「NHKのど自慢」といえば、NHKで毎週日曜に放送されている、ご長寿番組だ。今やタレントが主流のテレビ番組が多い中、一般の人々にスポットを当てている番組というのも今はめずらしいと筆者は思った。
楽しそうに、ときに真剣に、ときに面白おかしく出演者たちが歌い、最後は鐘で合否が発表されるあのおなじみの風景には、視聴者も一緒に喜んだりすることもあるだろう。
もはや「のど自慢=鐘の音」という関係は、我々のイメージから離れることがない番組の重要ポイントである。しかし、実はNHKのど自慢の開始当初の頃は、鐘を使用せずに合否を発表していたという!
いったいどんな発表の仕方をしていたのか? なぜ鐘の音になったのか…解説していこう。
【生活雑学】NHKのど自慢の鐘は当初使われていなかった
【雑学解説】のど自慢の鐘が誕生した理由とは?
そう、放送開始当初の「NHKのど自慢」の合否判定は今のような鐘ではなく、口頭で伝えていたのだという。
この番組の放送が始まったのは1946年(昭和21年)1月19日、「のど自慢素人音楽会」というタイトルでスタートした。太平洋戦争が終わったのが昭和20年8月15日…なんと半年も経っていないのだ。初期の「のど自慢」はラジオのみでの放送で、テレビ放送はもっと後のことだ。
この番組を企画したのは当時のNHK音楽プロデューサーであった三枝健剛氏。作曲家の三枝成彰氏の父親である。健剛氏は「戦争で辛い思いをした一般人の人々に思い切り歌ってもらいたい」という気持ちでこの番組を発案したという。
みんな同じ気持ちであったのか、第1回放送の参加応募数は900名以上であったとか!
話を戻すが、「のど自慢」の合否の審査に関しては、現在も同じ手法である。しかし出演者に合格を伝えるのは鐘ではなく口頭であったのだ。合格をした人には「合格です」、不合格だった人には「結構です」と伝えていたという。
正直なところ上手い下手はともかく、歌っているところで「結構です」といわれるのは、歌っている本人は少々心にグサリとくるのではないだろうか? カラオケで、途中でそんなことをいわれたら間違いなくへこむだろう。
筆者は最初、この口頭で伝える審査基準が取り止められたのは、「結構です」といわれた参加者ががっかりするから、とかそういうものを想像していたのだが、理由は真逆だった。
なんと「結構です」というのを「大変結構です」という意味と解釈し、合格と思い込んで大喜びする参加者が多かったのだという! 結局は落ち込むことに間違いなかっただろうが、ポジティブな捉え方はとても素晴らしい。
そのような理由から、誰でもすぐに分かる判定方法はないだろうかと模索した結果、NHKの倉庫に置いてあった「例の鐘」を使って判定をするアイデアを見出し、以降は1つでダメ・2つでまあまあ・3つで合格という合否ラインで、審査をすることとなったのだ。
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【追加雑学】のど自慢の合否に使用している鐘は「チューブラーベル」
のど自慢の必須アイテム「鐘」。ザ・ドリフターズの素人のど自慢大会をネタにしたコントでも、司会者に扮した、いかりや長介が面白おかしく鐘を鳴らすシーンが出てくるほど、のど自慢の鐘は印象的な存在であった。
この鐘、見たことはあるものの、その名前を知っている方は案外少ないのではないだろうか? 「のど自慢」の番組の最後の演奏者紹介でも「鐘」としかいっていないのだ。
この鐘の名前は「チューブラーベル」といい、別名では「チャイム」「オーケストラチャイム」などとも呼ばれている。1867年に発明された楽器で、吊るされたパイプ状の鐘をハンマーで叩き、足元のペダルで余韻を操作しながら演奏する楽器だ。
ちなみに、個人で購入して自宅で使用することはまず皆無だと思われるが、購入自体は可能である! ネットで調べたところ、おおよそ100万円もあれば購入可能だ。意外に高いけども頑張れば買える値段かもしれない…でもいらない…。
「チューブラー・ベルズ」という音楽がある!【動画】
さて、この「チューブラーベル」だが、オーケストラなどで使用された楽曲は数多くあるが、タイトルにそのまま「Tubular bells」という名前をつけたプログレッシヴ・ロックのアルバムがあることをご存知だろうか?
この楽曲は、イギリスのミュージシャンであるマイク・オールドフィールドが1973年に発表したアルバムのタイトルで、イギリスのヴァージン・レコード社のカタログ番号1番が記された伝説的な作品だ。
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なぜこのようなタイトルになったかという理由が面白い。演奏中にチューブラーベルが使用されているというのもあるが、「パート1」のラストで、楽曲に使用した楽器を声で紹介する部分があり、最後に「Tubular Bells!」と紹介された後に、力強く鐘を叩く音が聴こえるのだ。
オールドフィールドはこの声が印象に残り、タイトルを「Tubular Bells」にしたという。また、ラストの鐘の演奏で、炭鉱で使用する金属製のハンマーで叩いたせいでパイプが変形してしまう。
ジャケットのひん曲がったパイプの絵は、ここからインスピレーションを受けた画家がデザインしたものだとか。
先程も書いたが、チューブラーベルは100万円を超える楽器である…演奏のためとはいえ変形するほど叩くとは、大胆すぎる…。
また、この楽曲にはまだ面白いネタが隠されている。カヴァー演奏であるが、以下の動画を聴いていただきたい。聴き覚えがあるメロディが聴こえるはずだ…さあ、この曲はなんのメロディーだ?
(演奏は1分30秒付近から)
おわかりいただけただろうか? このメロディーは…あの名作ホラー映画「エクソシスト」のテーマ曲のメロディーではないか!
実はエクソシストのテーマ曲は、この「Tubular Bells」の冒頭部分を拝借した曲で、映画会社の独自でアレンジをしたため、オールドフィールドは許可は出しているものの、無関係なのだ。
オリジナルの楽曲はホラー映画の面影もなく、非常に壮大で格好いい曲だ。興味をもったらぜひ聴いてみるのも良いだろう。「のど自慢の鐘」が格好良く使われている貴重なアルバムである。
「のど自慢の鐘」の雑学まとめ
のど自慢の放送当初は鐘ではなく、「合格です」「結構です」というような口頭で伝えていたというトリビア、いかがだっただろうか。勘違いが多発したために鐘での合否判定に切り替えたというのは、面白いきっかけだと思った。
最近は鐘1つは少なくなったらしく、鐘2つか3つが主流になっているとのこと。それも少しさみしい気がする。
…しかし、鐘を使っていなかったときはオープニングも違うものであったのだろうか? 一体どんなオープニングだったのか気になる。