甘くてとろける食感が子どもから大人まで人気の甘エビ。お寿司のネタになるのは小さい甘エビだが、スーパーに行くと体長10センチほどの大きな甘エビも売られている。
10センチの甘エビなどというと、本当に甘エビか? と疑いたくなるが、彼もまた立派な甘エビだ。おっと失礼…彼ではなく彼女だった。だって、大きな甘エビはみんなメスなのだから。
なるほど、カマキリみたいにメスのほうが大きい感じなのね…と思っていたらちょっと違う。今回は甘エビたちが子孫を繁栄させるためにとった、その生態のトリビアに迫っていこう!
【動物雑学】甘エビは性転換する
【雑学解説】甘エビが生まれたときはみんなオス。6歳過ぎたらみんなメス
日本で甘エビと呼ばれる彼らは、北海道をはじめ日本近海に生息、もしくはグリーンランドなどから輸入される「ホッコクアカエビ」のことである。彼らは雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)という生態をもっており、実のところ生まれたころは全員オスだ。
そして、全員がオスとして生まれてきた甘エビは、6歳ぐらいを境に全員メスへと性転換する。
え? 全員メスになったら繁殖できなくないか? という疑問が出てくるが、これに関しても心配はない。6歳を迎えてメスになった甘エビたちは、まだメスになっていない4~5歳の若いオスと交尾をするのだ。
甘エビ界は総じて姉さん女房なのである! …その交尾をしたオスも、将来は乙女に目覚めていくと思うとちょっと複雑だが…。
性転換は厳しい環境で生き残るため
甘エビが上記のような性質をもっていることには、彼らの暮らしている環境の過酷さが関係している。
甘エビが生息しているのは水深200メートルより下の深海。光はほとんど届かず水温も低いため、生物が少なくエサも限られている。
そのような厳しい環境で卵を育てられるのは、生命力の強い大きな個体だけ。つまり、子育てをできるメスの甘エビが少しでも多いほうがいいため、彼らは大人になると全員メスになるのだ。
逆に5歳まで全員オスなのは、オスなら卵を育てる負担がなく、体の小さい個体でも繁殖に参加できるからである。なるほど、適材適所で性別を変えるということか。…乙女に目覚めたからメスになるわけではなさそうだ。
また、あまり小さすぎるとやはり繁殖には参加できないようで、具体的には以下のような流れで大人になっていく。
- 3歳まで:繁殖に参加しないオス
- 4~5歳:繁殖に参加するオス
- 6歳~:メス
ちなみに、日本海の甘エビは2年に1回、太平洋の甘エビは1年に1回のペースで産卵を行う。同じ甘エビでも生息地によって産卵のペースが変わるのは興味深い。太平洋のほうが生き残りにくい、過酷な環境なのだろうか?
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【追加雑学①】5年たたずにメスになる甘エビがいる
まったくもって、甘エビの子孫を残そうという意志には感服させられる…。基本的に彼らは6歳からメスのはず…しかしなんと、メスの数が少なければ、5歳になる前からメスになる者まで出てくるというのだ!
厳しい環境で育つ甘エビたちは、大人になるまで生きられる個体も限られている。また漁をするにあたっても、まだ小さいエビを獲りすぎないために目の大きな網を使うことがあり、こういった場合もオスだけが残ってしまう。
そのため、若い個体でも繁殖できるよう、5歳を待たずして性転換をする者が現れることがあるのだ。
「あ…メスおらんから交尾できひんぞ。俺、メスなるわ…」という感じか。凄まじい順応力である。
【追加雑学②】5年物の甘エビのオスが美味い
メスの甘エビは大きくて食べ応えがありそうだが、実は卵にほとんど栄養をもっていかれるため、旨みのもとになるたんぱく質があまり残っていない。そして、一番食べごろなのは、5歳のオスだ。
5歳といえば甘エビ界ではもうじき性転換を迎える年ごろ。このころのオスは、メスになって卵を育てるために栄養をたっぷり蓄えているため、とってもおいしいのだ!
ちゃんと見分け方もあって、前足が2つに枝分かれしているのがオス・1本になっているのがメス・その中間の中途半端な状態がメスになる直前のオスである。
要するに5年目のオスはどっちともつかない、オカマちゃんみたいな感じになっているということか。なるほど…男と女両方の気持ちがわかると。どおりでおいしいわけである…って違う?
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【追加雑学③】新鮮な甘エビは甘くない
釣った直後に刺身にして食べるイカなどは絶品だが、実は甘エビはその限りではない。
甘エビのあの甘みの正体はアミノ酸で、彼らが死んだ後に体内でたんぱく質が分解され、合成されるものだ。つまり、釣りたての甘エビは甘くなく、スーパーや飲食店に輸送されるころが丁度食べごろなのである。
これはほかの魚にしても同じだが、魚は釣りたてのプリプリ食感が売りな部分もあるので、一晩寝かせたものとで好みが分かれる。その点、甘エビは食感というよりもとろけるような甘さが売りなので、基本的に一晩寝かせたものが美味しいとされているのだ。
【追加雑学④】産まれてくるときはみんなメスの魚がいる
甘エビはすべてがオスとして生まれてくるが、実は魚界では「生まれたときはみんなメス」という種類のほうがメジャーである。これを雌性先熟(しせいせんじゅく)という。
具体的には巨大なベラの仲間・ナポレオンフィッシュや、オレンジやピンクの群れが美しいキンギョハナダイなどがそうである。
彼らは若いうちは子を産むことに専念し、大人になるとより自身の遺伝子を広めていくため、オスに変化するのだ。甘エビとはまったく逆なので不思議な感じだが、そもそも甘エビより大きな魚たちは、若くても子育てに耐えうる体をもっているのだろう。
以下はキンギョハナダイの群れを映した動画だ。壮観である!
雑学まとめ
甘エビは生まれたときはみんなオス。そして過酷な環境で卵を育てるため、大人はみんなメスになる。とっても不思議な生態だけど、彼らの暮らす深海においてはとても理に適っているのだ。
子を産み、育てることはそれだけパワーを要する。我々人間としても、女性に対する敬意を忘れてはならないな…と感じさせられるトリビアであった!