そばにいる人が突然意識を失い、確かめると呼吸をしていない。そんなときに、自発的な呼吸を促すためにするのが人工呼吸である。車の運転免許証を取得する際、人形を相手に人工呼吸をしたという方も多いのではないだろうか。
しかし、私はふと気づいてしまった。自分の吐いた息を吹き込んでも意味ないんじゃね? 吐いた息には、当然二酸化炭素が多く含まれているわけで、二酸化炭素ばかり送り込んで呼吸の意味があるのだろうか。そこで今回は人工呼吸について調べてみたので、雑学としてご紹介していこう。
【人体雑学】人工呼吸は二酸化炭素を送り込んでることになるから意味がない?
【雑学解説】呼気の15%ほどは酸素
呼吸というのは、空気を吸い込むことによって空気中の酸素を体内に取り込み、不要になった二酸化炭素を排出する行為である。これは理科の時間あたりに習った記憶がある方も多いだろう。
これを聞いた段階で、空気中には酸素がたくさんあり、吐いた息はほとんど二酸化炭素というイメージであった。しかし「八光電機」によると、実際の空気の組成は、窒素は78%・酸素は20%・二酸化炭素は0.03%ほどなのである。
意外と酸素の割合が低いことに驚く。二酸化炭素が温暖化の原因なんていわれているわりに、二酸化炭素自体はほとんど空気中にないというのだ。空気中にたくさんありながら影の薄い窒素には同情。
空気を吸い込んで吐き出すと、二酸化炭素の濃度が4.5%ほどに上昇。そして、酸素は多少減少するものの15%程度は存在するとのこと。つまり、呼気でもそれだけ酸素が含まれているため、人工呼吸を行なってもなにも問題ないのだ。
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【追加雑学①】かつての人工呼吸器は「鉄の肺」と呼ばれていた
1929年に開発された人工呼吸器は、鉄の箱のなかに全身を入れて首を出すというスタイルだった。そして、「箱の中の圧力をさげることで強制的に肺を広げる」「圧力をもとに戻すことで肺をしぼませる」を繰り返すことで人工的に呼吸をさせていたのだ。
そのため、その頃の人工呼吸器は「鉄の肺」といわれていた。ただ、鉄の箱に患者が入っている状態では呼吸以外の処置が非常にしづらかったため、あまり長くは使われなかったようだ。
1950年代に入ると、肺にチューブを入れて空気を送り込む手法がとられるようになったが、空気を送り込むためのポンプは手動であった。そのため、医師や看護師が夜通し交替でポンプを動かし続けなければならなかった。当時の医療者のみなさんには頭が下がる。
日本が人工呼吸器を輸入しはじめたのは、1960年頃のことだ。思ったよりも最近である。日本独自の人工呼吸装置もあったようだが、電子化が進んでいた海外製が徐々に普及していった。
呼吸が止まれば人は生きていけないため、人工呼吸器のおかげで命をつないだ人は数多くいるだろう。医学の発展に感謝である。
【追加雑学②】二酸化炭素には重要な役割がある
なんとなく二酸化炭素というと悪者っぽいイメージがある。地球温暖化の原因は二酸化炭素だといわれているし、呼吸においても不要物として捨てられているからだろうか。
しかし、そんな二酸化炭素も、実は人体において必要不可欠な役割を担っているのである。人体は二酸化炭素があることで体内に酸素を取り込んでいるのだ。
呼吸によって体内に空気が入ると、酸素は血中のヘモグロビンと結合することによって体内を運ばれる。そして、各部でその結合が解かれることで、体内の各部に酸素が供給される仕組みになっている。
しかし、血中の二酸化炭素濃度が低いと、ヘモグロビンと酸素の結合はうまく解けない。つまり、二酸化炭素がないと酸欠に陥ってしまうのだ。
血中の二酸化炭素濃度が低下すると、過呼吸ともいわれる過換気症候群を引き起こすことがある。呼吸困難やしびれなどが主な症状だ。
過換気症候群になってしまったとき、かつてはペーパーバッグ法が多く用いられてきた。これは、口に紙袋などをあてることで自分の呼気を吸入し、二酸化炭素を多く体に取り入れる方法である。
しかし、この方法は血中の二酸化炭素濃度が上がりすぎて、酸素が欠乏するおそれがあることから、最近ではあまり行われていない。
現在は、呼吸の回数を減らすことで、体内の二酸化炭素の流出を防ぐことが重要であると考えられている。もし過換気症候群になったら、息を吐く時間を長くすることで呼吸の回数を減らしてみよう。
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【追加雑学③】人工呼吸は省略OK
命をつなぐために有効な人工呼吸。でも、知り合いならともかく見ず知らずの人にマウストゥーマウスは抵抗があるという人もいるだろう。そんな人のために、今では人工呼吸用マウスピースやシートが販売されている。
ところで、筆者は人命救助といえば胸骨圧迫(心臓マッサージ)と人工呼吸をセットで、と思っていた。しかし、最近では「人工呼吸は省略してもよい」というのが一般的なようだ。
これは要救助者と直に接触することによる感染を防ぐため。そして、人工呼吸を敬遠して救命措置そのものをしないことがないように、という配慮からきたものだそうだ。
そのため、意識を失った人がいる場合に最優先すべきは胸骨圧迫である。胸部圧迫の方法は以下の動画をご覧いただきたい。
1分辺り100回以上のペースで圧迫し続ける必要があるため、かなりの重労働である。周囲に人がいる場合には交替しながら続けるのがいいだろう。
雑学まとめ
二酸化炭素を吹き込む人工呼吸に意味はないのではないか、という疑問から始まった今回の雑学。呼気中には二酸化炭素より酸素が多いことがわかり驚いた。
病院を題材としたドラマで見る機会も多い人工呼吸器だが、それも現在の人工呼吸器が小型であるがゆえであろう。「鉄の肺」と呼ばれていた頃の人工呼吸器がドラマに登場したら、みんな度肝を抜かれてしまうだろう。
救命措置をする際に人工呼吸を省略してもいいことも今回初めて知った。救命措置といえば人工呼吸、くらいに考えていた。医療の分野は日々進歩している。かつて常識とされたことが、いつまでも常識とは限らないことを肝に銘じることにしよう。
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