタコライスを作ってみてほしい。