オリンピックの花形競技の一つ、マラソン。このマラソン競技で2大会連続金メダルをとった「アベベ・ビキラ」というエチオピアの選手をご存知だろうか。「裸足のアベベ」といったほうが聞いたことがあるかもしれない。
その名のとおり、裸足でオリンピックを走って金メダルをとり、世界中で有名になったアベベは、その次のオリンピックで前人未到の二連覇を果たし、まさにマラソン王者となった。
当時のマラソンランナーの目標となっただけではなく、エチオピアでは英雄となり、名声も地位も手にいれた矢先…アベベに残酷すぎる運命が待ちうけていたのだ。
アベベを襲った悲劇とはいったい!? 今回の雑学記事では、そんな彼の人生の一部を取り上げていこう。
【オリンピック雑学】「裸足のアベベ」の栄光と悲劇とは?
【雑学解説】マラソンの王者となったアベベは、交通事故で下半身不随になった
アベベがマラソンをはじめたきっかけは、エチオピアの皇帝を護衛する「親衛隊」に入隊したことだった。
親衛隊には身体能力の高い優秀な人材が集まり、スポーツの国際大会にエチオピアを代表して出場する選抜メンバーが多くいたようで、アベベもそのうちの一人になったのだ。
元々マラソンに興味があったわけではなく、「除隊後に畑がもらえるから…」という理由で親衛隊に入隊したアベベ。目立つ選手ではなかったようだが、国内の大会で2位になり、オリンピックに出場することになったのだ。
1960年、第17回ローマオリンピックの男子マラソン競技に初出場し、なんとアベベは金メダルをとってしまったのだ! しかも裸足で…。
当時まったくの無名選手だったアベベの走りに、一緒に走った選手たちはもちろん、沿道で見ていた人・報道関係者、そして世界中が「誰? しかも裸足?」と、衝撃を受けたという。
当時の映像を発見したので見てみよう。
アベベの映像がこれだ!
1960年、ローマオリンピックでのアベベの映像だ。本当に裸足で走っている…。裸足だとは思えない軽い足どりだ。
レースのあとアベベは、「走れと言われれば、まだ20キロは走れる」と語ったそう。まさに超人だ。
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世界初のオリンピックマラソン2大会連続金メダル!
そして、4年後…。1964年、第18回東京オリンピックで、アベベは前人未到の二連覇を達成したのだ。
じつはこの6週間前に、アベベは盲腸の手術をしており、満足な練習はできていなかった。しかし、優勝したレース後、「あと10キロは走れた」と語ったそうだ。凄すぎる…。
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オリンピック三連覇ならず…
1968年、第19回メキシコオリンピック。エチオピア国民だけでなく世界中のマラソンファンがアベベ三連覇の快挙を期待した。
しかし、足の故障を抱えたまま出場したアベベは、無念の棄権で三連覇することはできなかった…。このとき金メダルをとったのは、アベベのライバルである同じエチオピアの「マモ・ウォルデ」選手だった。
走れなくなったアベベ
そして、アベベに悲劇がおとずれる…。メキシコオリンピックの半年後、アベベは親衛隊から贈られたフォルクスワーゲンを運転中、事故をおこしてしまったのだ。
1969年3月23日の夜11時頃練習の帰り道、カーブを曲がりきれず、道から大きく飛び出してみぞに落ちるという大事故だった。対向車のライトに目がくらんでハンドルを切りそこねたことが、事故の原因だったといわれている。
この事故で首の第七頸椎がはずれ、下半身不随に。アベベは走るどころか二度と歩けない体になってしまったのだ。
体の痛みはもちろんのことだが、走ることで栄光をつかんだアベベにとって、足を動かすことすらできないという精神的つらさを思うと、言葉を失う…。
【追加雑学】アベベは、生涯スポーツに関わり続けた
車椅子での生活となったアベベ。
なんと事故から4か月後、アベベは病院で行われた障がい者スポーツ大会に出場している。競技種目は、アーチェリーと車椅子競争だったという。
また、2年後には、ノルウェーで開催された犬ぞりレースに参加して、優勝までしている。
不屈の精神とはこのことだろうか。下半身不随になってしまっても、生涯スポーツに関わり、前向きに生きるアベベは、家族やまわりの人たちだけでなく、エチオピアの人々にも勇気を与え続けたに違いない。
アベベは1973年に、脳出血で亡くなった。事故の後遺症が脳出血の原因ではないかともいわれているそうだ…。
雑学まとめ
今回の雑学記事では「裸足のアベベ」を襲った悲劇を紹介した。悲しすぎる運命だが、そのあとのアベベの生き方をはじめて知り、とても感動した。
アベベが亡くなったとき、彼の棺はエチオピア国旗に包まれていたという。そしてその棺は、喪服の代わりに、陸上のトレーニング用の練習着を着た仲間たちに担がれて、墓地へ運ばれたのだそうだ。
エチオピア国旗に、陸上の練習着…。まさにエチオピアの英雄であり、マラソンの王者であったアベベらしい最期だったのではないだろうか。