宗教の世界には、その信者でなければ知らないような決めごとが存在している。たとえば、キリスト教最大の宗派である「カトリック教」ではどうだろうか。
今回耳に飛び込んできたのは、ローマ法王が逝去した際、かつては金槌で頭を叩いて確認していたという話だ。…ローマ法王といえば、カトリック教の最大聖職者である。
そんなお偉いさんの頭を叩くとは一体何事だろう? ちなみに、叩く人が恨んでいたなどという話ではないぞ! 以下より、そんなローマ法王の死を確認する際の手順と儀式の雑学をご紹介していこう。
【面白い雑学】かつてローマ法王の死は、金槌で頭を叩いて確認されていた
【雑学解説】ローマ法王の死を確認する手順とは?
ローマ法王は別名を「ローマ教皇」とも呼ばれ、キリスト教の最高聖職者であり、バチカン市国の国家元首にあたる存在だ。
「イエス・キリストの代理者」と評されることもあるローマ法王は、法王の最高顧問である枢機卿団(すうききょうだん)が票を投じる「教皇選挙(コンクラーヴェ)」によって決定される。
これは、法王の死後に混乱を招いた経験から、13世紀後半に決定された選挙システムだ。
そしてローマ法王の側近には、「カメルレンゴ」と呼ばれる法王の補佐をする枢機卿がいる。このカメルレンゴは、生前に法王自らが指名した人物が就く役職である。また、この役職に指名された者は、法王の死を確認する重要な役割も担っている。
そこで登場するのが、ハンマーである!
影響力をもつローマ法王だからこそ、死を確認するにも厳格な手順が必要だった
法王が逝去した際、カメルレンゴは銀製のハンマーで法王の額を3度叩き、洗礼名を3度呼びかけ、声に反応しないことを確認して初めて、その死が確認されることになっていたのだ。
ローマ法王ともなれば、世界的宗教指導者の1人に数えられ、絶大な影響力を持つことになる。したがって、その死に際しては厳格な手順がとられていたのである。その方法こそ、額をハンマーで叩くことと、声による呼びかけだった。
返事ができないほど弱っていても、ハンマーで叩かれれば飛び起きるということか…? 亡くなっているとはいえ、お偉いさんの頭を叩かなければいけないカメルレンゴは、きっと荷が重かったのではないだろうか…。
ちなみにこの確認法が行われていたのは、20世紀以前の話。現在では逝去に際しても、科学的な根拠に基づいた判断によって確認が行われている。
スポンサーリンク
【追加雑学①】「カメルレンゴ」に与えられた別の重要な任務とは?
ローマ法王の死を確認する重要な任務を担うカメルレンゴ。実は、カメルレンゴは、法王の逝去に際してもうひとつ重要な役割を担っていた。法王が身につけている指輪を破壊することである。
法王は在職中、「漁夫の指輪」と呼ばれる指輪を手にはめている。これはイエス・キリストの地上の代理人とされる「ペテロ」の後継者の証を意味するものだ。そしてこの指輪には、法王が文書に押す印章が付いている。
この印章が他者の手で不正使用されることを防ぐため、カメルレンゴは、法王の指輪を枢機卿団の前で破壊する決まりがあるのだ。
その後、枢機卿団が集合して会合を開き、法王が逝去した15日から20日後までに、次の法王を決める選挙が行われる。なお、選挙はバチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂で行われるという。
【追加雑学②】伝統を拒否した?信者のキスを拒んだローマ法王
先に記した通り、ローマ法王は在職中、その手に「漁夫の指輪」と呼ばれる指輪をはめている。カトリック教徒の間では、ローマ法王と面会した際、その指輪にキスをする伝統があるのだ。
だが、2019年3月、法王が信者のキスを避ける動画がネット上で拡散され、波紋を呼んだ。それは法王がイタリアのロレートという町を訪れて、信者とあいさつを交わしたときのことである。
以下の動画には、信者が法王の指輪にキスをしようとした際、あわてて手をひっこめる様子が映し出されている。
動画はネットで公開されると、またたく間に拡散され、1100万回を超える視聴数を記録。この行為は、さまざまな憶測を呼び、カトリックの保守派の人々から「伝統を否定する」として多くの批判が集まった。
バチカンの報道官の説明によると、法王がキスを拒否したのは、信者が指輪にキスをすることで細菌の感染が広まることを恐れた、衛生上の理由にあったとのこと。しかし真意のほどは、法王のみが知るところであろう。
雑学まとめ
カトリック教徒の精神的支柱と呼ばれるローマ法王についての雑学を紹介した。かつてはその死に際して、側近の者がハンマーと声かけによって確認を行っていた歴史があったのだ。
そうまでして、本当に亡くなっているかを確認しなければいけなかったのは、法王という座につきまとう権威や影響力の強さからだった。そして信者のキスを避けた件からもわかるように、影響力が強いこともまた、気苦労が絶えないものである。