ライオンのオスは狩りをしない。浮気が日課で子作りだけして食っては寝る。
一方、メスは仕事と子育ての両立で常に忙しく、ライオンの世界では妻が夫を養っているのがあたり前だ。人間界で同じようなことをしたら、奥さんに即離婚届を突きつけられそうな勢いである。
男としてはだらしないというか、ちょっとうらやましいというか…複雑な気持ちにさせられるが、なぜオスライオンの生活はここまで堕落してしまっているんだ…?
今回はそんなライオンのオスの生態に関する雑学を紹介するぞ!
【動物雑学】壮絶なオスライオンの生態とは?
【雑学解説】オスライオンは何もしないヒモ…?
アフリカのサバンナに生息するライオンは、単独行動を好むネコ科としては珍しく、群れをなして暮らしている。
大型肉食獣で群れをなすのはライオンオンリーで、この群れの名を「プライド」という。…なんか格闘技みたいでカッコイイ。
群れはオス1頭に対し、複数のメスと子どもたちからなる女系家族。頭数は数匹~十数匹が普通で、多いと数十頭になることもある。
そして…このプライドにおいて注目すべきは、子育てや狩りはメスライオンが共同で行う仕事で、オスは基本的に参加しないということだ。
オスライオンは1日20時間を寝て過ごし、メスが獲ってきた獲物で食事を済ませ、子どもを作る。夢のニート生活である。
そのくせ群れのリーダーの地位は欲しいままにしている…いや、その大黒柱、威厳もなにもあったもんじゃないぞ。
獲物を捕まえるのがメスなら、必然的に食事が最初に行き渡るのもメスになるはずだが…群れの掟としてはこれもご法度。
オスライオンがやってくると真っ先にゆずらなければならず、先に食べていても「おい!俺が食ってからだ!」と追い払われてしまう。メスたちは「お父さんにバレないうちに…」と、肩身の狭い思いでつまみ食いをしているのだ。
自分のお腹が満たされると、オスライオンもメスに優しくなる。でも食べものが不足しているときは子どもたちを犠牲にしてでも自分が真っ先に食べる。…なんか都合良すぎるぞ。
この掟のせいで、子どものライオンは生存率がとっても低く、生後1年で60%以上が死んでしまう。大人になれる個体はさらに少なく、2割ほどだという話も。だからライオンは子どもをたくさん産むのか…?
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オスライオンの人生…こう見えてめっちゃキツいです。
と、こんな感じでまったくいいとこなしに見えるオスライオン。彼らがこんな暮らしをしているのは、それこそライオン特有の群れ社会で生き残っていくためである。
プライドを束ねるオスライオンは、常にほかのオスから狙われる立場だ。そしてリーダーが負けることは、すなわち群れの乗っ取りを意味する。
乗っ取りを狙うオスが来たときに備え、体力を温存しておかないと群れを守ることはできない。そのため、リーダーは日頃の食事のために駆けずり回ってはいられないのだ。
そんなに…? と思ったあなた。ライオンの群れのルールを知れば、オスライオンの置かれる過酷な状況も理解できるはずだ。
オスライオンは必ず新しい群れを乗っ取らなければならない
ライオンの群れにおいて、大人のオスは1頭のみ。子どものオスライオンは、思春期を迎える3歳を目安に群れから追い出される。これは姉妹やいとこ同士での妊娠を防ぐためで、健康な子供を作るために大切なことだ。
追い出されたオスライオンは兄弟同士で数頭のグループを作り、ほかのライオンの群れを乗っ取るための戦いをする。オスライオンはこの戦いに勝って初めて自分の群れを作り、子孫を残すことができるのだ。
近親の子どもができるのを避けるため、大人になったオスは必ず、新しい群れを乗っ取らなければならない…。
この独特のルールによって群れのリーダーは狙われる運命にあり、いざというときに備えておかなければいけないのである。狩りはしなくても、群れに異常がないか常に臨戦態勢で見回っているぞ。
あれ…めっちゃ責任重くない…? オスライオン…めっちゃ大変じゃん…。
以下の動画でオスライオン同士の戦いを見ることができる。飼育個体なので群れをかけた戦いというわけではない…なのにこの迫力。野生はこの何倍も激しいのだろうな…。
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戦いに負けたオスライオンの行く先は…?
リーダーのオスライオンが戦いに負けると、当然のごとく群れを追い出される。
そのあとどうするのかというと、また別の群れを乗っ取るか、乗っ取れない場合は単体で生きていくかになる。
このうち、単体で生きていく選択をした者には、さらに過酷な運命が待ち受けている。だって食事を獲ってきてくれるメスがいないから、やり慣れない狩りを一人でやらなきゃいけないんだもん…。
こういうオスのことを俗に"ノマドライオン"と呼ぶ。ノマドライオンは、歳を取って群れを乗っ取る力がなくなってしまった個体など、あまり強くないオスの末路である。
群れで狩りができないぶん、弱い動物を狙う彼らは動物より逃げ足の遅い人間を標的にし、人食いライオンと化してしまうこともあるぞ。
【追加雑学①】オスライオンは乗っ取った群れの子どもを皆殺しにする
プライドのリーダーがほかのオスに負けると、群れを乗っ取られるだけでなく、もうひとつ悲惨な運命が待っている。戦いに勝った新リーダーは、前のリーダーの血を引く子どもを皆殺しにしてしまうのだ。
「負け犬(負けライオン…?)の子どもに用はない!」といわんばかりの容赦のなさ…。
彼らがこんな行動を取るのは、そうしないと自分の子孫を残せないからである。
メスライオンの発情は通常1年に一度だが、一度子どもを生んでいるとその頻度は2年に一度に減ってしまう。ただし前のリーダーとの子どもを殺せば、彼女たちはまた子どもを作ろうと発情するのだ。
この習性のため、オスライオンは群れを乗っ取ったらまず、前のリーダーの子どもを根絶やしにする。ライオンの社会ではリーダーだけでなく、子どもたちも常に狙われる立場ということだ。掟は想像以上に厳しい…。
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でも…実はイクメンなオスライオン
自分の子どもじゃなきゃ皆殺しにしてしまうし、エサも独り占めしてしまう。ここまで見ればオスライオンはいかにも子どもに対して辛辣に見えるが、これはあくまでも、自分や群れの存続が一番の優先事項だからやっていることだ。
実は、普段の子どものしつけはオスライオンの仕事。群れの生き残りと関係のないところでは、とってもイクメンなのだ!
それもそのはずで、メスライオンが狩りをしているあいだは、オスライオンしか子どもを見る者がいない。メスが食事を獲ってくるのを待つあいだ、オスは子どもたちに群れの規律やコミュニケーションの取り方、狩りの仕方などを教えるのだ。
どう? 何もしてないように見えるけど、ちょっと見直したでしょ?
【追加雑学②】オスライオンのたてがみはほかのオスと戦うためのもの
オスライオンは狩りをしなくても、ほかのオスが乗っ取りを仕掛けてきたときに、群れを守るために戦う必要がある。彼らのたてがみは、この戦いに備えて生えたものだという説があるぞ。
狩りをするときに獲物に噛みつかれることはないが、オスライオン同士の戦いでは、首元に噛みつかれると致命傷になる。たてがみはその致命傷を避けるためのガードの役割を果たしているというのだ。
トラなど、単独行動をするネコ科動物にたてがみがないのは、そもそもオス同士で戦うことが少ないからである。
またたてがみは首を守るだけでなく、オスライオンにとって重要なステータスとなる。オスライオンは戦いに勝てば、その自信から男性ホルモン「テストステロン」が分泌され、より立派なたてがみの成長を促すようになっている。
たてがみが立派であるほど、強いオスであることの証となり、ほかのオスに狙われにくくなるのだ。さらにメスとしてもできるだけ強いオスと夫婦になりたいため、たてがみの立派なオスライオンほどモテるというぞ!
【追加雑学③】メスライオンに認められなかったオスはリーダーになれない
そう、ライオンにモテるモテない、という基準があることからわかるように、オスライオンは群れの前リーダーを倒せばそのまま王として君臨できるわけでもない。新しいリーダーになるには、群れのメスたちから認められることも必要なのだ。
メスがオスをテストする習性としてわかりやすいのが、子作りをする際のハーレム旅行。メスは発情するとオスを群れの外に誘い出し、約1週間、二人きりで行動する時間を設けるのだ。
そう、ハーレム旅行中のオスは、食事を群れのメスに頼ることができない。そのため自分で獲物を捕らえるなり、群れに戻るまで飢えに耐え忍んだりしなければいけないのだ。
さらにメスライオンは発情するとかなりお盛んで、1日に50回ほども交尾を求めてくる。多摩動物園の飼育員さんのインタビューで、これに応えられないオスがメスから攻撃されたという情報もあった。
満足にご飯も食べられないのに、相当数の交尾を求められる…。
このようにして、メスは子作りをすると同時にオスの生命力を試しているのだ。そのまま飢え死にしてしまうオスもいるというから、かなりガチめの試練である。
生き残ったとしても、一頭のメスが攻撃するようになったオスは、ほかのメスからも総スカンを食らってしまう。こうして結局群れにはいられなくなってしまうのだ。…世知辛いよね。
【追加雑学④】そもそもライオンが群れを作る理由は?
群れで暮らす習性によってオスライオンが過酷な立場に立たされているなら、ライオンもほかのネコ科動物みたいに単独で暮らせばいいのに…。そんな風に思った人もいるかもしれない。
しかしサバンナはライオンが単独で生きることを許さない環境である。ライオンと同じように集団行動をする肉食動物・ハイエナがいるからだ。
ハイエナというと、いつもほかの動物のおこぼれをもらっているイメージで、あまり強そうな感じはしないが、実情は違う。20匹ほどの群れを引き連れ、ライオンさえも襲ってしまうことがあるのだ。
このハイエナに対し、単独行動をしていては、たとえ百獣の王でも太刀打ちできない。そのためアフリカのライオンは群れを形成するようになったのだ。
以下の動画でライオンとハイエナの仁義なき戦いを見ることができる。
ハイエナは単体の力で劣るぶん、数で勝負を仕掛けてくる。仕留めやすい子どものライオンを狙うのも、彼らのずる賢い手段だ。
こういった群れの危機に際しては、オスライオンも妻や子どもを守るため、全力でその牙を振るうぞ!
【追加雑学⑤】オスライオンは狩りが下手
オスライオンは群れを守るために戦う。なら、その気になれば狩りだってお手のものなんじゃ? と思うところだ。しかし…彼らの身体はとにかく狩りに向いていない。
ライオンのオス・メスを比べてみると、以下のようにけっこうな体格差がある。
- オス…体長170~250cm・体重150~240kg
- メス…体調140~170cm・体重120~180kg
このうち、動物を追いかけることに関しては、小柄なメスのほうが向いている。
オスライオンは見た目こそ強そうに見えるが、身体がでかすぎて持久力が全然ないのである。またライオンは草むらに紛れて獲物を待ち構えるが、オスはたてがみが目立って隠れるのにも向かない。
これじゃあ、すばしっこい草食動物を捕まえるなんて至難の技だ。
キリンなどの大型動物が相手の場合、メスだけでは仕留めきれず、オスライオンが狩りに参加するケースもある。しかしその際も成功率は2割程度。まあ…いないよりはマシなのか…?
…汚名返上のために、オスライオンのカッコイイところも見てもらいたい。
メスライオンがバッファローを追い詰めるが、相手が巨体なだけあって、なかなか仕留めることができない。そこに身体の大きなオスライオンがトドメの一撃を加える! これは頼れるリーダーの風格ありだ!
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オスライオンの雑学まとめ
今回はオスライオンの知られざる生態の雑学を紹介した。
ほとんど寝ているだけに思えるオスライオンは、実は常にほかのオスから狙われる過酷な運命を背負っている。ひとたび戦いに敗れれば群れは乗っ取られ、自分の子孫は根絶やしだ。
彼らにはいつやってくるかわからない緊急事態に備えるという、群れにとってなにより大事な役割があるのだ。
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