裁判。訴えた原告がいて、訴えられた被告人がいて…。その当事者の代理として、検事と弁護人が法廷で双方の言い分を主張し、最後に裁判官が判決を下す。それが裁判だ。
もちろんそれは、人間同士の争い事においてというのが私の認識なのだが…中世ヨーロッパでは、動物や虫を裁判にかけるという、意味不明なことが現実にあったのだ。
人間が、動物や虫を訴えるのか!? その罪って!?
動物や虫に言い分はあるのか!? どうやって主張するんだ!?
想像もつかないようななんともばかげた話だが、中世ヨーロッパの人々は大まじめにやっていたというのだ。なぜそんなことが行われたのだろうか。その裁判とは!?
今回はそんな驚きの雑学をご紹介しよう!
【面白い雑学】中世ヨーロッパの裁判では、動物や虫が裁判にかけられていた
【雑学解説】中世ヨーロッパの「動物裁判」とは?
中世ヨーロッパにおいて、動物や虫を裁く裁判は「動物裁判」と呼ばれ、有罪となった場合は刑も執行された。動物や虫に対して、法的な責任を問う! ということだ。
相手は言葉も話せない、意思疎通のできない動物や虫だ。本能のままに生きているだけの彼らに、人間が定めた法律で裁く。中世に生きた人々の思想は理解できないが、その思想の土台となるものがあったのだろう。
動物裁判が行われていたのは12世紀から18世紀の間で、有罪判決が下った記録が142件残っている。そのうちの122件は、15世紀から17世紀に集中している。いくつか紹介しよう。
ブタ
ブタの親子が人間の子供を食い殺した。母ブタは死刑、子ブタは証拠不十分と未成年につき無罪となった。当時のブタは今の家畜のブタではなく、イノシシのような野性的で人を襲う凶暴さがあったようだ。
牛
牛が女性を押し倒して殺害。牛は死刑となった。殺害…じゃなくて、倒れて打ち所が悪かっただけだと思うのだが…。
虫
南京虫(シラミのような虫)に血を吸われ、ひどいかゆみで苦しむ人がいた。シラミは銃殺刑になった。銃でシラミを撃つという…。
これは物語でも演劇でもパロディーでもない。人間が動物や虫に対して、実際にこのような動物裁判を行っていたのだ…。
【追加雑学①】動物裁判が行われた理由とは?
なぜこのようなばかげた裁判を、中世ヨーロッパの人々は大まじめに行っていたのだろう…。当時はそれが正しいことだという思想があったのだろうか。
中世ヨーロッパといえば、キリスト教が深く根付いていた。単なる宗教ではなく、教会が政治や経済にも大きく関わっており、王様ですらその教えに逆らうことはできなかった。ようするに、キリスト教の教えは国家よりも何よりも最優先されるものだったのだ。
罪を犯したものは、裁かれなければならない。人間であろうが、動物・虫・無機物でも同じだ。
これはキリスト教の教えだが、このような宗教的な思想が人々の精神の土台になり、動物や虫を裁判にかけるのは当然のことだと考えられていたのだ。人間と同じように訴えられ裁判にかけられ、判決が下される。
ちなみに、中世ヨーロッパでもっとも重いとされる刑は、「破門」だったという。人間と同じく動物や虫に対しても、極刑は破門だ。実際にミミズが破門されている…。ミミズにとってはどうでもいいことだが。
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【追加雑学②】動物裁判の動物側の弁護人は…?
動物裁判は、人間の裁判と同じような手続きがとられた。訴えられた動物や虫にも、なんと弁護人がついたというのだ。動物や虫の弁護人とは、私たちがイメージするあの弁護人そのものだ。
必死に被告の弁護をし、無罪もしくは罪の軽減を訴える。そもそも何が罪なのかもわからないような動物裁判で、ラッキーにも優秀な弁護人がついた動物や虫の被告は、情状酌量もあったという。
【追加雑学③】動物裁判でネズミに出頭命令!?
16世紀のフランス。農民たちが育てた穀物をネズミに食い荒らされるという事件が多発していた。もう完全に事件として紹介していくことにする…。これは事件なのだ! と私自身に言い聞かせながら…。
農民たちが起こした訴えを裁判所は受理。ネズミがいる畑へ出向き、「ただちに出頭せよ」と出頭命令を読みあげる。しかし…指定の日時になってもネズミは出頭してこない。
当たり前だ…。来るわけがない…。
出頭命令を3回通告しても出頭しなかった場合は、有罪。処刑もしくは駆除されるのだ。
ネズミ裁判での弁護士がすごい!
しかし、このときネズミの弁護人についたバルテルミー・ド・シャサネ弁護士が、優秀すぎた!
- ネズミの数が多すぎて、すべてのネズミに通告できていない
- 体の小さなネズミが裁判所まで出頭する道のりは遠い
- 裁判所までの途中で、猫に食べられてしまう危険がある
- そもそもどのネズミが穀物を食べたのか限定できない
ネズミを守るため熱弁を振るった弁護士のおかげで、ネズミは退去命令だけで済んだのだ。
「動物裁判」の雑学まとめ
今回は、動物裁判についての雑学を紹介した。ばからしいような話だが、現実に行われていたことなのだ。何かの物語であってほしかったが、大まじめな歴史的事実だった。
最後にとんでもない事例をご紹介しよう。森の中で殺人事件が起きたのだが、犯人が見つけられないとの理由で事件現場である森に死刑が言い渡され、森のすべての木が伐採されたという…。
動物裁判。人間が動物・虫を裁く。そして、必死に弁護するのも人間。なんのための、誰のための裁判だったのだろうか…。そんな時代に生まれなくてよかったね! と、リビングのソファーでダラダラ寝ている我が家の愛犬を撫でながら思ってしまう。