陸上競技において、1秒・0.1秒の差は侮れない。特に選手たちのスタートの良し悪しが、勝敗を分ける重要な要素となることは誰もが知るところだ。
スタートの際、スターターは合図を鳴らす前に、選手に向かってある声を掛けている。そう、「オンユアマーク・セット」(On your marks・Set)だ。これは日本語にすると「位置について・用意」という意味になる。
国内の陸上競技では、この「位置について・よーい」の掛け声はお馴染みだが、どうしてこの合図が使われるようになったかご存知だろうか? 実は単に英語の掛け声を直訳するとそうなるからではないという。
そう、この掛け声が使われるようになったことにも、興味深い経緯が存在するのだ。今回は、陸上競技や運動会などでおなじみの「位置について・よーい」の雑学を紹介しよう!
【スポーツ雑学】「位置について・よーい」の掛け声の由来は?
【雑学解説】「位置について・よーい」は、一般公募で採用された掛け声だった
「位置について・よーい」の掛け声が採用された経緯を辿ると、その昔にはスタート時の合図が統一されておらず、大会ごとにバラバラの合図が使われていたことに行き着く。
たとえば、スターターが壊れた傘を使って、「いいか」と大きな声をあげ、「1(ひい)・2(ふう)、3(みい)」の合図で、傘を振りおろすというもの。
また「腰を上げて待て」・「ケツ上げろ」などと、スターターが選手たちに声をかけた合図まであったという。なんだかどちらも緊張感に欠けるというか…いまいち締まりがない感じがする…。
また1917年に開催された「第3回極東選手権」においては、現在のスタート時のかけ声に近い「On your mark, Get set,(go)」の合図も使われていたそうである。
このように大会ごとに合図が違うというのは、選手としてもやりにくいのではないか…と思わされる。これは当時の人も同意見だったのだろう。
そこで1928年になると、全日本陸上連盟(現・日本陸上連盟)は、スタート時に選手にかける「On your mark, Get set,(Go)」に代わる日本語での合図を「一般公募」で募集したのである。
そのなかで、山田秀夫という人物が提案した「位置について・よーい」が採用されたのだ。この案は1928年3月4日の東京日日新聞紙上に掲載された。
そして翌年、「位置について・よーい・(ドン)」というスタート合図が、日本の陸上競技規則によって明文化されるに至ったのだ。採用された本人も、まさか、これほど後世までに普及するとは思っていなかったのではないだろうか。
なお、現在では日本国内の高校生の大会でも、「On your marks…Set」が使われているが、一部のマラソン大会では、今でも「位置について・よーい・ドン」が採用されている。
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【追加雑学】「陸上競技」と名付けた人物は誰?
現在では「陸上競技」という呼び方も当たり前になっているが、かつては別の名称で呼ばれていたことをご存知だろうか。どう呼ばれていたかというと、「力芸(りきげい)」だ。ちなみに学校などで行われる運動会も、力芸会と呼ばれていた。
この「力芸」に「陸上競技」という言葉をあてはめたのが、俳人として有名な「正岡子規(まさおかしき)」である。
彼は1896年に発表した「松蘿玉液(しょうらぎょくえき)」という随筆集のなかで、力芸会のことを日本で初めて「陸上競技会」・「陸上運動会」と表記したのだ。
さらに子規はこの随筆集において、アメリカで盛んに実施されている「ベースボール」のことを、「野球」と日本語に直して紹介した。つまり当時の日本で呼び方が曖昧だったあらゆるスポーツに、馴染みやすい呼び名を付けていったわけだ。
子規の功績は文学のみならず、スポーツの分野にもいたっていたのである。
雑学まとめ
運動会や陸上競技で使われる「位置について・よーい」の合図は、一般公募において募集されたものだったという雑学をご紹介した。1928年から使われていることを考えると、いわば戦前の時代から続く風習ということだ。
国際化が進んだ現代社会においても、その合図は変わらず使われ続けている。やはり慣れたものに勝るものはないということだろうか…。