陸上競技の中でも人気のマラソン。テレビ中継されているときには、レースの行方を固唾をのんで見守ってしまう。私はテレビ観戦が専門だが、最近では趣味でマラソンを楽しむ市民ランナーも増えてきている。
オリンピックにおいても、マラソンは近代オリンピックの第1回大会から取り入れられた。選手たちは祖国の威信を賭け、代表選手としての誇りと自信を胸に約40kmの長い道のりを走り切るのだ。もう、本当に胸熱である。
しかし、オリンピック第3回大会で事件が発生する。俗にいう「キセルマラソン事件」だ。ゴールまでの40kmはたしかに長くツライ。…でも、車を使うなんて破天荒すぎる!
今回の雑学では、セントルイスオリンピックのマラソン競技に現れたとんでもない選手について紹介しよう。
【オリンピック雑学】五輪第3回大会マラソンで、「車で先回り」した選手がいた
【雑学解説】不正しまくりの「キセルマラソン事件」とは?
マラソンの途中に車に乗ってゴールに向かった「キセルマラソン事件」は、不名誉な事件としてオリンピック史に名を残している。
マラソンのレース中にキセル乗車!
オリンピックのマラソン競技に残念な伝説を残してしまったのは、アメリカ代表のフレッド・ローツ。1904年に行なわれた近代オリンピックの第3回大会セントルイスオリンピックでのことだ。
マラソン競技が行われた当日は、気温30℃以上とかなり過酷なコンディションだった。4か国31人の選手でスタートしたが、途中で何人もの選手が脱水症状などで倒れてしまった。
ローツもその一人で、約20kmほど走ったところで日射病で倒れた。そこへ通りがかった一台の車。ローツはその車の運転手に助けられ、ゴールである競技場へ向かったのだ。
しかし、ゴールまであと8kmという所でその車がエンスト。ローツはなにを思ったのか車を降り、そのまま競技場へ走り出した!
そして、なに食わぬ顔で競技場に入りそのままゴーーール! 平然と「キセル乗車」をやってのけたのだ。途中で何があったのかわかっていない観客たちは大歓声を上げただろう。
金メダルが授与されようとしたそのとき、先ほどの車の運転手が到着。それまでに何があったのか証言したためローツの行為がバレてしまい、彼はマラソン界から永久追放となった。
ローツは「ふざけただけ」といっていたそうだ…。
繰り上げで金メダルをゲットした人もちょっと…
ローツが不正を働いたため、金メダルは2番目にゴールしたアメリカのトーマス・ヒックスの手に。ローツがゴール地点に着いてから約1時間後に本当にゴールした人だ。タイムは3時間28分35秒。
普通に走ったら3時間半もかかるのに、ローツは2時間半でゴールしたということになる。ローツがゴールした時点で、誰かおかしいと思う人はいなかったのか。
しかし、金メダリストとなったヒックスはドーピングをやっていたという。興奮剤入りのブランデーを飲んでいたらしい。
ただ、セントルイスオリンピックの時点ではドーピングに対する禁止規定が設けられていなかったため、正式な優勝者として認められているのだ。
現在からすると、セントルイスオリンピックのマラソンはなんとも釈然としないレースとなってしまった。
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【追加雑学①】「キセルマラソン」っていってるけど、「キセル」って?
「キセルマラソン事件」の呼び名は、「キセル乗車」と呼ばれる電車の不正乗車方法からきている。
「キセル乗車」は、電車などで目的地に行く際に中間部分の運賃を払わないことである。
たとえば、A駅からB駅・C駅・D駅を通ってE駅まで行きたいとき、まずA駅からB駅までの切符を買い乗車。B駅からD駅までの運賃を払わずD駅に行き、最後はD駅からE駅までの1区間分の切符で下車するということだ。
「キセル」は漢字で書くと「煙管」。たばこを吸うための道具で、刻んだたばこを入れ火をつける金属部分「雁首(がんくび)」・たばこの煙が通る、竹などでできた細い管「羅宇(らう)」・煙を吸うための金属製の「吸い口」の3パーツに分かれている。
「“両端”の区間だけ“金”を払って、中間は払わない」ということから、「“両端”だけ“金”属」でできている煙管にたとえられ、「キセル乗車」と呼ばれるようになったようだ。
【追加雑学②】第3回セントルイスオリンピックはアメリカの独壇場
前回大会の第2回大会パリオリンピックに引き続き万博の一部として開催された第3回大会は、参加国が前回より激減していた。
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開催年の1904年は日露戦争が勃発した年である。よって、前回参加のロシアは今回は当然不参加。
国際関係が緊迫していることと、ヨーロッパからアメリカへの渡航が大変だったということで、フランスをはじめとするほとんどのヨーロッパ勢が不参加になったようだ。
アメリカは開催国ということもあって、金銀銅合わせて280個のメダルのうち239個も獲得している。2番目にメダル獲得数が多かったドイツは全部で13個という結果で、かなりの差があった。
91種目中42種目でアメリカ以外の参加者なしという状況で行われたのだから、当然といえば当然だが…。しかし、次回以降現在まで、アメリカはオリンピックメダル獲得常連国としてその名を轟かせている。
雑学まとめ
「キセルマラソン事件」についての雑学を紹介してきた。過酷な状況でのレース中に倒れてしまい、車に乗って移動するのは間違っていないと思う。メダルや記録も大事だが、命に代えることはできないのだから。
でも、車を降りてレースを再開してしまうなんて何を考えていたのか…。正々堂々と勝負するのがスポーツの基本中の基本。「ふざけてやった」と釈明したって、非難されるのは当たり前だ。
キセルマラソンを行ったフレッド・ローツは一度マラソン界を追放されたが、後に謝罪が受け入れられ復帰し、翌年1905年のボストンマラソンでは優勝している。
実力は申し分ない選手なのに、一度の行為で選手としての名前に、自分で泥を塗ってしまったのは本当にもったいない…。
次のオリンピックに出る選手たちには、正々堂々と勝負して私たち観客を大いに盛り上がらせてくれることを期待したい!