「シンデレラ」といえば、「ガラスの靴」。シンデレラが王子様とハッピーエンドを迎えるために欠かせなかった、ロマンあるキーアイテムだ。
しかし…本当にガラスでできた靴なんてあり得るのか? 踊ることはおろか、歩きだした時点でパリンと割れてしまいそうである。
そして実をいうと、原作のシンデレラの靴はガラス製ではなかったという雑学がある。ガラス製になったのは、ちょっとした勘違いが原因だったのだ!
【歴史雑学】シンデレラの靴は「ガラス」ではなかった?
【雑学解説】シンデレラはガラスではなく皮の靴だった
シンデレラの原作には、シャルル・ペロー作とグリム兄弟作の2種類がある。ディズニー映画の下敷きにもなり、私たちのイメージに近いシンデレラは、シャルル・ペロー版の方だ。
だが、ペロー版のシンデレラには、ガラスの靴が登場しない。シンデレラの靴として登場するのは、皮でできた靴だ。
どうして「皮の靴」が「ガラスの靴」になったのかというと、ペロー版のシンデレラを英語に翻訳したことと、フランス語の「皮」と「ガラス」の発音が関係している。
フランス語で皮は「vair」、ガラスは「verre」となる。発音はどちらも「ヴェール」だ。この単語が英語に翻訳される際に、本来は「皮の靴」となるところを、間違えて「ガラスの靴」に翻訳されてしまったのだ。
そして、間違ったままペロー版のシンデレラは広まり、ディズニーがアニメ映画化したことでガラスの靴が有名になった。たぶん今ではよほど童話の知識がない限り、「シンデレラの靴は本当は皮製」という雑学を知っている人は少ないだろう…。
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【追加雑学①】グリム版のシンデレラは金と銀の靴
ペロー版のシンデレラが皮製だったのなら、もう1つの原作・グリム版ではどうなのだろうか? 実はグリム版もガラスの靴ではない。何かというと、金と銀の靴だ。
シンデレラの物語の中で行われていた舞踏会は一晩のことだと思われがちだが、グリム版では3日間に渡って行われている。グリム版のシンデレラは、最初は銀の靴、2日目と3日目は金の靴を履いて舞踏会に行ったのだ。
またグリム版では魔法使いではなく、母親の墓に植えられたハシバミの木が、シンデレラにドレスや靴を渡してくれる。お城にも馬車ではなく歩いて向かっているし…グリム兄弟の言語学者という性質もあり、こちらはいろいろ現実的なのである。
対するペローはかぼちゃの馬車や魔法使いを登場させ、シンデレラをメルヘンなイメージに仕上げた。そういった意味では彼もまたパイオニアだ。
グリム童話のシンデレラは超残酷
グリム童話のシンデレラは特に残酷なことで知られる。靴のサイズで運命の人をたしかめるくだりがあるのはペロー版と同じだが、グリム版はまさにこのシーンがムゴイのだ。
ペロー版だと「あら、大きいわ」ぐらいで諦めていたシンデレラの姉たちだが、この作品ではそうもいかない。なんとしても自分の娘を王子様と結婚させたい継母の指示に従って、親指やかかとを切り落とすのだ。
しかもシンデレラがめでたく王子様と結ばれたあかつきには、おこぼれにあずかろうと彼女の左右に立った姉たちの目を、白い小鳥がやってきてくり抜いてしまう。
人間、悪いことをすると手痛いしっぺ返しがあるんだよ…という教訓が込められた物語になっているのだ。
ちなみにシンデレラが靴を履けたのは、小さな靴しか与えてもらえず、ずっとみすぼらしい姿で働かされていたため、足がとても小さかったからである。しかし…姉たちの血がついた後の靴なんて絶対に履きたくないが…。
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【追加雑学②】本当はペロー版もグリム版もシンデレラの原作ではない
ここまではペロー版・グリム版の童話をシンデレラの原作として紹介してきた。しかし厳密な意味でいえば、実はこれらも原作とはいえない。
シンデレラの物語はそもそもが古代から受け継がれてきた民話で、世界へ広がっていくなかでなんと700以上ものバリエーションをもつ派生作品が生まれている。前述の童話は、そのなかから有名になった、ほんの一部の作品に過ぎないのだ。
シンデレラの原作はエジプトが舞台。主人公は女奴隷
本当の意味で最初に生まれた原作はどんな作品かというと、意外や意外、エジプトの物語というのが有力である。…まさかラクダが引く馬車に乗って、ピラミッドで舞踏会でもしようというのか?
冗談はさておき、このシンデレラは紀元前5世紀の歴史学者ヘロドトスが書き残した『ロドピスの靴』という話だ。そう、当初はシンデレラではなく、ロドピスという女奴隷が主人公だった。
最初こそ奴隷として身を立てていた彼女だが、美しい見た目を気に入られ、金持ちに買われてからは裕福な暮らしをすることに。そしてロドピスが履いていたのは、バラの飾りつけがされたサンダルである。これがファラオの目に留まり、最終的に2人は結ばれるという物語だ。
なるほど…ガラスではないが、靴が縁結びのキーアイテムになった、という部分は共通している。この設定をもとに、各地でいろんな派生作品が作られたわけだ。
【追加雑学③】シンデレラになれる!?本当に履けるガラスの靴がある
2015年より、東京のなかむら硝子工房では実際に履けるガラスの靴が発売されている。
伝統的な吹きガラス技法で仕上げられ、カット加工などをしない職人技で作られた逸品は見事の一言。そうとあって値段は少々お高い印象だが、結婚などの機会に贈れば一生モノの思い出になるに違いない。
以下の動画で制作の工程が映されている。ガラスをハイヒールの形に、しかもちゃんと履けるように仕上げるのがいかに難しいかが伝わってくるぞ!
ちなみに「エマ」という商品名が付けられているのは、シンデレラの本名がエマだからである。そりゃあ、本名が灰かぶりだったら目も当てられない…。
雑学まとめ
今となっては「シンデレラの靴はガラスの靴」というのが一般的だ。しかし、その知識は翻訳者の誤訳から始まったものだった。
真相を知ると単なるおっちょこちょいエピソードだが、この誤訳があったからこそシンデレラは夢のあるストーリーになったともいえる。もろくも美しいガラスの靴だからこそ、奇跡を演出するアクセントになっているのだ。
考えてみれば粋な誤訳ではないか。「本当は皮製だった」という雑学は、ちょっとした話のネタとして、胸の内にしまっておくとしよう。