あなたは吸血鬼と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるだろう? 漆黒の衣装にマントを羽織った貴族のような見た目。牙が生えていて、綺麗な女の人の首筋から血を吸う…といった具合だろうか。
このように、今でこそ高貴な雰囲気を連想させる吸血鬼だが、実はもともとは全く違う化け物だった。今回は、そんな吸血鬼の成り立ちにまつわる雑学を紹介しよう。
【サブカル雑学】吸血鬼はもともとゾンビのような化け物だった
【雑学解説】文学作品を通して今のイメージに
吸血鬼は、東ヨーロッパを中心とした民間伝承から生まれた。民間伝承の吸血鬼は、「亡くなった人が生き返って、生きている人の血や生気を吸う」というものが多い。
その見た目も墓から出てきた死者…つまり、ゾンビのようなイメージだった。今のように貴族のような見た目ではなかったのだ。
昔の人たちは、亡くなった人が血を吸いにくる夢を見て、その人の墓を掘り起こすことがあった。「あの夢は本当なのでは…」と、真意を確かめたかったのだろう。
当時は土葬だったので、掘り起こせば遺体が出てくる。その遺体は丸々と太って、口には血がついていたのだとか…。
しかしこれは、人間が死んで腐敗していく中で起こる自然現象だ。丸々と太っているのは、腐敗する中で出てくるガスによるものだし、口についている血も、血液が逆流して口から出てきただけである。
とはいえ、当時は医学も今のように発展しておらず、人が死後にどのような変化を遂げるのか、わかっていない部分も多かった。昔の人たちはそんな遺体を見て「この人は吸血鬼になったんだ!」と恐怖を感じたそうだ。
現在のイメージはジョン・ポリドリの『吸血鬼』から
墓場から出てきたゾンビのような怪物だった吸血鬼が、今のようなイメージになったのは、文学作品に登場するようになってからだ。その大きな転換となったのが、イギリスの作家ジョン・ポリドリが1819年に発表した『吸血鬼』である。
この作品に出てくる吸血鬼・ルスヴン卿(きょう)は貴族だった。色白で美形という容姿に、冷酷な雰囲気も漂わせているミステリアス系イケメンだ。さらに美女の血を好むという、まさに現代の吸血鬼のイメージを作った元祖といえる。
また、首筋から血を飲むのもルスヴン卿が最初だ。それまでの民間伝承の吸血鬼は、心臓に近い胸から血を飲んでいるものだと思われていた。血の飲み方の違いだけで一気に化け物感が増すものだ…。
ただ、ルスブン卿の吸血も厳密には「喉を噛みちぎって飲む」という荒々しいものとなっており、牙もまだ生えていない。首筋から血を飲むイメージを作ったには違いないが、現代のものと比べるとまだまだゾンビ的な要素が強く感じる。
このルスヴン卿から影響を受けて、後世の作家たちはさまざまな吸血鬼を生み出した。日本でも知っている人の多い、あの『吸血鬼ドラキュラ』もルスヴン卿から影響を受けた吸血鬼の1人だ。
もしもポリドリが「吸血鬼」を作らなかったら、吸血鬼はゾンビのような化け物のままだった。今のように「クールな貴族」というイメージを持つ人はいなかっただろう。
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【追加雑学】日光が弱点なのは映画が影響している
現代の私たちが知る吸血鬼には、さまざまな弱点がある。たとえば、ニンニクや十字架に弱いというのは有名だ。さらに、「日光を浴びると体が灰になってしまう」という弱点を挙げる人もいるだろう。
しかし実は、歴代の文学作品に登場する吸血鬼は日光では死なない。「日光が苦手・嫌い」という設定はあれど、昼間でも普通に外を出歩いている作品も多いのだ。
それではなぜ「吸血鬼は日光を浴びると体が灰になってしまう」というイメージがついてしまったのか…。それは、映画が原因である。
日光を浴びて吸血鬼が灰になる描写を最初に使ったのは、1922年にドイツで公開された映画『ノスフェラトゥ』だ。ここから吸血鬼関係の作品で、日光を浴びて灰になる演出が増え、「吸血鬼は日光を浴びると灰になる」というイメージが作られていった。
とはいえ現代の作品でも、昼間に出歩いても平気な吸血鬼はいる。もはや吸血鬼の在り方は民間伝承の域を離れて、作品ごとに多様な特徴をもっているのだ。
雑学まとめ
吸血鬼はもともとゾンビのような化け物だったという雑学を紹介した。しかし、文学作品がきっかけとなりそのイメージはガラッと変わり、今や誰しもが貴族のような姿を思い浮かべるようになった。
また弱点に関しても、文学作品から映画になることで変化を遂げている部分がある。吸血鬼は作品を面白くするために、その姿や特徴を次々に変えていったといえるだろう。