「南蛮渡来の~でございます。ひっひっひ。」時代劇で、悪代官たちが悪だくみするシーンでよく出てくる「南蛮」という言葉。中国が異民族に対してつかっていた蔑称だが、日本では単純にヨーロッパや東南アジア、スペインやポルトガルを指す言葉だ。
この「南蛮」という言葉は料理によく登場するが、そばやうどんの「鴨南蛮」は南蛮渡来の食べ物…ではなさそうだ。
なぜあの純和風なそば・うどんが「鴨南蛮」と呼ばれているのだろうか? 鴨南蛮の「南蛮」ってなんだ? 今回の雑学記事では、この「南蛮」について解説していくぞ!
【食べ物雑学】鴨南蛮の「南蛮」の意味とは?
【雑学解説】鴨南蛮とは「ネギ」のことを「南蛮」と置き換えた料理名
鴨南蛮とは、鴨肉とネギが入った熱い汁をかけて食べるそば・うどんのこと。鴨とネギ? 鴨・南蛮? そう、実は鴨南蛮の「南蛮」とは文字通り単純にネギのことを指しているのだ。
じゃあなんでシンプルに「鴨ネギ」にしないんだ!
「鴨ネギ」だと「鴨がネギしょってやってくる」のイメージがあるからだろうか…。鴨とネギがベストタッグだということだけは間違いないが。たしかに「鴨ネギ」というメニューより「鴨南蛮」の方がおいしそうに感じられるかもしれない。
実は「ネギ」が「南蛮」に置き換えられたのには理由がある。江戸時代、来日した南蛮人の皆さんは、健康維持目的で母国で食べていた玉ねぎの代わりに、ネギを好んで食べていたようだ。
玉ねぎの代わりに大量にネギを食べる南蛮人の姿は、当時の日本人の目からは「あいつら、ネギ好っきやな~」という印象になり、ネギを「南蛮」と呼ぶようになったのだ。
それが由来となって蕎麦屋ではネギのことを「南蛮」と呼び、鴨肉とネギの入ったそば・うどんのことを「鴨南蛮」と呼ぶようになった。
【追加雑学①】南蛮漬けやチキン南蛮の「南蛮」は違う意味
鴨南蛮の「南蛮」がネギを指していることはわかったが、じゃあ「南蛮漬け」や「チキン南蛮」はどうなんだろう? あまりネギが主張している料理ではない。どうやら南蛮漬けとチキン南蛮は、鴨南蛮と違う事情があるようだ。
まず、南蛮漬けとは肉や魚の揚げ物を「南蛮酢」に漬けた料理である。この「南蛮酢」とはネギや玉ねぎと唐辛子の入った甘酢のことだ。もしや、このネギの関係で「南蛮」なのか? と思いきや、こちらはネギと無関係。
この南蛮酢に漬ける調理方法は当時の日本にはなく、スペインやポルトガルから伝わった調理法だったため、「南蛮漬け」という名前になったのだ。そして「チキン南蛮」とは、宮崎県発祥の鶏肉料理であるが、単純に鶏肉の唐揚げを南蛮酢に浸したものだから「チキン南蛮」なのだ。
ちなみにチキン南蛮といえばタルタルソースがつきものだが、タルタルソースがかかっていようがいまいが、南蛮酢に漬けてさえいれば立派な「チキン南蛮」だということをお伝えしておこう。
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【追加雑学②】関西では「鴨なんば」と呼ぶ不思議
関東と関西で呼び方が違う食べ物は多いが、鴨南蛮もそのひとつだ。大阪や京都など関西では「鴨なんば」と呼ばれている。ん? 「ん」が抜けている。惜しいな! ただの言い間違いなのでは? と思うかも知れないが、「鴨なんば」にはしっかりとした根拠がある。
実は明治時代まで大阪の難波は広大なネギ畑であり、今では幻の野菜といわれる「難波ネギ」が栽培されていた。この伝統野菜が京都に持ち込まれ、有名な九条ネギになったのだ。せやから、ほんまはネギのルーツは大阪の難波でっせ!
というわけで「鴨南蛮」同様、「鴨なんば」の場合も「なんば=ネギ」なのだ。それにしても偶然にしては似すぎている呼び方ではないか。どちらが先かはわからないが、似た言葉を無理に当てはめて寄せた感が否めない。
【追加雑学③】関西ではなぜ鶏肉を「かしわ」と呼ぶのか
もうひとつ、鴨南蛮に関して関西特有の呼び方が存在している。「かしわ南蛮」という料理名をご存知だろうか。関西では鶏肉のことを「かしわ」と呼ぶ昔の名残がある。茶色い鶏のことを「かしわ」と呼び、語源は柏の葉の色(茶色)だ。
昔、鳥獣の肉は植物の色で表現された呼び名がついていた。
- イノシシ = ぼたん
- 鹿 = もみじ
- 馬 = さくら
- 鶏 = かしわ
これらは今も料理名に使われる粋な呼び方なのだ。つまり「かしわ南蛮」は「鶏南蛮」のことだ。鴨肉も鶏肉だから、たしかに「鶏南蛮=かしわ南蛮」ではある。鴨肉だと「鴨なんば」なのに、鶏肉だと「かしわなんば」にならないところが謎だが。
「鴨南蛮」の雑学まとめ
「鴨南蛮」は、来日当初のネギ大好き南蛮人の様子を上手に表現した料理名だった。実際はまったく南蛮感のないメニューだが、なぜ「南蛮」が名前に入っているのか、これで謎が解けただろうか。
南蛮渡来ではない日本古来のネギが「南蛮」と呼ばれた背景に、言葉の通じない南蛮人を遠巻きに観察して、ネギが南蛮人の好物だと勘違いした当時の日本人のほほえましい姿が目に浮かぶ。
「南蛮」という言葉は当時の日本人にとってトレンディで注目度が上がるネーミングだったのかも知れない。現代でいうと「#南蛮」でいいね! が増えるという具合のビジネスアイコンといったところだ。ネギ、おしゃれな名前がついて良かったな!