大きな公園・学校・病院などでよくみかけるヒマラヤスギ。伸びすぎたクリスマスツリーみたいな感じのでっかい木である。
ヒマラヤのくせに、いかにも日本の心を感じさせる気なのだが…なかには"杉"と聞いただけで「イヤーっ!」となる人もいるんじゃないか。
そう、春先に我々を襲う、スギ花粉症が恐ろしい。あんなに大きな木なのだから、さぞかしたくさんの花粉をまき散らすに違いないぞ!
…と思いきや、なんとヒマラヤスギが花粉症の原因になることはめったにないという。どういうこと? 杉の木なのに? 今回はそんなヒマラヤスギに関する雑学だ!
【自然雑学】ヒマラヤスギは花粉症の原因ではない
【雑学解説】ヒマラヤスギでは花粉症にならない
ヒマラヤスギはヒマラヤ西部~アフガニスタン東部が原産のマツ科の木。高さ40~60mにもなり、美しい円錐状の樹形を作ることから、世界三大造園木にもなっている。
ここで、「けっこうすごい木なのだな」と思うのと同時に目につくのは、杉という名前が付いているのにマツ科だということだ。そう、花粉症の原因となるのは大半が杉の木なので、マツ科のヒマラヤスギが花粉症の原因になることは少ない。
「だから花粉症だからヒマラヤスギ嫌い!」って人は、実は思い込みの可能性があるぞ。杉より少ないってだけで、松の花粉症もあるにはあるんだけどね。
それより気になるのは、なんで松なのに杉って嘘ついてんの? ということである。これにはヒマラヤスギの英語の呼び名が関係しているぞ。
ヒマラヤスギが松なのに杉と呼ばれる理由
ヒマラヤスギは英語でヒマラヤンシダー(Himalayan cedar)。
「シダー」とは本来ヒマラヤスギ属をさす言葉だが、英語圏ではインセンスシダー(ヒノキ科ショウナンボク属)やウェスタンレッドシダー(ヒノキ科クロベ属)など、広い範囲の針葉樹に使われている。
そして日本の杉も針葉樹であることから、英語で Japanese cedar(ジャパニーズシダー)と呼ぶ。このことから、cedar(シダー)を「スギ」と訳すようになり、 Himalayan cedar も「ヒマラヤスギ」となったのだ。
野暮なことをいうと、インド原産なのにJapaneseと付いているのはちょっと違和感。
ちなみに英語の呼び方以外にも、ヒマラヤスギにはすごくカッコイイ学名がある。「Cedrus deodara」だ。
Cedrusは杉のことで、deodaraには「神」という意味がある。インドではヒマラヤスギの森が賢者の住む森とされており、神聖な木であることからこの名前が付いた。
日本の公園などでは見慣れているため実感しにくいが、本場のヒマラヤ山脈に根付いたヒマラヤスギを見ると、神秘的な雰囲気がひしひし伝わってくるぞ!
という方にはこちらのトリビアをご紹介したい。
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ヒマラヤスギの開花時期は秋!
スギ花粉が最も多く飛ぶ時期は、だいたい2月~4月。一方ヒマラヤスギが開花して花粉を飛ばすのは10月~11月で、スギ花粉症とは全然違う時期なのである。だから春の花粉症をヒマラヤスギのせいにするのは、まったくのお門違いだ。
また、スギ花粉が飛ぶのは春だけではない。特に関東では真夏をのぞいてほぼ1年中、花粉が飛んでいるぞ!
そのため、ヒマラヤスギが開花する10月~11月もヤバイっす…って人も、ヒマラヤスギではなく、ホンモノのスギ花粉である可能性があるのだ。
ちなみにヒマラヤスギの花粉症というのは、発症率がかなり低い。マツ花粉症のほとんどはアカマツかクロマツで、これらにしてもスギなどと比べたら断然少ないので、ほとんど心配ないレベルである。
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【追加雑学①】ヒマラヤスギの松ぼっくりがかわいい
松の仲間であるヒマラヤスギには、直径7~13cmという、たまご型の巨大な松ぼっくりが出来る。この松ぼっくりは熟して開くと松かさがバラバラに飛び散り、先端の3分の1だけがそのまま落ちてくる。
これがバラのような形をしており、ハンドメイドなどで人気の材料となっているのだ。その美しさから"シダーローズ"と呼ばれているぞ!
https://twitter.com/sitoron8888/status/1215174431045087233
以下の動画では、シダーローズと松ぼっくりで作ったリースが紹介されている。
大きめの松ぼっくりと組み合わせると、ゴージャス感が出て見栄えが良い。色をつけて花束みたいなアレンジにするのもオススメ。赤色にすればまるで本物のバラである。
https://twitter.com/ohanatogohan/status/1063570961285300224
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ヒマラヤスギの松ぼっくりは手に入りにくい
松ぼっくりといわれると、秋になればその辺に落ちているような感じがするが、シダーローズは松ぼっくりとしては、かなり手に入りにくい部類に入る。
ヒマラヤスギは雌雄同株。雄花と雌花が同じ木に咲くのだが、樹齢30年以上のものにならないと雌花をつけない。そのため、若い木には松ぼっくりが実らないのだ。さらに雌花が咲いて受粉したとしても、球果が熟して松ぼっくりになるまでは2年もかかる。
だいたい10~11月に雌花が受粉したとして、種子である球果ができるのが翌年の10~11月、そこからさらに熟して大きな松ぼっくりになるのはまた次の秋。
このように実る条件がかなり限られているため、まず松ぼっくりがつくヒマラヤスギを探すのが大変なのである。
拾うなら時期としては11月下旬~2月。公園などで探す場合、携わっている剪定師さんに問い合わせてみると、採れるかどうかがわかりやすい。切った枝から丸のままを譲ってもらえる場合もあるぞ!
もしくは楽天やメルカリなどのネット通販でもよく出回っているので、買ってしまうのもありだ。
ヒマラヤスギの松ぼっくりがバラバラになる理由
自然と先端だけが残り、バラのような形になるシダーローズは、とっても不思議な松ぼっくりだ。どうしてこんな現象が起きるかというと、ヒマラヤスギが種を遠くまで飛ばすためである。
松ぼっくりは、折り重なった松かさのあいだから種翼のついた種を飛ばし、風に乗せて遠くへ運ぼうとする。この種を飛そうとする際に、一緒に松かさもバラバラに飛び散ってしまうのだ。
結果、先端だけが残って木の下に落ちてきて、その形が偶然にもバラのようになっているのである。
こう見るととっても自然な現象だけど、あんなに綺麗な形になるのはやっぱりすごい!
【追加雑学②】拾った松ぼっくりでシダーローズを作る
拾った松ぼっくりで綺麗なシダーローズを作るのには、少しコツがいる。それについてもここで触れておこう。
虫を退治する
売られているものと違って、拾った松ぼっくりには虫が入っていることが多い。加工する前に除虫作業をしておこう。具体的には以下のような方法がある。
- ビニール袋で松ぼっくりを密閉し、殺虫剤を袋に注入する
- 煮沸する
あとで自分が触ることを考えると、煮沸のほうが体にはよさそう。でも松ぼっくりを煮るのに使った鍋は料理に使えなくなってしまうので、古くて捨てるつもりだったものなど、専用に用意するようにしよう。
https://twitter.com/chiko84175847/status/1236811595033919489
天日干しする
松ぼっくりは乾燥することで松かさを広げるので、綺麗なバラ状にするには天日干しが欠かせない。天気が良く、風が穏やかな日に1日かけてゆっくり乾かそう。
丸のままの松ぼっくりが手に入った人は、乾燥するとバラバラになってしまうので、針金でグルグルと固定してから乾かすのもひとつだ。ただこれをやっていても、バラバラになってしまう場合が多いみたいだけど…。
加工する
松ぼっくりが綺麗に開いたら、あとは加工するだけだ。グルーガンなどを使って思い思いの工作を楽しもう!
色を付けたい場合は、一度漂白剤に浸して色抜きしたあと、スプレーなどで色を付けていくと綺麗に染まりやすい。
【追加雑学③】ヒマラヤスギは倒れやすい?
高さ40m~60m、大きなものでは幹まわりが3mにもなるというヒマラヤスギ。枝を大きく広げてそびえ立つその姿には、自然災害にはビクともしなさそうな頼もしさがある。花言葉も「たくましさ」だしね!
と思いきや、実はヒマラヤスギは強風で倒れやすい木である。
ヒマラヤスギの根は浅い場所で横に広がる性質を持っており、地上部分が高く広く成長すると、頭でっかちで不安定な状態になってしまうのだ。だから、台風などの強い風にさらされると、自分を支えきれず倒れてしまうことがある。
ただ…台風でヒマラヤスギがバタバタ倒れたなんていうニュースは聞いたことがない。倒れやすいといっても、ほかの木との比較であって、そう起こることではないのだろう。
というかあんな巨木がしょっちゅう倒れてたら、けっこうな恐怖だよな…。
ヒマラヤスギと花粉症|雑学まとめ
今回はヒマラヤスギについての雑学を紹介した。
「ヒマラヤスギがモッサリしているのは、寒いところの杉だからなんだなあ」などと思っていたが、実際は松の仲間である。
せっかくヒマラヤスギ属だけを指す「シダー」という言葉があるのに、ほかの木に乱用されてしまったのだから、嘘つきではなくむしろ被害者だ。ほんとはヒマラヤマツと名乗りたかったかもしれない。
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