近代オリンピックが始まったのは1896年だ。また、ギリシャ中心に古代オリンピックが始まったのは紀元前8世紀頃からだと分かっている。
古代オリンピックはレスリングやボクシングなども行われていたが、基本的に制限時間などはなく、現代では考えられないような過酷な競技が多かった。
その中でも、もっとも過酷だといわれているのが総合格闘技のパンクラチオンである。今回の雑学では、古代オリンピックでもっとも過酷な競技、パンクラチオンについてご紹介しよう!
【オリンピック雑学】古代五輪の中でも最も過酷な競技「パンクラチオン」とは?
【雑学解説】パンクラチオンは多数の死者が出たこともあるくらい過酷
古代オリンピックは、現代では考えられない競技が多い。
そんな中でもボクシングは、古代オリンピックでも初期の頃から行われている競技。しかし現代とは様子が違う…。
最初は素手で殴り合う競技であったが、途中から革紐を手に巻いて戦うようになった。しかしこれは安全のための道具ではなく、敵を攻撃するための武器として作られたもので、金属の鋲が埋め込まれていたという。怖い。
そんな古代オリンピックでもっとも過酷な競技だったといわれるのが、パンクラチオンである。
パンクラチオンはボクシングとレスリングを組み合わせたものと呼ばれることもあるが、実際は全く独自の技術をもつ総合格闘技ともいわれている。
パンクラチオンは、紀元前648年に行われた古代オリンピックで正式種目となり、エゲツない人気となった。
血が飛び交う試合は、観衆たちを熱狂させた。現代のように娯楽が少なかった紀元前は、パンクラチオンが刺激的な娯楽だったのだろう…。
総合格闘技「パンクラチオン」の内容とは?
パンクラチオンは、噛み付くことと眼球を攻撃すること以外すべて許されており、打撃・投げ・サブミッションなど多彩な技術があったという。
ただし、素手の格闘技なので武器を使うことは許されなかった。パンクラチオンは現代の格闘技のように体重によって階級分けされることもなく、もちろん時間制限もない。きっつ…。
二人の選手が素手で戦い、相手が倒れて動けなくなるか、ギブアップのサインを出すまで戦いが続くのだ。戦いはほとんど殺し合いだったといわれており、多数の死者が出た大会もあったという。もはやスポーツの域ではないぞ…。
死者が出ることを防ぐために、審判には試合を止められる権利が与えられた。しかし、選手が審判の静止を聞かないことも少なくなかったため、審判はムチなどを武装していたというのだから驚きだ。審判にドSが多かったかどうかは知らない。
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実際の試合はどのように行われた?
では、パンクラチオンの試合がどのように行われたかだが、基本的には素手で戦いまくって最後の1人になるまで戦いが続くトーナメント方式である。
- 選手は、アルファ・ベータ・ガンマのような文字が書かれたくじを引く
- 審判がくじを確認
- 同じ文字のくじを持った選手同士が対戦
- 勝者がくじを引く
- 最後の1人になるまで戦う
このように試合が進んでいく。
圧倒的な強さがなければ、決勝戦まで進んでも体はボロボロに違いない。絶対参加したくない。
古代オリンピックでのパンクラチオン
ただ、パンクラチオンをオリンピックに導入するにあたり、ルール無制限はあまりにもヤバいだろうということに。そこで、大会委員会は2つのルールを加えた。
- 泥土か砂地で勝負
- 日没までに優勝者が決まらない場合は、顔を殴り合ってギブするまで続ける
※この場合の「ギブ」は基本的に「気絶」
…大会委員会…頭どうなってんの?
「泥土か砂地で勝負」って、当時コンクリートなくない?
2.のルールにいたっては、死者が出ない確率が上がるだけマシだが、そんな青春みたいなやり方ある?
しかも、そのパンチは避けてはならないのだ。週刊少年ジャンプか。
というわけで、いまから考えればなにからなにまでスゴすぎる。
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時代とともに変化
そんな破天荒すぎる競技だったパンクラチオンだが、時代の流れには逆らえなかった。
文明がどんどん発展していくにつれて、「この競技ヤバいだろ…」と引く人たちが増えていったのだ。
紀元前600年頃には素手のバトルロワイヤルだったパンクラチオンは、紀元前200年頃にはなんと男の子のための競技になっていた!
この頃には、選手に命の危険がある場合には、審判判断で試合を中断することができるようになった。おせーよ!!!
パンクラチオンが与えた影響
ただ、パンクラチオンの技術に関して詳しいことはわかっていない。
一方で、古代インドや中国の格闘技に影響を与えたという意見も存在する。また、パンクラチオンはグレコローマンスタイルのレスリングの原型だともいわれている。
グレコローマンスタイルは腰から下を攻めることができないというルールのレスリングで、現在もオリンピックの正式種目だ。
下の動画は、グレコローマンスタイルの大会を撮影したものだ。
ただし、グレコローマンスタイルの公式競技は男子のみとなっており、女子の大会は行われていない。
個人的には、パンクラチオンが原型だというグレコローマンスタイルの方が、フリースタイルより制限が厳しくて面白い。
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【追加雑学①】パンクラチオンは人類最古の格闘技のひとつ
パンクラチオンがいつ頃誕生したのかは分かっていないが、紀元前2000年頃にはパンクラチオンはすでに存在したという。めちゃめちゃ歴史のある競技だ。
パンクラチオンが確認されたもっとも古い記述は、ギリシャ神話の中である。ヘラクレスとテセウスがライオンとミノタウロスと戦う際に、パンクラチオンの技術を使っていることが確認されている。
また、パンクラチオンは戦争の技術として採用されていたこともわかっており、マケドニアやスパルタの重装歩兵もパンクラチオンを使用していたという。
たしかにパンクラチオン部隊が編成されたら怖すぎる。
マケドニアのアレキサンダー大王は、パンクラチオンの成績が優れているものを積極的に採用し、パンクラチオンのオリンピックチャンピオンだったディオクシパスを自分の側近にしていた。
これ以上ないボディガードであることはいうまでもない…。
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【追加雑学②】パンクラチオンは現代のオリンピックで復活する?
現代ではほとんど名前を知られていないパンクラチオンだが、実は完全になくなったわけではない。1969年にはギリシャ系アメリカ人のジム・アルヴァニチスが、パンクラチオンを復活させるための活動を始めた。
古代のパンクラチオンをそのまま復活させたわけではないが、ジム・アルヴァニチスは歴史的資料を参考にパンクラチオンの研究を続けたという。
そのおかげもあり、知名度は少しずつ上がっている。2004年のアテネオリンピックに競技として採用されることを目指し、1999年には国際パンクラチオン連盟が結成された。
残念ながら、アテネオリンピックに採用されることはなかった。しかし地域大会は行われており、オリンピック採用を目指しているという。日本にもパンクラチオン協会が存在する。
さらに国際レスリング連盟が主催するパンクラチオン世界選手権も行われており、シニアやジュニア以下の世界選手権も行われているのだ。
下の動画はパンクラチオン大会の様子である。
もちろん古代オリンピックのような過激なルールではなく、現代の総合格闘技のようなものになっており、打撃ありや打撃なしなどの種目に分けられている。
いずれ、現代のオリンピックでパンクラチオンが競技として復活することも十分に考えられるだろう。
パンクラチオンの雑学まとめ
古代オリンピックでもっとも過酷な競技「パンクラチオン」についての雑学をご紹介した。現在では考えられないような過酷なルールで行われたパンクラチオンだが、歴史は非常に長く、古い。
世界最古といわれる、古代インドの格闘技に影響を与えている説があるのは驚きである。
不完全なボクシングと不完全なレスリングを組み合わせたものと評されているが、実際は戦争でもっとも役に立つ技術と恐れられていたらしい。
銃がない時代のことを考えれば、たしかに最強かもしれない…。