「半殺し」に「皆殺し」。
普通に殺すのではなく、どう殺すのかを端的かつ、具体的に表現した物騒な言葉である。
そして…日本の各地には「今夜は皆殺しだ!」とつぶやいて台所に向かうおばあちゃんたちが存在する! お、おばあちゃん…? 台所? まさか包丁!? 怖い!
今回はそんな、「半殺し」「皆殺し」に関する雑学を紹介するよ!
【面白い雑学】「半殺し」と「皆殺し」はおはぎ由来の料理用語
【雑学解説】おはぎの「半殺し」と「皆殺し」の意味と由来とは?
地方のおばあちゃんが台所へ向かうときに「半殺し」「皆殺し」と、物騒なセリフを口にするのは、たいていおはぎを作るときである。
おはぎは一般的に、蒸したもち米やうるち米を潰しながら俵状に丸め、あんこで包んだ食べもののこと。半殺しと皆殺しはこのおはぎを作るときのもち米の潰し具合のことを表す。
- 半殺し…ごはんのつぶつぶが残る程度に、半分ぐらい潰したもの
- 皆殺し…ごはんのつぶつぶがなくなるまで潰したもの(いわゆる餅の状態)
という感じだ。
皆殺しに関しては「全殺し」「本殺し」なんていわれ方をすることも。どれも結局物騒である。
いきなり「今日は半殺しだ」などと言われれば、行き過ぎた冗談だと思うか、サイコパスだと思うかのどっちか。まさか料理用語だなんて思うはずもない…。
なぜおはぎの潰し方が「半殺し」「皆殺し」なんて言葉になったのかというと、実は「これ!」というはっきりした由来はない。単に昔の人が「潰す」を「殺す」と表現しただけの話である。
発祥とされる徳島県那賀町では今でも「はんごろし」の名称で、名物のおはぎが売られている。
あんこ好きには見逃せない徳島県那賀町の「はんごろし」。
すごい名前だが、あんこをうるち米ともち米のご飯で包んだおはぎで、米粒を半分だけつぶしているので、このように呼ばれる。独特の食感で丁寧に作られている印象。アクセスはよくないが一度は食べる価値がある。 pic.twitter.com/UwOZCywFyY— どーらく (@df5066) February 21, 2018
ニッコリ笑ったキャラクターの横に「はんごろし」と書かれたパッケージがシュール…。
このほか、群馬県の一部でも半殺し・皆殺しと呼ぶ人たちは多いようだ。意外に広い地域で浸透しているのも興味深い。
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あんこの場合、「半殺し」はつぶあん・「皆殺し」はこしあん
半殺しはごはんのつぶつぶが残るよう、もち米を半分ぐらい潰したものであることは前述した。地方にもよるが、これはもち米を包むあんこにもいえることで、「あんこを半殺しにする」というのは、つぶあんを作ることである。
皆殺しもまた、もち米にもあんこにも使える言葉だ。
もち米を皆殺しにすれば餅だし、あんこを皆殺しにすれば「こしあん」。もち米は半殺しで、あんこは皆殺しというパターンも当然ある。
完全にもち米を潰したお餅にこしあんをまぶせば、あんころ餅のできあがり。三重の「赤福」は皆殺しの末にできたものである。
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【追加雑学①】落語にも昔話にも登場する、おはぎの「半殺し」「皆殺し」
おはぎの「半殺し」「皆殺し」は落語や昔話にもけっこう登場する。その呼び方が定番だったころは、やはりネタにされることも多かったようだ。
地方によってさまざまな言い伝えがあるが、ここでは「日本昔ばなし」などでも放送されている「首ひねり」という話を紹介しよう。
昔々、旅人が宿に泊まったときのおはなし。
旅人が寝ようと身支度をしていると、宿主の話し声が聞こえてきた。「あの若いの、半殺しがいいか? それとも皆殺しか?」「若いから半殺しがいいだろう」
これを聞いてしまった旅人は、自分が半殺しにされると思い慌てふためき、眠れない一夜を過ごす。そんな旅人が、翌日、宿主からおいしいおはぎをご馳走してもらった…
「若いから半殺し」というセリフが「存分にいたぶってやる」といわんばかりだ。そんなホラー展開から、まさかのおはぎオチ。私なら夜のあいだに逃げ出してしまう…。
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【追加雑学②】「おはぎ」と「ぼたもち」は同じもの?
ところでみなさんは、おはぎ(お萩)とぼたもち(牡丹餅)の違いをご存知だろうか? 実はこれらは同じもので、季節によって名称が変わるだけだ。
- 春のお彼岸:ぼたもち(牡丹餅)
- 秋のお彼岸:おはぎ(お萩)
そう、今となっては両者に食べものとしての区別はない。しかし、それぞれの名称が考えられた当初は微妙な違いがあり、その特徴から名前も付けられている。
牡丹餅はこしあんのツルっとした見た目が牡丹の花に似ていたことからその名前が付けられ、形も牡丹の花に見立てて丸く作られていた。
一方、お萩はつぶあんのブツブツとした見た目が萩の花に似ていたことからで、形は萩の花に似せて俵型に作られていた…という感じだ。
このほかあまり聞き慣れないが、夏や冬にも特有の呼び名がある。
- 夏:夜船(よふね)
- 冬:北窓(きたまど)
これらはどちらも半殺しのおはぎのことを表し、餅を作るときのようにもち米をつく音がしないことに呼び方が由来している。
夜の船は暗くて「いつ、着いたかわからない」。これを「米をいつ、ついたかわからない」とかけて、夏のおはぎを夜船と呼ぶように。冬の北窓は「米をつく行程がない=つき知らず」で、月の見えない北側の窓を表したものだ。
いずれも四季を大切にする日本人らしい発想である。
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おはぎはつぶあん、ぼたもちはこしあん?
今となっては区別のないおはぎとぼたもちが、当初は微妙に違うものだったことは前述の通り。
それぞれ「ぼたもち=こしあん」「おはぎ=つぶあん」となっていたのは、あんこの材料である小豆が秋に収穫されるものであることが関係しているぞ。
秋に収穫されたばかりの小豆の皮は柔らかく、茹でてつぶせばそのままでも食べられる。そのため、秋の代名詞であるおはぎは、つぶあんを使うことが一般的だった。
一方、秋に収穫した小豆の皮は、春先にはすっかり固くなってしまう。そのためかつてはぼたもちを作る際、小豆の皮を取り除いたこしあんが使われていたのだ。
こういった背景から、その昔は「おはぎ=つぶあん」「ぼたもち=こしあん」という明確な違いがあったのである。
現代では機械であんこが作れるし、小豆の保存方法や品種の改良もされ、年中いつでもあんこが食べられる。それに伴っておはぎとぼたもちにも、季節以外の違いはなくなっていったのだ。
以下の動画ではこしあんの制作工程が紹介されている。機械を使わないとこんなに手間がかかるとは。昔の人は苦労して作っていたんだなあ…。
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【追加雑学③】お彼岸におはぎを供える由来は?
お萩、牡丹餅と季節の花が名前の由来になっているように、おはぎには春と秋のお彼岸に、ご先祖様にお供えをする風習がある。
では、なぜお彼岸におはぎを供えるようになったかというと、これにも以下のような諸説があるぞ。
- 赤色は「厄災を祓う色」で、米は「五穀豊穣」を表すため、ふたつを合わせたおはぎが田植えの季節である春と、収穫の季節の秋に供えられていた
- あんこと米を"合わせた"食べものであることを「ご先祖様に手を合わせる」こととかけた
という感じだ。個人的には後者は後付けで考えられた感が強く、起源としては前者のほうが説得力があると感じる。なにより農業は当時、日本の産業の中心だったしね!
雑学まとめ
今回はおはぎの調理法である「半殺し」「皆殺し」の雑学を紹介した。
名前は物騒でもやっぱりおはぎはおいしい。それに徳島県では名前が物騒であることが功を奏し、名物としてPRにもなっている。ものは考えようとはよくいったものだ。
それにしても、もう亡くなっているご先祖様に「半殺し」や「皆殺し」をお供えするというのもなんというか…。という話はちょっと罰当たりな気がするので、この辺でやめておこう。
今回の雑学を堪能してくれたあなたはぜひ「皆殺し派? 半殺し派?」と、家族や友だちなどに聞いてみてほしい。