「アリとキリギリス」。夏にせっせとアリたちが働いているなか、自分は働かずに音楽を奏でるばかりのキリギリス。そんなキリギリスが冬になるとエサが取れなくて困ってしまい、アリに助けを求めるというストーリー…。
しかし、この「アリとキリギリス」はもともと別のキャラクターで展開されていた童話だったことを知っているだろうか? アリは変わらず登場しているが、キリギリスは実は意外なあの虫だった。
今回は、そんな「アリとキリギリス」にまつわる雑学を紹介しよう。
【世界雑学】イソップ童話「アリとキリギリス」のキリギリスはもともとセミだった
【雑学解説】話が広まる過程で変更されたキャラクター
「アリとキリギリス」は、もともと「アリとセミ」だった。ストーリーは基本的に「アリとキリギリス」と変わらない。夏にアリが働くなか歌ってばかりのセミだったが、冬には困ってアリに助けを求めるというものだ。
それがなぜキリギリスに変更されてしまったのだろうか? これは、童話が広まっていく際の仕方のない現象だった。
セミの生息地は、基本的に熱帯・亜熱帯地域だ。イソップが生活していたギリシアにも生息している。しかし、ヨーロッパの北部ではセミは生息していない。
そうなると、ヨーロッパ北部の人たちは「アリとセミ」の話を聞いたとき「セミってなんだ?」と思ってしまう。そこでその地域になじむように、セミを他の虫に置き換えた。その虫がキリギリスだったというわけだ。
日本に伝わったのは、ヨーロッパ北部で広まっていた「アリとキリギリス」だったので、日本でも「アリとキリギリス」が当たり前になった。
ちなみに、キリギリスの他にも東欧ではコオロギ、ロシアではトンボに置き換えられている。同じ話なのに、地域によって違うキャラクターが登場するのはおもしろい現象だ。
個人的には、ロシアの「アリとトンボ」がどんな話なのか気になる。コオロギは鳴く虫ではあるが、トンボは鳴かない。どんなストーリー展開になっているのだろうか…?
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【追加雑学】本来の「アリとキリギリス」は結末も全然違っている!
さて、「アリとキリギリス」の結末はどんなものだったかと聞かれると、あなたはどう答えるだろうか?
多くの人は、「アリはキリギリスに食べ物を分け与えた」と答えるかもしれない。
しかし、これはアリの対応を柔らかくするために改変された結末である。初期の「アリとキリギリス」はもちろん、原典の「アリとセミ」の結末は全く異なる。
それは、「アリはキリギリス(もしくはセミ)を突き放す」というものだ。食べ物を分け与えたり、ましてや巣の中に入れたりするなんてことはしない。「それは自業自得」と言わんばかりに突き放し、キリギリス(セミ)は死んでしまう。
そして、「アリとセミ」ではこのような流れになっている。
アリが穀物を乾かしていると、おなかをすかせたセミが、食べ物を分けてほしいと頼んでくる。すると、アリはセミにこう言った。「なんで夏の間に準備しなかったのか?」と。そんなアリに対してセミは「歌ばかり歌っていたので、そんな暇がなかった」と答える。
するとアリは笑ってセミにこう言い放った。
「夏の間歌っていたのなら、冬の間は踊りなさい」
怖い…! 皮肉なのかユーモアなのか、普通に「準備しなかったあなたが悪い」と言われるよりも怖い返しだ!
この話には、もう少しだけ続きがある。「冬の間は踊れ」と言われたセミは、最後にこう答えた。
「歌うべき歌は歌いつくした。私の亡骸を食べて、生き延びれば良い」
カッコいい…! 「自分は自分の人生を全うしたから、悔いはない」というセミの充実感を感じる返しだ。
話はここで終わっているのだが、文脈からいってセミは死んでしまうことはお分かりだろう。
いま私たちが知っている「アリとキリギリス」では、「遊んでばかりおらず、せっせと働こう」といったメッセージを受け取りがちだが、「アリとセミ」では「こういう生き方もある」というメッセージも感じられる。
この展開は、アリが冷たいキャラクターに思えてしまうかもしれないが、充実して死んでいくセミの末路にはいろいろ考えさせられるものがあるので、私は好きだ。
雑学まとめ
「アリとキリギリス」のキリギリスは、もともとセミだったという雑学をご紹介した。イソップが生きていたギリシアでは、セミは当たり前の存在だったが、国によってはセミが生息していない場所もある。
「アリとセミ」が広まるなかで、セミのいない地域でも親しみやすいように、セミはキリギリスに変えられたのだ。このほかにも、コオロギやトンボなどに改変された国もある。各国の「アリとキリギリス」を調べてみるのも面白そうだ。
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