トゲが体に生えている動物として、みなさんの頭の中にはハリネズミのほか、ひょっとすると「ヤマアラシ」が浮かんだ人がいるかもしれない。
もちろんヤマアラシも、体にツンツンのトゲが生えた動物の一種なのだが、じつはヤマアラシを漢字で書く際には「山荒らし」と書き、なんとも物騒な表記をすることもあるのだ。
これはヤマアラシが自然に対して、あまりよろしくない影響を及ぼすとされる一面から当てられた漢字表記なのだが、一体どういった意味なのか疑問に思うだろう。
今回は、なぜヤマアラシを「山荒らし」と漢字で書くのか、雑学として記載したぞ! ほかにも、ヤマアラシの動物としての生態やモチーフにされた妖怪の話にも少し触れていく。盛りだくさんの動物雑学をぜひ楽しんでいただきたい。
【動物雑学】ヤマアラシは漢字にすると「山荒らし」と書く
【雑学解説】山を荒らす生き物として「ヤマアラシ」
ヤマアラシは「山荒」・「山荒らし」・「山嵐」・「豪猪」と複数の書き方がある。強い意味の字が多い。これにはヤマアラシの生態が関わっている。
ヤマアラシは基本草食であり、木の皮や葉っぱが好物。しかしその食欲は旺盛で、休みなく樹木を食べつくしてしまう動物とされている。ちなみにその食欲の強さだが、ヤマアラシ1匹が半年でおよそ100本の木々を食べてしまったという話まであるほど。まさしく森林破壊をまねくレベルなのである。
樹木の皮だけならまだしも、根っこまで食べるというのだから、樹木のダメージは甚大だ。よって、木は再生することなくそのまま枯れてしまう。
文字通り「山荒らし」の動物なのである。よって、山そのものの自然を破壊するほどの影響がある動物として山荒らしの漢字があてがわれたというわけだ。
しかし、休みなく食べ続けるというのは恐ろしい話で、ヤマアラシのお腹の中は果たしてどうなっているのやら…。
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【追加雑学①】ヤマアラシの生態
ヤマアラシは草食性・齧歯類(げっしるい)の動物の一種であり、ヤマアラシ科・アメリカヤマアラシ科の二つの科で分類される動物である。
動物園や図鑑などで姿を見たことがある人も多いかもしれないが、大型のハリネズミのような見た目で、背中と体の横に長い針が大量に生えているのがヤマアラシの大きな特徴だ。
体長は頭から胴までで63~90センチぐらい、体重は5.4キロ~16キロほど。尾の長さだけでは20センチ~25センチぐらいになる。そこまで大型の動物ではないが、同類の小型ネズミやリスに比べるとやはり大きい。
おもな生息地域はヤマアラシ科ならアジア・アフリカ・一部のヨーロッパ地域。アメリカヤマアラシ科ならその科名のとおり、北アメリカ・南アメリカに生息している。
日本では自然生息しておらず、国内では動物園などでのみ姿が見られる。
ちなみにヤマアラシなどの齧歯類とは哺乳類の動物の一種で、リスやネズミ類の動物もこれにあたる。
齧歯類は、世界中でおよそ3000種以上も分布している。齧歯類をふくめた哺乳類全体で4300から4600種といわれており、哺乳類のおよそ半数以上を占める繁栄種族なのだ。齧歯類の種類数のハンパなさがうかがえるだろう。
ヤマアラシの食性と繁殖数
ヤマアラシは夜行性動物で、基本的に日中は岩陰やみずから掘った巣穴で過ごし、夜になると動き出して食べ物を探す。
食性は前述した通り草食で、先に記述した樹木の葉・樹皮のほか、木の実や穀物なども好むという。しかも塩気があるものも好む面があり、キャンプ地などでは人間の食べ物を狙いに来ることさえあるというのだ(とんだ食いしん坊である)。
群れることはなく単独行動が主。同じ齧歯類のネズミは一度の出産で子供を5匹~9匹ほど産むのに対して、ヤマアラシは1頭か2頭と少なめだ。
少し可哀そうな物言いになるかもしれないが、産まれる子供の数が少ないことは、大自然にとっては不幸中の幸いなのかもしれない…。
ヤマアラシの針
ヤマアラシのトレードマークである針についてもやはり記述しなくてはならないだろう。この針はとても固く、人間の履くゴム製の長靴を貫くほどといわれている。
さらにこの針は、何かに刺さった拍子に抜けやすい。ちょっかいを出した他の動物の体に針が刺さり、抜けていってしまうことなども多々あるのだ。
よって、他の動物はヤマアラシを狩ることが出来ず、針だけ体に刺さってしまう…捕食動物からすればたまったものではない。もはやイメージ通りであるが、あの針は外敵や天敵から身を守るためについているのだ。
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ヤマアラシの攻撃性
ヤマアラシは攻撃性がかなり高く、主な天敵であるライオンやハイエナなどに果敢に立ち向かっていく特徴がある。
攻撃・威嚇方法としては後ろ足を鳴らしながら、背面の針を思いっきり相手に向け、振りながら突進するのだ。
これが針を大きく立てて、百獣の王に勇ましく立ち向かうヤマアラシの動画だ!
外国語の解説ではあるが、映像だけでもヤマアラシの気性の荒さがうかがえる。後半あたりは、なんとみずからライオンを追い立てているのだ。
筆者はこれまでヤマアラシには、針を立てるものの身を丸くして天敵をじっとやり過ごす弱々しいイメージがあったのだが、この動画を見て考え方が変わった。
ヤマアラシの強さ
この生物は守り一択ではなく、自身の針を武器として相手へ立ち向かう獰猛なアタッカーだったのだ。
万一ヤマアラシが捕食されても、その針の固さからか捕食した動物の口内や、内臓を突き破ってしまうのだとか。また、この針から感染症などにかかる恐れがあるため、下手をすれば捕食した側も病気で死んでしまうリスクがある。
こういった自身の特性を本能でわかっているから、大型の肉食動物にすら強気で立ち向かう気性の荒さが身についたとも推測できる。
一方で捕食動物側も、ヤマアラシの攻撃性と狩った後のデメリットをわかっているからか、襲うことはしないそうだ(よほど腹が減っているときなどは例外)。
こうなってくると、ヤマアラシは草食性でありながら、じつは食物連鎖ピラミッドの上のほうにいるのではと思えてしまう。弱点があるとすれば繁殖力の少なさくらいだ。
筆者のなかでも、ヤマアラシがその猛々しい名に負けないほど、強い動物のイメージへと変わったのは言うまでもない。
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【追加雑学②】妖怪ヤマアラシとは?
ヤマアラシがモデルの「妖怪」がいるのはご存じだろうか?
鳥山石燕(とりやませきえん)という画家が描いた妖怪画集『百鬼徒然袋(ひゃっきつれづれぶくろ)』のなかに「ヤマオロシ」という名の妖怪が描かれている。この妖怪はヤマアラシがもとになったという説がある。
ヤマオロシは室町時代に描かれたとされる『百鬼夜行絵巻(ひゃっきやこうえまき)』の中に描かれた、これまたヤマアラシの特徴と似ている様相の妖怪からヒントを得て、石燕が創作した妖怪なのだ。
ちなみに記事の最初のほうで、ヤマアラシは「豪猪」と表記するとしたが、石燕自身が画集内のヤマオロシの解説文に「豪猪という獣あり~」などと記述した部分がある。
こうしてヤマアラシの漢字表記の一つ「豪猪」を用いたということから、石燕は『百鬼夜行絵巻』に描かれた妖怪の姿と、自身が知っていた動物・ヤマアラシの存在をミックスして、妖怪として完成させたという見方が出来る。
ちなみに、この妖怪は「おろし金」のような突起が体に無数に付いていて、これが動物のヤマアラシと似かよっているのが特徴だ。
まだある!?ヤマアラシにまつわる伝承
ほかには、『百鬼夜行絵巻』に登場するヤマアラシに似た妖怪や、石燕の描いた『百鬼徒然袋』のヤマオロシとの直接の関係は不明であるが、広島県・和歌山県の伝承にヤマアラシが妖怪化したものが存在し、こちらは「シイ」という名で呼ばれているそうだ。
しかも、牛はこの妖怪が毛を逆立てる様子をたいそう怖がるとのことで、これを逆手にとって、牛飼いが牛を歩かせるため、近くにシイがいるという脅しで「シイシイ!」と声を掛けるといわれている。
また、奈良県・五条市では山中で木を刈り倒し、大音をたてる怪物がいたという伝承が残っている。こちらの怪物は、動物と同名で「ヤマアラシ」と呼ばれているのだとか。
上記のシイと同じく、『百鬼夜行絵巻』および石燕のヤマオロシとの関係性は不明だが、こちらの怪物の木を刈り倒すという特色は、樹木を食べつくすヤマアラシのイメージとも少し結びつく気がする。
雑学まとめ
「ヤマアラシ」についての雑学、いかがだっただろうか。地球上で最強クラスの生物といっても過言ではないライオンにも臆することなく立ち向かうのだから、ヤマアラシの勇猛さにはやはり目を見張るものがある。
もしも、あなたが日本の動物園でヤマアラシを見る機会があり、見た目をユニークで可愛いと思えるならばそれはそれで良いのだ。
しかし、肉食動物へも果敢に立ち向かうその姿とともに、山を荒らすほど木々を食べてしまうほどの食欲の旺盛さを考えると、ヤマアラシは実のところ、すごくたくましい生き物に思えないだろうか?
もっとも、ヤマアラシたちは人間や自然を困らせようとしているのではなく、本能として樹木を食べているのだろうだから、動物として罪はないのだということを付け加えておく。