子どものころには多くの人がさまざまな童話に触れ、その登場人物に憧れる。怪物を倒す主人公のように強くなりたいとか、王子様と結婚したお姫様のように綺麗になりたいとか…。
大人になると忘れてしまうが、童話はいつもそんな感じで夢を与えてくれていたはずだ。しかし…憧れた童話の主人公が、実は夢もへったくれもないような外道だったら、あなたはどう思うだろう?
今回の雑学の主役は、誰でも知ってるあの童話のヒロイン「シンデレラ」。過酷な家庭環境から一転して玉の輿に乗り、すべての女の子の憧れとなった美しきお姫様だ。
何を隠そう彼女は、私利私欲のために人殺しまでしている、なかなかに恐ろしい女性である。
【面白い雑学】「シンデレラ」は人を殺したことがある
【雑学解説】「シンデレラ」には継母を殺害する話がある
現代出回っている童話のシンデレラは、原作から、より子ども向けに作り直されたものだ。一方、原作は紀元前から続く民間伝承をもとにさまざまなバージョンが作られており、残酷な描写がされているものもけっこうある。
その中で、シンデレラが継母を殺害するシーンがあるのは、イタリアの詩人ジャンバッティスタ・バジーレの『チェネレントラ(灰かぶり猫)』である。
『チェネレントラ』は1634~36年に編纂されたバジーレの民話集『ペンタメローネ(五日物語)』に収録されており、童話として成立しているなかではもっとも古いとされるものだ。
今回はこのバージョンのあらすじを紹介するわけだが、その前にまずは現代版のシンデレラを軽くおさらいしておこう。「もう知ってるよ!」という人は次項まで読み飛ばしてほしい。
現代版『シンデレラ』のあらすじ
主人公のシンデレラは実母を亡くした少女。それを不憫に思った父親は再婚するが、彼もまたすぐに亡くなってしまい、その後シンデレラは継母とふたりの姉と4人で暮らしていた。
継母は実の子ではないシンデレラを差別し、姉たちもまた彼女をこき下ろす。シンデレラはそんな辛い毎日を送っていた。
そんなある日、お城で舞踏会が行われることになり、姉たちが嬉しそうに準備をする姿に、シンデレラも参加したいと憧れを抱く。しかしドレスはおろか、ボロ服しか持っていない彼女が参加できるはずもなく、継母からもそれを禁止されてしまう。
みんなが舞踏会へ出かけた後シンデレラが途方に暮れていると、報われない彼女を見かねた魔法使いが現れ、ドレスやガラスの靴、カボチャの馬車などを用意してくれる。こうしてシンデレラは舞踏会へ行けることになるのだ。
舞踏会に参加したシンデレラは王子様と対面し、お互いに一目惚れをする。ふたりはそこから、時間も忘れてしまうぐらい楽しいひとときをすごした。
しかし実は、シンデレラには午前12時を過ぎると魔法が解けてしまう約束があった。
長居しすぎたため、12時ギリギリにお城を後にすることになったシンデレラは、慌てたせいで階段で靴が脱げてしまい、ガラスの靴をお城に残していくことに。
シンデレラは王子様に自分の素性を明かしていなかったが、王子様はこの靴を手掛かりに、ピッタリ足のサイズが合う彼女を探し出す。こうして最終的にふたりは無事結ばれることになる。…という感じだ。
どん底から幸せの絶頂まで這い上がる。これぞ元祖シンデレラストーリー!
さて、これと比べてバジーレのシンデレラはどんな内容になっているのか…?
バジーレ版シンデレラ『チェネレントラ(灰かぶり猫)』のあらすじ
主人公のゼゾッラ(シンデレラ)は、父の最初の再婚相手である継母からの酷いいじめに悩んでいた。
ある日そのことを雇っていた家庭教師に相談すると、彼女からはこんな助言が与えられる。
「お母様に、大きな衣装箱にしまってある服を出してくださいと頼むのです。お母様が箱の中をかき回している間ふたを支え、急に手を放して首を折ってやりなさい。そのあとお父様に甘えて、先生をお母様にしてと頼みなさい」
シンデレラはこの家庭教師の言った通りのことを実行し、1人目の継母を殺害する。そしてこのあと家庭教師が2人目の継母になるのだが、結局彼女とシンデレラも馬が合わず不仲になってしまう。その後の流れは、現代版と同じである。
昼ドラよりドロドロ…いや、むしろサスペンスの域だ。
ちなみにこのシンデレラには魔法使いは登場せず、代わりに魔法の木が登場する。この魔法の木は苗の頃からシンデレラに大切に育てられ、成長した木の魔法によってシンデレラは美しいお姫様に変身するのだ。
【追加雑学①】原作・グリム童話のシンデレラのあらすじ
前述のようにシンデレラには数多くのバージョンがあり、一言に原作といっても、どれをほんとの原作としていいのかは微妙なところである。しかし童話として成立しているもののなかで一番、民間伝承の原話に近いとされているのが、グリム童話のシンデレラだ。
続いては原作の代表として、グリム版のシンデレラ『アシェンプテル(灰かぶり姫)』のあらすじを紹介しよう。
継母と姉のいじめに遭うシンデレラ
物語はシンデレラの優しい実母の死から始まる。実母はシンデレラに「お母さんはいつも見守っているから、神様を信じるいい子に育ってね」と言い残し、この世を去った。このころ、裕福で環境も恵まれていたシンデレラはこの言いつけを守り、誰からも愛される素敵な女性に育っていく。
しかし父親の再婚により、彼女の暮らしには一気に陰りが見え始める。再婚相手の継母とその連れ子である姉たちはシンデレラをひどく差別したのだ。
それまで身につけていたものは取り上げられ、与えられたのはボロボロの服と小さな木靴のみ。部屋も寝床も与えられなかったため、寒さにこごえたシンデレラは暖炉の灰に残ったかすかな暖かさでそれをしのぐ。
灰にまみれて眠るその姿を継母や姉たちは嘲笑い、彼女は「灰かぶり」と呼ばれるようになったのだ。
ちなみにシンデレラという呼び名もこの蔑称が由来である。英語の「Cinder」は灰を意味し、シンデレラの本名はエラ。継母や姉たちに「シンデーエラ(灰まみれのエラ)」と馬鹿にされていたところから、シンデレラと呼ばれるようになっていった経緯がある。
実母の墓に植えたハシバミの木
そんなシンデレラの転機は、父親が仕事で市場へ出かける際、娘たちに「お土産は何がいい?」と尋ねたときのことだった。このとき姉たちはこぞって高価なものをねだったが、シンデレラは「パパの帽子にささった木の枝がほしい」と言う。
姉たちと同じように高価なものをねだったりすれば、また「調子に乗るな」といじめられてしまうからだろうか…。
約束通り父親はシンデレラに、ハシバミの木の枝を持って帰ってきた。彼女はその枝を実母の墓参りに持っていき、墓のうえに埋めるのだ。
その後、シンデレラが毎日母の墓に祈り続けると、木の枝は大きなハシバミの木に成長し、彼女の手助けをしてくれる白い小鳥たちが集まってくるようになった。グリム版ではこの小鳥たちが魔法使いの役目を担うのだ。
小鳥たちの助けで王子様のパーティに参加することに…
そんなある日のこと、シンデレラの一家のもとに、「王子様が花嫁選びのため、3日間のパーティを開く」という知らせが来る。これを聞いて玉の輿を狙おうと企んだ継母は、ふたりの姉たちをパーティに参加させるべく、きらびやかな衣装などを用意し始める。
そんな様子を目の当たりにしたシンデレラは「自分も参加したい」と口にするが、認められるはずもなく…「これを全部拾えたら行ってもいいわよ!」と、暖炉の灰のなかにエンドウ豆をばらまかれてしまう。
大量にばらまかれたエンドウ豆を灰のなかからすべて拾い上げるのは難しく、シンデレラのパーティへの参加は夢に終わってしまうかに思えた。しかしここで登場するのが、いつも彼女を助けてくれる白い小鳥たちだ!
小鳥たちはシンデレラのもとへ飛んでくると、灰のなかにばらまかれたすべてのエンドウ豆を拾い集める。こうしてシンデレラはパーティに参加できることになるのだ。このとき、衣装としてドレスと金の刺繍靴を小鳥たちが運んできてくれる。
そう、原作ではガラスの靴ではなくて金の靴。こっちのほうが高価なんだよね…。
王子様の一目惚れ
現代版のシンデレラの姉たちはとにかく意地悪という感じで、挿絵のデザインなどもとても綺麗とは言い難い容姿に描かれる。しかし原作の姉たちはこれと違い、実は美人の設定である。
しかしそんな姉たちをもってしても、王子様は見向きもしない。シンデレラの美しさに一目惚れした王子様は彼女とだけ踊り、ほかの男性はシンデレラに声をかけてはいけないという決まりまで作る。
こうして3日間のパーティのあいだ、王子様はシンデレラに会うことだけを楽しみにしていたが、彼女はいつもあまり長居せず、そそくさと帰ってしまう。
原作には12時の時間制限もないので、これは実母の言いつけで健全に育ったシンデレラが、夜遅くに出歩くのを避けていたためだと思われる。
そんなパーティも3日目のこと、シンデレラをなんとしても引き止めたい王子様は、階段にあらかじめヤニを塗っておき、それを踏んだシンデレラがくっついて逃げられないようにしようと考えた。
これによってシンデレラの靴はくっついて脱げてしまい、その靴のサイズを頼りに王子様は彼女を探そうとするのである。というか結婚したいから捕まえてしまおうって…王子様も割とヤバイやつな気がするぞ。
ガラスの靴を履くために足を削ぎ落す姉たち
シンデレラのクライマックスといえば、ガラスの靴の持ち主と結婚したい王子様のもとに、シンデレラを始め彼女の姉たちが立候補し、「あら…入らないわ…」などと言いながらガラスの靴をなんとか履こうとするあのシーン。
原作でももちろんこのくだりはある。しかし…ここがグリム版のもっとも恐ろしい場面である。
靴のサイズがなかなか合わない姉たちを見かねた継母が、なんと彼女たちに「ナイフで足を削り落とせ」と命令するのだ。
このとき「花嫁になればもう歩く必要はないんだから」なんてセリフも飛び出している。結局靴から血が滴っていたため、ふたりとも嘘がバレてしまうのだが。とりあえずこの継母、確実に頭がおかしい…。
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結婚式で目をくり抜かれる姉たち
靴による花嫁捜索の末、無事王子様と結婚することになったシンデレラ。このとき足を切り落とした姉たちは、松葉杖で出席するはめに。
…え? なんで来たよ。と思うところだが、これはシンデレラに媚を売って、少しでも玉の輿の恩恵に与ろうという考えである。そんな姉たちをターゲットに、小鳥さんたちは結婚式の場面でも盛大にやらかしてくれる。
なんと結婚式にやってきた姉たちの目を、つついてくり抜いてしまうのだ。
このほかシンデレラの正体は魔女で、継母に姉たちの足を削ぎ落とすように甘言を言い、邪眼による災いで姉たちの目を潰したとされるバージョンも。この話では姉たちが自分の目をくり抜き合う。…もうまったく別の話だろそれ。
微妙に異なる設定が多数存在しているのは、グリム版が初版から何度も修正されており、計7つのバージョンがあるからだ。グリム兄弟もいろいろ迷走していたのかも…。
以上がシンデレラの原作・グリム版の一通りのあらすじである。現代版と違っているところはかなりあるが、なんといってもクライマックスがトラウマレベルで怖い。
【追加雑学②】ディズニーのシンデレラは超平和
血生臭い話だけで終わるのも後味が悪いので、最後にみんなが良く知っているディズニーのシンデレラについて少しお話しよう。
ディズニーのシンデレラには、実は続編があることを知っているだろうか? OVAとして2002年・2007年に制作された「シンデレラⅡ」と「シンデレラⅢ」である。
「シンデレラⅡ」では、お姫様となったシンデレラと仲間達が、王城での暮らしに四苦八苦したり、自分をいじめていた姉の恋をひそかに応援しようとしたりする、ほのぼのとした内容が描かれている。
「シンデレラⅢ」では、ひょんなことから魔法の杖を手にしてしまった継母が時間を巻き戻し、シンデレラの姉と王子を結婚させようと目論む。このときシンデレラは突然の事態に理解が追い付かない様子を見せるが、持ち前の負けん気で果敢に立ち向かっていくぞ!
やっぱり天下のディズニーだけあって、いずれの作品もヒロインはいたって健全である。
以下はシンデレラⅢの予告編。継母と姉たちの意地の悪さがにじみ出ている…。
「シンデレラ」の雑学まとめ
今回は、本当は怖いシンデレラの雑学を紹介した。バジーレ版ではシンデレラが継母の首を折って殺し、グリム版では姉たちが足を切り落とす。
なんでそんな残酷な展開にしちゃったの? と思わされるが、こういった結末には「悪いことをすると必ずしっぺ返しがある」という教訓が込められているとかいないとか。いやいや、ちょっと刺激が強すぎます…!
とはいえ現代のシンデレラはどんな苦境にもめげず、慈愛に溢れた美しいお姫様だ。夢を壊してしまう場合があるので、黒歴史を話すときは空気を読んでね!
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