オリンピックが開催されるとなったら、競技の前に盛り上がるのが聖火リレー。2020年の東京オリンピックの聖火リレーは、2020年3月26日に福島県を出発し、日本全国を回ったあと7月24日に開会式を迎えるそうだ。
オリンピックの象徴である聖火を繋いでいく人たちは、聖火ランナーと呼ばれている。東京オリンピックの聖火ランナーは、1人200mの距離を約1万人が走ってリレーする予定とのこと。
もちろん、参加費は無料。私も走ってみたい!
…走ってみたい理由には、無料だからということもある。少しの距離を走るのに、参加費がウン十万円もかかったら、さすがにみんな走る気なくなるよね!?
実は、1984年のオリンピック第23回大会の聖火ランナーはそれを払っていたのだ。しかも、そのことで少々ごたついたらしい。一体どういうことなのか…? 気になるので、今回はこの雑学について迫ってみよう!
【オリンピック雑学】ロス五輪は、聖火リレーの「売買」でもめた
【雑学解説】オリンピック運営費を黒字にするためにオリンピック自体を「商品」に。
スポーツ選手だけでなく一般の人も大いに盛り上がるオリンピックは、開催国だけでなく世界の経済にも影響を及ぼす。
しかし、そのようにオリンピックが商業化したのは1984年の第23回大会・ロサンゼルスオリンピックからだそうだ。
ロス五輪ではなぜ聖火が売買された?
第21回大会であるモントリオールオリンピックは、最終的に大赤字を出してしまった。(旧ソ連開催の第22回大会は、アメリカはじめ西側諸国はボイコットしている)
その赤字分は、カナダ政府・モントリオール市があるケベック州・開催都市のモントリオール市が負担することになり、増税などで住民の負担も大きくなった。返済が終わったのはなんと30年後!
オリンピック開催で盛り上がってたのに、終わった後には借金しか残らなかったなんて…むなしすぎる。
そんなことがあって、23回大会が開催されるロサンゼルス市は税金を使わないでオリンピックを開催するしかなくなった。オリンピック運営を完全に民営化したのである。民営化はオリンピック史上初のできごとだ。
カリフォルニア州もアメリカ政府も、運営費は一切出さなかったそう。2020年の東京オリンピックでは、国が1500億円負担するそうだが…。ロサンゼルス市はアメリカ政府の協力なしでやろうと思ったことがすごすぎ!
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運営民営化でロサンゼルスオリンピック運営委員会がやったこと
税金を使わないでオリンピックを運営することになった運営委員会。委員長には実業家のピーター・ユベロスが選ばれた。
だが、初めから潤沢な運営資金があったわけではない。そこでユベロスは、費用を工面するために今までの常識を覆すようなことを考えたのだ。
- テレビ放映権を高額で販売…メディア同士を競わせ、最も高い金額を提示してきたABCと約450億円で契約。前払いでもらい、預金して利息まで稼ぐという徹底ぶり。
- スポンサー協賛金…1業種1社のみの合計30社だけオリンピックロゴマークを使えるとして、一番高い協賛金を提示した企業と契約。ロゴマークの価値が高まり、巨額の協賛金を獲得。
- 入場料収入
- キャラクターグッズ販売
- コスト削減…新しく建設した競技場は、競泳場と競輪場だけ。他はすべて1932年のロサンゼルスオリンピック(第10回大会)で使用した競技場を使った。
- 聖火ランナーを有料化…一般市民に1km3000ドルで、聖火ランナーとしての権利を販売した。
ロス五輪の有料聖火ランナーとは?
今回のトリビアの主役「聖火リレーの売買」は前述のような経緯で、運営資金集めのために誕生したのだ。
それにしても、1km3000ドルとは…。調べてみたら、1984年当時は1ドル251円だったらしい。ということは、3000ドルで753000円!
私のような一般市民には到底手が出せないよ。
ちなみに、「トシちゃん」ことタレントの田原俊彦さんも、ロサンゼルスオリンピックの聖火ランナーになったんだとか。しかも、そのときに記念にもらったトーチをなくしたそう。…お金持ちってすごいなぁ…と小学生並の感想しか出てこなかった。
聖火リレーで「もめた」ってどういうこと?
オリンピック聖火の起源は古代ギリシャ時代。火は、ギリシャ神話に登場するプロメテウスが神々のトップであるゼウスの元から盗んで人間に伝えたものだとされていた。
神から伝えられた火はとても神聖なものだと考えられ、神々を崇めるための祭典であった古代オリンピックが開催されているあいだは、ずっと火を灯し続けていたそうだ。
その神聖な聖火が近代オリンピックに導入されたのは、1928年のアムステルダムオリンピックから。
聖火はオリンピック開催中、国際オリンピック委員会(IOC)の権限の元にオリンピックの聖地であるオリンピアに灯されている。オリンピアで採火した火を開催国に運び、そして聖火リレーが始まるのである。
そんな神聖な火を、ロサンゼルスオリンピックの運営委員会は「商品」にしようとしたのだ。IOCは認めたものの、聖火を管轄するギリシャのオリンピック委員会や聖地オリンピアがあるオリンピア市、ギリシャ政府は反発。
「神聖な聖火を商品にするなんて、オリンピックを冒涜している!」と。
「あなた方が管理している聖火を1つ75万円で売って、売り上げは大会運営の足しにする。いいよね?」と言われて、「はい、どうぞ」と素直には言えなかったということか…。
渋るギリシャ側をロサンゼルスオリンピックの運営委員会は必死に説得し、有料聖火ランナーはなんとか実施された。これが「聖火の売買でもめた」ということである。
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聖火リレーの様子
今回ご紹介しているロサンゼルスオリンピックの聖火リレーに関する動画は見つけることができなかったので、2019年現在最新の夏季オリンピックと冬季オリンピックの聖火リレーの様子を見ていただこう。
まずは2016年リオデジャネイロオリンピック。
リレーの途中でサンバが始まったり、リレーの途中でプロポーズしたりと、いろいろなことが起こったようだ。まさに陽気なブラジル人らしいお祭り騒ぎ!
次に、2018年平昌オリンピック。
こちらはかなり沿道がすっきりしている。ランナーも余裕たっぷりだ。おそらく2020年の東京オリンピックもこんな感じになるのではなかろうか。
このような歓声を受けながら大観衆の中で走ったら、スター気分を味わえるかも! 東京オリンピックの聖火ランナーになれた人は、イメトレをしておくといいかもしれない。
【追加雑学】オリンピックの地元開催は当時人気がなかった
次のオリンピック開催都市が発表されるとき、手を組んで自国開催を願い、開催が決まったときは飛び跳ね、抱き合って喜ぶ人々の姿を見たことがあるだろうか。オリンピックを地元で開催することは、今ではとても名誉なこととされている。
だが、1980年代はオリンピックの地元開催はまったく人気がなかったのだ。
上記で述べたとおり、オリンピックを開催するには莫大な費用が掛かる。1976年のモントリオールオリンピックでは10億円以上の大赤字。
今の貨幣価値で、およそ1兆円の赤字だ! オリンピックだけで!
そんなこともあり、1984年の第23回大会の開催都市として立候補したのは、なんとロサンゼルス市だけ…。しかし、前述のとおり民営化することで税金は1セントも使わず、400億円の黒字で大成功を収めたのだ。
この「商業化」の流れはその後のオリンピック開催都市にも受け継がれ、最近ではオリンピックの運営費は赤字になっていないそう。…赤字になっていないのは運営費だけで、インフラ整備などは真っ赤という話だが。
ちなみに1984年ロサンゼルスオリンピックの運営委員会は、利益を出すためではなくコストを削減するために「商業化」を考えていた。「金儲け」のためではないぞ!
雑学まとめ
今回は聖火リレーにまつわる雑学を紹介してきた。聖火の売買は「オリンピック商業化」の先駆け的な考え方だった。オリンピック自体を商品とすることで、税負担は少なくなるうえに企業やメディアの宣伝効果にもつながる。
全員万々歳じゃないか! …と思いきや、実は批判も多く、「昔のアマチュアスポーツの祭典に戻してほしい」という声も少なくないらしい。
テレビの放映権などで多額のお金を払っているアメリカのゴールデンタイムに合わせて競技をするために、朝早くから夜遅くまで競技することになり、選手たちの実力が発揮しづらい…などの問題があるそうだ。
たしかに、スポーツの祭典なのに選手たちに負担がかかるようなことをしたら元も子もないよな…。
物心ついたときから商業化されたオリンピックしか見ていない私にとっては、昔のオリンピックと今のオリンピックの違いはいまいちピンと来ていなかったが、そんな裏事情を考えると、今のオリンピックの在り方でいいのかな…とも思ってしまう。
選手たちが日頃の練習の成果と実力を十分に発揮でき、かつ国民の税負担がないオリンピックを開催してほしいものだ。…難しいかなぁ…。
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