ディズニー映画やミュージカルの『アラジン』の原作として有名な『アラジンと魔法のランプ』。
少年アラジンと魔法のランプに宿る魔神の物語は、説話集『アラビアンナイト』に収められた話のひとつだ。
アラビアンナイトは中世イスラム圏で生まれた書物であり、映画やミュージカルのアラジンでもその世界観は再現されている。
しかし意外なことに、原作の『アラジンと魔法のランプ』の舞台はイスラム文化とはまったく無関係だという。え!? じゃあなんでアラビアンナイトに入ってるの…?
今回はそんな『アラジンと魔法のランプ』についての雑学を紹介していくぞ!
【サブカル雑学】『アラジンと魔法のランプ』の舞台はどこの国?
【雑学解説】『アラビアンナイト』と『アラジンと魔法のランプ』の関係とは?
『アラジンと魔法のランプ』が収録されている『アラビアンナイト』は、9世紀頃にイスラム帝国の都、バグダード(現在のイラク)でアラビア語の写本が完成している。
当初そのタイトルはアラビアンナイトではなく、『千夜一夜物語』だった。
これを、1704年にフランス人東洋学者のアントワーヌ・ガランがフランス語に訳してヨーロッパに広め、1706年に英語版が出版される際に『アラビアンナイト』というタイトルがついたのだ。
実はアラジンの舞台がイスラム圏ではないことは、この「千夜一夜物語」というタイトルが関係している。ガランがこの千夜一夜物語を調べてみると、なんと収録されている説話が282話しか存在しなかったのだ。
おいおい。これでは二百八十二夜物語じゃないか…。
生真面目なガランは、「絶対に1001じゃないとダメ!」と考え、アラビア語版には載っていない世界各地の説話を追加していったのだ。この行為がのちのち誤解を与えることになってしまう…。
ちなみに、「千夜一夜」とはアラビアで「数が多い夜」という意味であり、必ずしも「1001」という数字を表すわけではないという。日本でいう「三日坊主」みたいな感じだ。
ガランめっちゃ勘違いしてるやん…。
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舞台は中国!アラジンは中国人だった
ここまで話せばタネはわかったかもしれないが、『アラジンと魔法のランプ』も千夜一夜物語には含まれておらず、ガランがあとから追加した物語である。ついでにいえば『アリババと40人の盗賊』なんかもそうだ。
けっこう後付けの話のほうが注目されているんだな…。
そしてアラビアンナイトに収められている原作では、冒頭部分で「アラジンは中国人の少年である」とハッキリ書かれている。
つまり『アラジンと魔法のランプ』は中国が舞台の物語だということ。ターバンを頭に巻いた少年はもちろん、ジーニーのような精霊も登場しない。
なお、イギリスの有名イラストレーターが描いた原作の挿絵はこんな感じ。
ウォルター・クレイン(1845-1915)のアラジンの挿絵。妙に日本が混じってるところは当時の東アジアへの理解がそうだったとためと思う。蝶々夫人とかそんな感じなんでしょう。なるほどフジヤマゲイシャの世界。 pic.twitter.com/19VGu2TNXD
— ことだま けむりん (@kemrin2011) June 11, 2019
中国の民族衣装みたいなものを着ているし、ジャスミンも明らかに東洋人…。JAPAN感もたんまりある。
一人だけ黒人がいるのが気になるが、この人は北アフリカ・モロッコあたりからやってきた悪い魔法使いで、イスラム圏の人ではない。
ちなみに物語のなかで、舞台は「中国の東の果て」と表現されているので、たぶん上海あたりである。
魔法使いはランプを奪いにやってきたわけだが、なかなか根性を感じさせる移動距離だ。
…という感じで、ガランがあとから追加したから、アラビアンナイトでも中国の話が入っている。しかしディズニーで再現する際には、アラビアンナイト自体の世界観が大事にされたということである。
『千夜一夜物語』が完成した当時は、中国とイスラム圏にシルクロードを経由した交流もあったので、その時代に物語が伝わっていた可能性がないわけではないが…。
まあ、いずれにしても『アラジンと魔法のランプ』の舞台が中国であることに変わりはないわけだ。中国だったら「アラジン」って名前も本当は漢字だったりして…?
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【追加雑学①】ディズニーの『アラジン』の舞台はどこの国?
ここまで、「ディズニーのアラジンはイスラム圏を舞台に描かれるが」…などと繰り返してきたが、よく考えればそれもざっくりしすぎではないか。
そう、「イスラム圏ってどこの国なのさ?」という話だ。
結論をいえば、アラジンが住んでいるのは「アグラバー王国」という架空の国で、実在はしない。
しかしモデルになった国…といわれれば候補は絞れてくる。
まず作中で、アグラバー王国は「ヨルダン川の近く」と語られている。近くといってもいっぱいあるのだが…だいたいヨルダンあたりということだ!
ちなみに2019年公開の実写版アラジンの撮影は、ヨルダンのワディラム砂漠で行われた。まあこれはただのロケ地だが。
https://twitter.com/Amore_Italyball/status/1137577242463047680
ただやっぱり架空の国ということで、アグラバー王国にはヨルダン以外の要素も組み込まれている。
なんでもジャスミンの住んでいる王宮のモデルは、インドの「タージマハル」だというぞ!
そしてなんと…このタージマハルが建っている街の名前は「アーグラ」だ!
…アグラバー王国…アーグラ…。おお! めっちゃ似てる!
ということは、アグラバー王国のモデルはもしかしてアーグラなんじゃないか? となるところだ。しかし、作中に出てくるアーグラ要素はタージマハルぐらいだし、そもそもインド人は「サラーム」なんてアラビア語の挨拶は使わない。
よってアラジンが住んでいるアグラバー王国は、「都市の名前や建物の外観などインド要素も取り入れているが、場所的にはヨルダンあたり」とするのが妥当である。
まあ架空の王国なのだし、文化と場所がバラバラであっても不思議ではない。
また1992年のアニメ版映画が製作される際は、千夜一夜物語が作られたバグダードを舞台にする予定だったものの、イラク戦争の兼ね合いで変更されたという話も…。
舞台設定するにしても、いろいろ複雑なのだなあ…。
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【追加雑学②】『アラジンと魔法のランプ』の原作では、願いごとの数は無制限だった!
ディズニー映画のアラジンでは、ランプの精・ジーニーが叶えてくれる願いごとは3つまでであり、叶えるにも条件がある。
「人の命は奪えない」「死んだ人間を生き返らせることはできない」「人の心を変えることはできない」などだ。
しかし原作の『アラジンと魔法のランプ』では、なんと願いごとの数に制限がない。ランプが手元にあれば無限に願いごとが叶えられるのである。…それ絶対めちゃくちゃするよな…。
案の定、原作のアラジンは際限なく願いごとを叶えてもらっているし、無茶なお願いをしてランプの精にキレられたこともある。…やっぱり。
ディズニーのアラジンで願いごとをするのに条件が設けられたのは、制約がないとストーリーがおもしろくないとスタッフが考えたからだ。うん、アラジンがめちゃくちゃする話だとディズニーっぽくないし。
結果、作中のアラジンは最後の願いをどうするか迷うなど、ストーリーを盛り上げることに成功している。ディズニー制作陣のこの判断はさすがというしかない。
【追加雑学③】「3つの願い」が出てくる昔話にはなにがある?
「願いごとが3つだけ」というつながりで見てみると、フランスのシャルル・ペローが書いた「3つの願い」というタイトルの話がある。
この童話は、貧乏に嘆く木こりの前に精霊が現れ、「3つの願いを叶えよう」といわれることからスタートする。
木こりが家に帰って妻にこのことを話すと、彼女は「前祝いに大きなソーセージでも食べたいわ」とつぶやいた。すると、上から大きなソーセージが落ちてきて、1つ目の願いが叶ってしまう。
それに怒った木こりは、「変な願いしやがって! こんなソーセージは、お前の鼻についてしまえばいいんだ」と妻に叫ぶ。どんな罵り方だよ…。
案の定、大きなソーセージは妻の鼻にくっついてしまい、これで2つ目の願いも叶うことに。結局、3つ目の願いごとは「鼻からソーセージを離してください」になってしまう。なんでも手に入るはずだったのに、ソーセージしか手に入らなかったわけだ。
しかし、木こり夫婦は「今夜は大きなソーセージを食べようか」と話して仲直りするというオチ。
幸せというのは、案外ちょっとしたことだったりするものである。
もしかしたら「アラジン」の制作スタッフは、この童話から「3つの願い」のアイデアをもらったのかも?
あ…そういえばドラゴンボールも願い3つだ。制約的にちょうどおもしろくなる数字なのかな。
雑学まとめ
『アラジンと魔法のランプ』と聞けば、ディズニーの『アラジン』の世界観を思い浮かべる人が多い。それだけに「実は中国が舞台」というのは興味深い雑学である。
原作とは違えども、ディズニーが作り出したアラジンのイメージは素晴らしく、ある意味原作を超えている。舞台が中国でアラジンがめちゃくちゃしてても、それはそれでおもしろいけど。
そして、アラジンの日本語吹替版でジーニーを演じた声優・山寺宏一さんの素晴らしいエピソードを紹介した記事もあるぞ! アラジンファンはぜひ覗いてみてほしい。
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