「主食はお花です」…どこかのアイドルなら許されるセリフだろうか。
野菜ならともかく、花は普通飾るもの。積極的に食べたいという人はなかなかいないだろう。
ところが筆者の出身・東北地方では、菊の花を食用として食べるのが当たりまえだ。フツーに、ほんとうにフツーに食べる。家庭菜園でとれすぎた菊のおひたしだけで主食になる勢いである。
食用菊が全国的でないと知ったときは驚いたが、珍しい話ならみなさんに紹介しない手はない! 今回は、東北地方特有の食用菊に関する雑学をご紹介しよう。
【面白い雑学】東北地方では菊の花を食べる!【食用菊】
【雑学解説】東北の特産品・大輪の食用菊は野菜扱い
菊の花を食べるというと、刺身のツマにそえられた小さな菊を思い浮かべる人もいるだろう。
たしかに、通称「刺身のタンポポ」などと呼ばれるあれも、れっきとした食用菊である。ただし、刺身のツマは「小菊」で、通常の食用菊はもっと大輪だ。
以下のツイートで紹介されている通り、飾りというレベルではない。
秋田県産の食用菊です☀️ pic.twitter.com/FiL7PLGoAd
— 鈴木勇悦 (@tenkafubu11) November 15, 2019
日本国内でこんな風に野菜として食用菊を食べるのは主に東北地方特有で、山形県、青森県、新潟の中越・下越地方に多い。
食用菊はゆでて食べるのが基本なので、根本にある「がく」の部分から花びらをむしりとるのが下ごしらえ。新聞紙をしいた上が花びらの洪水になるのも、東北の台所ではよくある光景だ。
食用菊の代表的な品種は?
食用菊の品種でもっとも代表的なのは、黄色い花が特徴の「阿房宮(あぼうきゅう)」だろう。大きくて香りの強い大輪菊で、名前の由来は「美女が大勢住んでいた秦の始皇帝の後宮」なのだとか。
江戸時代に八戸藩主が京都の九条家から観賞用にもらい受け、栽培を始めたところ気候が適していたらしく、以降、青森県八戸市の特産品となっていった歴史がある。
食用菊の阿房宮煮てみました#阿房宮 #南部町 pic.twitter.com/CsjQPkLglW
— 仁山渓太郎@青森めじゃ飯 (@hoiuaerhg122) November 6, 2019
もうひとつ有名なのが、薄紫色の「延命楽(えんめいらく)」。安房宮よりやや小ぶりで下向きに咲き、シャキシャキとした歯触りが特徴だ。
【味と香りが濃厚な「本もって菊」が旬を迎えました!】
シャキシャキとした食感!旬の味をぜひ食卓に!
品種的には「延命楽」といいます。pic.twitter.com/X0gILxqwzO— ト一屋(酒田) (@toichiya_sakata) November 13, 2019
延命楽は中国では古くから漢方薬や菊茶・菊花酒などに利用されてきた品種で、日本には奈良時代に伝来した。日本における食用菊の歴史は、この延命楽から始まっているわけだ。
延命楽はその歴史の長さからか、地域特有のニックネームもたくさん付けられている。山形県では「もってのほか」、新潟県では「カキノモト」といった具合だ。
もってのほかは「天皇の御紋である菊の花を食べるなんてもってのほかだ!」とか、「もってのほか、おいしい」などの意味。
カキノモトには「垣根の元に植えられていた」とか、「柿がおいしくなるころが食べごろ」といった意味がある。延命楽は9月~11月が旬なので、こちらは季節感もぴったりな呼び名である。
食用菊と普通の菊の違いは?
食用菊として出回っている品種があるということは、菊ならなんでも食べられるってわけではないんだよね? と思うところ。しかし実のところ、キク科の植物に人体の害になる種類はなく、別に観賞用のものでも食用にすることはできる。
…ん? じゃあ、食用菊ってなんなの。という話になるが、これは観賞用の菊をより食べやすいように品種改良されたものである。特徴としては食用のほうが花びらが大きく、苦味が少ない。
つまり食用菊のほうがおいしく食べられるのは間違いないが、普通の菊が毒になったり、栄養価で劣るわけではない。
ただ、普通の菊は観賞用として育てられている関係で、農薬が使われていたり、虫がついていたりする可能性がある。もし食べる場合は栽培方法をしっかり確認すること、湯通しなどで虫をしっかり取ることを徹底しよう。
ちなみに刺身のツマに使われている小菊も、花びらをバラバラにして醤油に散りばめて食べるとおいしい。刺身と一緒に食べると花びらの食感と香りがプラスされて、良い感じのスパイスになるぞ! ただの飾りと思わずに一度お試しあれ。
【追加雑学①】食用菊に含まれる栄養素がスゴい
そもそも漢方薬として使われ、旧暦9月9日の重用の節句では不老長寿を願って愛でられる菊。食べものの印象がない人には意外だろうが、栄養価も満点である。だてに「延命楽」という名前を名乗ってはいない!
菊は食べることで解毒物質「グルタチオン」の体内生産を高めることが発見されているのと、なにより鮮やかな色合いの素になっているβカロテンや、ビタミンC・E、葉酸などのビタミンB群が豊富だ。
これらの栄養素の相乗効果により、以下のような健康効果を得ることができるぞ!
- アンチエイジング
- デトックス
- 発がん物質の抑制
- コレステロール・中性脂肪の低下
- 香りによるリラックス・疲労回復効果
美容にも生活習慣病予防にも効果的な菊。知らず知らずにたくさん食べててよかった!
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【追加雑学②】食用菊の食べ方のおすすめはおひたし・天ぷら
食用菊の食べ方でおすすめは、やっぱり何を置いてもおひたしだ!
菊のおいしさが一番ダイレクトに感じられるのももちろんだが、なにより簡単。とにかく手軽である。菊の花が手に入りさえすれば、普段料理をしない人はもとより、お湯さえ沸かせれば幼稚園児でも調理できてしまう。
その手順は…
- 花びらをむしり取る
- 少量の酢を入れた熱湯で数秒茹でる
- 流水で冷ました後、水気をよく絞る
以上! このように、カップラーメンレベルで簡単だ。水気をよく切ったら、あとはしょう油やポン酢など、お好みの調味料でいただく。食べ慣れないと花の香りが鼻につくかもしれないが、この香りが慣れるとクセになるのだ。
もし観賞用の菊で苦味が強い場合は、お酢の量を多くしたり、強くギュッと水気を絞ることで食べやすくなる。茹でたものを小分けにして冷凍しておけば、お弁当にちょっとした彩りを加えたいときなどにも最適である!
このほか、天ぷらなんかも花びら特有のしっとりした食感が楽しめるのでおすすめ。普通、天ぷらは色が地味になりがちだが、菊の天ぷらは見た目にも鮮やかだ!
菊の天ぷらが美しい♪ pic.twitter.com/2NDmwbUx04
— Hanae☆ (@HanaeOyaneko) November 3, 2018
見た目も鮮やかな菊料理【動画】
青森県は食用菊の大生産地!
ということで、菊料理がとても豊富だ。おひたしや天ぷらのほか、巻きずし・煮もの・鍋・酢のものと色鮮やかでビックリである。
野菜感覚で使えて、基本はどんな料理にも合う菊の花。彩りを加えたいときはなによりの味方になる!
食用菊の雑学まとめ
今回は東北地方の特産・食用菊の雑学を紹介した。
菊は繁殖力が強く、畑に植えるとものすごい大量に収穫できる。あまりに大量に獲れるので、実家の食卓には毎度のように出ていたし(ほんとに菊が主食レベルのときがある…)、ご近所さんにおすそ分けするのも日常茶飯事だった。
これも食べ慣れない地域からすると不思議な光景なんだよね。
おいしくて栄養満点な菊の花を、あなたもぜひ一度食べてみてほしい!