日本の男子短距離界が空前の盛り上がりを見せている。
日本人初の9秒台を突破した桐生祥秀(きりゅうよしひで)や、日本人2人目の9秒台を記録したサニブラウン・ハキームなど、今後の記録が期待できる逸材が揃っているのだ。
わずか9秒から10秒の間に勝敗がつく100メートル走の世界では、スタートが勝敗を分ける重要な要素である。しかし実は100メートル走の世界ルールでは、人間が反応できるタイムより速く選手がスタートを切った場合、フライングとして認定されてしまうのだ。
この記事では、100メートル走のスタートにおいて、合図直後にスタートしてもフライングになる雑学についてご紹介する。
【スポーツ雑学】100メートル走の世界ルールでは、合図直後にスタートしてもフライングになる
【雑学解説】フライング判定はあくまでセンサーによって下される
100メートル走はわずか9秒から10秒前後で勝敗が決着する競技だ。そのため、スタートはできる限り速いほどいいと思っている方が多いのではないだろうか。実はそうではないのだ。
100メートル走では、人間が音を聞いて反応するまで最速でも0.1秒かかるという科学的な根拠によって、合図が鳴ってから0.1秒以上の速さで選手がスタートを切ってしまうと、フライングとして認定されてしまうのである。
そもそもフライングのルールは、時代によって厳格化されてきた歴史がある。2003年以前は、2回目以降のスタートでフライングした選手が失格になっていたが、2010年からは1回目のフライングで失格となるルールに改正された。
陸上関係者によると、ルールの厳格化の背景には、スタートをよりよく切るために選手がフライングするケースが続出したことにあったという。そのため、テレビの放送時間内に競技が収まらなくなったことが理由だとされる。
つまり、選手同士の駆け引きや、スタート合図を見越した選手が走り出すことが出来ないようにルール上で制約されたワケである。そして、現在は選手がフライングを犯すと一発で失格になる厳しいルールで競技が実施されている。
だが、人間が音を聞いてからの反応速度が0.1秒かかるという科学的な根拠には疑問も呈されており、より速く反応できるとの異論も存在するという。
また、大会ごとによって使用されるセンサーは異なっており、スタート時に選手が重心を移したことを感知して反応する機器もあることから、フライングに関するルールは、今後も議論を呼びそうである。
厳格なルールで競技が行われることには賛成したいが、大会ごとに異なる機器が使用されるのは、陸上の花形競技・100メートル走に出場する選手や、それを楽しみにする観客とっては、何とも不安を感じてしまう要素である。
【追加雑学①】0.1秒より早く反応し、フライングのため失格となった桐生祥秀
100メートル走において、0.1秒より速い反応速度でスタートを切るとフライングになるというルール。実はあの日本人選手も、このルールによって、大会でフライングで失格になっていたのだ。
その人物が、日本人初の9秒台を記録した桐生祥秀(きりゅうよしひで)選手である。2017年5月に開催された「ダイヤモンドリーグ上海大会」のこと、彼は人生初のフライングで、失格になってしまったのだ。
当時、彼は日本人選手のなかで、9秒台を記録することが最も期待された選手だった。彼はもともとスタートを苦手とする選手で、夢の大台に乗せるには、スタートが鍵を握ると思われていた。
俄然、そのスタートには注目が集まった。そして同大会において、彼は抜群のスタートを切ったと思われた。だが、スタート直後にレースは中断し、桐生に失格が言い渡される。
桐生の反応タイムは0秒084だった。0.1秒とされるフライングルールよりも速く反応してしまったのだ。この大会で使用されたセンサーは、選手が足を置くスタートブロックにかかる圧力に一定の変化があると反応する仕組みだったという。
つまり、選手の重心が前に傾いただけでフライングに認定されるリスクがあったのだ。フライングを測定するセンサーが大会ごとによって異なる弊害が出たケースといえるだろう。
だが、失敗を糧とするのが一流アスリートの証でもある。半年後、彼は「第86回日本学生陸上競技対校選手権大会」の男子100メートル決勝において、日本人初の9秒98で優勝したのだ。当時の映像をご覧いただこう。
彼は日本人初の9秒台を出すことに成功したのだ。かつての大会での失敗を見事に活かした、見事な記録更新であった。さすが、一流アスリートだ。
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【追加雑学②】記憶に新しいウサイン・ボルトのフライング失格
フライングのルールは、年々厳格化されてきたことは先にご紹介した。2010年からは、1度フライングを犯した選手が即失格になるルールのもとに競技が実施されている。
ルール改正後、即失格になったケースで最も印象に残るレースがある。2011年8月、韓国・大邱(テグ)で開催された「世界陸上選手権」の男子100メートル決勝において、世界記録保持者であるウサイン・ボルトがフライングで失格になったレースだ。
上の映像はその瞬間の様子である。彼は100メートル決勝の大一番で、大勢の観客が固唾を呑んで見守るなか、フライングで失格となったのである。当時、ボルトのライバルとされたのが、同じジャマイカ人選手の「アサファ・パウエル」と、アメリカ人選手「タイソン・ゲイ」だった。
だが、この大会に2人は出場しておらず、人類最速を決める100メートル決勝は、ボルトの圧勝に終わるかと思われた。だが結末は、ボルトがフライングで失格するという思わぬ決着となった。
スタート直後、ボルトは、自らフライングを犯したことを悟ったのか、ユニフォームを脱ぎ、顔をゆがめて悔しがった。彼は直後のインタビューで「今は何も言うことができない」と答えている。
筆者も決勝の様子をテレビで観戦していたが、織田裕二ばりに「ボルトがやらかした!」と頭を抱えたものである。
雑学まとめ
以上、100メートル走の世界ルールでは、スタートの合図直後にスタートしてもフライングになること、国内外の選手がフライングを犯したそれぞれの雑学についてご紹介してきた。
わずか数秒ほどで決着がつく100メートル走。そのコンマ数秒が勝敗を分ける世界においては、選手がより良いスタートを切ろうとフライングを犯すことは心情的には理解できる。
だがせっかくの決勝の大舞台でフライングにより失格となるのは、選手はもとより、観る側も残念でならない。こうしたフライングで失格する選手を少しでも減らすためにも、選手の意識はもとより、その判定を下すルールの定義や、判定を下す機器を統一してほしいものである。
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