人類の進歩というのは、本当に目覚ましいものだ。コロンブスの時代で考えれば、ヨーロッパからアメリカへ行くことは一世一代の大冒険…それが今や、飛行機に乗れば一日もかからずに辿り着くことができる。
人間ってすげーな…と感じさせられるが、同時に大自然の中に暮らす動物たちだって侮れない。なにせ科学に頼らずとも、自力で飛行機より高く飛べる鳥がいるぐらいだ。
今回紹介するのは、すごいのと同時に、ちょっぴりマヌケなのが憎めない、そんなあの鳥に関するトリビアだ! …いや、鳥ビアだ! 鳥界のアスリートとも呼べる、脅威の飛行記録に迫っていこう!
【動物雑学】世界で一番高く飛べる鳥は飛行機よりも高く飛べる?
【雑学解説】サバンナの掃除屋・マダラハゲワシは上空11,278mで飛行機と衝突した
世界で一番高く飛んだことが記録されている鳥は、サバンナの掃除屋・マダラハゲワシだ。西~東アフリカに広く生息するハゲワシの仲間で、その名の通り、褐色に白いブチ模様のような羽が特徴である。
全長は1メートルで、翼を広げると3メートルにもなる最大級のハゲワシだ。
トピック展「今を生きる恐竜たち」を開催中! 大空を飛びまわり、ときには食卓に上る現代の恐竜=鳥たちの姿を紹介します。写真は飛行高度一万メートル以上!「世界一高く飛ぶ恐竜」のマダラハゲワシです。展示は4月6日まで。 pic.twitter.com/INYyKjy2yp
— 岩手県立博物館 (@Iwahaku) March 1, 2019
堂々たる立ち振る舞い! ハゲててもカッコイイ!
で、このマダラハゲワシ…なんと上空11,278m地点で、飛んでいた飛行機と衝突したことがあるという。世界一高い山・エベレストは高さ8,848m。マダラハゲワシはそのはるか上空を飛ぶことができるのだ!
マダラハゲワシも、まさかそんな上空で鉄の塊にぶつかるとは思ってもみなかっただろう…。「どや! わし、こんなに高く飛べるんやで! ハゲ"ワシ"だけにな!」などと思っていたら、いきなりゴツンである。
…と、ちょっとネタにしてしまったが、そのときはジェットエンジンに吸い込まれてしまったというから、実はあんまり笑える話ではない。
マダラハゲワシが悲惨な状態になってしまったのはいうまでもないし、彼らはなんといってもけっこうな巨体だ。それこそ飛行機のエンジンが不具合など起こそうものなら大惨事である。
マダラハゲワシの脱走でイギリスの航空状況に影響が…
2010年にも、スコットランドの猛禽類センター「ワールド・オブ・ウィングス」で行われていた猛禽類ショーの途中で、7歳になるマダラハゲワシのメス"ガンダルフ"が脱走する事件が起こり、現地の航空状況に影響を及ぼしている。
なんでもイギリスの航空管制サービスが、グラスゴー空港を利用する航空機のパイロットに対し「マダラハゲワシのガンダルフを警戒するように」という警告を出す騒ぎになったのだとか…。普段は乱気流などと戦っているパイロットたちが、まさかの鳥にご注意である。
ちなみにガンダルフはとても利口なマダラハゲワシで、普段は脱走を図るようなことはしない。この事件は風に煽られて施設に戻れなくなってしまったがゆえだという。
イギリスは本来マダラハゲワシの生息地ではないのと、飼われていた個体ということも相まって、ちゃんと暮らしていけるのかちょっと心配である…。
以下の動画はガンダルフの猛禽類ショーを映したものだ。人に慣れていて、ものすごく賢いことがわかる。
【追加雑学①】マダラハゲワシはサバンナの掃除屋
驚くべき飛行能力をもったマダラハゲワシ。飛行機との衝突エピソードを聞いていると、いよいよどんな鳥なのかが気になってくる。実は彼らはサバンナの生態系を守るうえで、非常に重要な役割を果たしている鳥だ。
マダラハゲワシはライオンなどの肉食獣が食べたあとのおこぼれを食べる、屍食(ししょく)をしながら暮らしている。マダラハゲワシに限らず、ハゲワシの仲間はみんなこの生態をもっている。
彼らは非常に視力が良く、はるか上空から地上にエサがないかを、広範囲に渡って探すことができる。ずば抜けた飛行能力は、なにより獲物の在り処を見つけるための手段なのだ。
そして彼らが生態系を守るうえで重要といわれる理由は、エサを平らげる早さにある。マダラハゲワシは1分で1キロもの肉を食べられるといい、シマウマやバッファローぐらいの草食動物なら、群れでやってきて30分もあれば片付けてしまう。
マダラハゲワシは大型の肉食獣が去ったあとにしか肉にありつけないため、さっさと食べないと腐ってしまうから早いのだろうか…。彼らは体内の殺菌能力も高く、少々腐りかけでも平気だという話もあるぞ!
ともあれこの完食の早さのおかげで、死体に害虫が群がったり、感染症が蔓延したりという事象が防げているのだ。彼らがいなければ、サバンナの動物たちのあいだに病気が蔓延して、絶滅危惧種がさらに増えてしまうかもしれない。
以下の動画でマダラハゲワシが獲物を捕らえる場面が映されている。骨だけ綺麗に残して食べる様子に感心させられる…。掃除屋の名は伊達ではないのだ!
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【追加雑学②】マダラハゲワシが絶滅危惧種に…?
このように生態系の鍵を握っているマダラハゲワシだが、実は近年、彼らは絶滅危惧種に指定されている。え…腐りかけの肉を食べても平気なぐらいたくましいのに!?
…と、思うところだが、何を隠そう、彼らを殺しているのは密猟者である。
密猟者が動物を殺すと、視力のいいマダラハゲワシたちは、その死体をめがけてすぐに集まってくる。彼らが自分たちの上空を飛んでいると、密猟がバレてしまうため、密猟者としては都合が悪いのだ。
ジンバブエの国立公園では、2012~2013年にかけて、毒薬を振りかけられた動物の死体を食べたマダラハゲワシ約700頭が死んでしまったことが確認されている。
またアフリカのハゲワシだけではなく、アジアに住むハゲワシには、以前広く使われていた家畜用の薬が悪影響を及ぼし、10万頭以上いたものが、今は数千頭に減っているという。このように彼らの数が減っている原因はひとつではないのだ。
前述したように、ハゲワシは自然界の掃除屋。彼らが絶滅の危機に瀕しているということは、同時に多くの地域で生態系が崩壊しつつあるということだ。
世界規模で展開されるハゲワシの保護計画
こういった状況を踏まえ、日本の鳥類保護団体・バードライフも動き出している。
バードライフは国際自然保護連合(IUCN)などと協力し、2029年までにハゲワシの個体数を十分なレベルまで回復させる「Vulture MsAP(アフリカ・ユーラシアに分布するハゲワシを保護するための行動計画)」という計画を立てている。
解決しなければいけない問題は…
- 毒薬や密猟者の取り締まり
- 発電施設による感電の防止
- 生息地の自然の回復
などなど。
ハゲワシの行動範囲はとても広く、マダラハゲワシを例に考えても、その移動距離は100kmにも及ぶ。そのため保護には国際的な協力が不可欠で、これはかなり大規模な計画だという。
私たちがこういった現状を知っても、できることは少ないと思うかもしれない。しかし今、アフリカやアジアの自然界では、世界規模の対策が必要になるほどの生態系の危機が訪れていることを認識しておくことが大切だと思うのだ。
もしなにか行動を起こしたいと思う人がいるなら、バードライフが寄付を受け付けているので、そういう面で協力するのもひとつである。
また、少し長い動画だが、インドでのハゲワシ保護の取り組みの紹介動画も載せておくので、こちらも興味があれば目を通してほしい。
【追加雑学③】キバシガラスは標高8,000m付近にて登山家の食料を奪う!
マダラハゲワシの次に高い場所で発見例がある鳥は、なんと都会でも馴染み深いあのカラスの一種だ。その名も「キバシガラス」。一番高い地点の報告例だと、なんと8,235m地点で見かけたという話がある。ほぼほぼ山頂ではないか!
以下はヨーロッパアルプスの最高峰・4,810mの標高を誇るモンブランの高所に生息するキバシガラスを捉えた動画だ。名前の通り、黄色いクチバシが特徴的である。
と…彼らもめっちゃすごい鳥には違いないのだが、残念ながら、マダラハゲワシのように愛着の湧く話はあまりない。というのも、キバシガラスはエベレストを登頂する登山家にイタズラすることがあるのだ。
キバシガラスが高い山のうえにやってくるのは、登山家の食料を狙うためだ。テントを鋭いくちばしで突き破って奪おうとすることもあるというから、なかなかに恐怖である。
キバシガラスの影響で登頂を諦めざるを得なくなった登山家ももちろんいる。日本人だと2011年10月12日、登山家・栗城史多(くりきのぶかず)さんは、7,800m地点でキバシガラスの被害に遭い、泣く泣く下山を強いられることとなった。
このとき栗城さんは雪の中に、食料や備品などを隠しておいたのだが、キバシガラスはそれさえも掘り当て、荒らしたのだ。
致命傷になったのは、ガスボンベがなくなってしまったこと。空気の薄い山頂付近で、ガスボンベを使わないのは命取りだ。これを理由に、栗城さんは下山の決断を下した。山頂を目前にして妨害してくるとは、なんだか意地の悪い話である。
雑学まとめ
今回は世界一高く飛べる鳥・マダラハゲワシの雑学を紹介した。
マダラハゲワシにしても、キバシガラスにしても、高所で発見される鳥は貪欲でたくましいイメージをもっているヤツが多い。きっと生きることへの貪欲さが、普通の鳥なら踏み入れないほどの境地へ彼らを誘うのだろう。
マダラハゲワシが高く飛ぶ理由は、より広い範囲のエサを探すためだが、ひょっとするとほかの鳥に「高く飛べるマウント」を取りたい気持ちも…。