オリンピックで動物を扱って競う唯一の競技、馬術。馬に乗ってハードルのような障害をいくつも飛び超え、スピードを競う、「障害飛越」という競技を、テレビなどで見たことはないだろうか。
じつは、日本はこの競技で一度だけメダルをとったことがある。しかも金メダルだ。西竹一とウラヌス号。ロサンゼルスオリンピックで会場を沸かせ、彼らのゴールの瞬間は、スタンディングオベーションで迎えられながら優勝した、金メダリストだ。
しかし、そんな華々しい栄光とは逆に、寂しく悲しい最期をとげたこと、そして最期までウラヌスと通じ合っていたと思えるエピソードが残っている。
今回の雑学では、バロン西(本名は西竹一)と愛馬・ウラヌスの栄光と、悲しい最期を紹介しよう。
【オリンピック雑学】馬術金メダリストのバロン西と愛馬の悲しい最期とは…?
【雑学解説】オリンピックで人々を魅了したバロン西は戦死…
バロン西こと西竹一は、男爵家に生まれた。男爵とは、昔の日本で存在していた身分の一つで、英語では「baron(バロン)」という。バロン西と呼ばれているのは、「西男爵」という意味である。
西は、軍人の道へ進み、陸軍士官学校で馬術に夢中になった。陸軍騎兵将校になると、人並みならぬ乗馬技術を認められ、オリンピック候補選手に選ばれた。
目標は2年後のロサンゼルスオリンピック。西は、オリンピック出場するには、どうしても馬術の本場である欧州の馬に乗りたかったようだ。そこで、馬探しから始まったのである。
バロン西とウラヌスの出会い
イタリアにいい馬がいると聞いた西は、早速会いに行った。
ところが体高181センチの大きな馬で、誰も乗りこなせない馬だったそうだ。西は一目で気に入り、この馬を購入。この馬が、西のパートナーとして金メダリストになったウラヌスなのだ。
ロサンゼルスオリンピックでの実技の映像
ロサンゼルスオリンピックで馬術は、最終日の閉会式会場で行われる最終種目。オリンピックの最後を飾る「五輪の華」と呼ばれる競技だった。
バロン西とウラヌスは、ほとんど減点のない素晴らしい演技で、見事優勝し金メダルをとった。
バロン西、ロサンゼルス名誉市民になる
バロン西が、ウラヌスを購入するためにヨーロッパへと向かった船の中で、アメリカ人夫妻と意気投合した。
じつはこの夫妻は、ハリウッドスターのダグラス・フェアバンクスと、メアリー・ピックフォード夫妻だったのだ。その後も交流が続き、フェアバンクスと西は大親友となったそうだ。
西はもともと天真爛漫で社交的な性格だったうえ、なかなかの伊達男でびしっとスーツを着こなし、英語も堪能だった。オリンピック出場のためにアメリカに渡ったときも、フェアバンクスとその仲間ともに、連日パーティーを楽しんだという。
いうなれば、西はロサンゼルスのセレブの中で有名人になっていたというわけだ。その西が金メダルをとり、なんとロサンゼルス名誉市民にまでなったという。金メダル受賞パーティーには、交流のあったハリウッド俳優たちも参加したそうだ。
バロン西とウラヌスの最期
しかし…ここまでの栄光をつかんだ西でさえ、戦争は避けられない。もともと軍人だった西は軍隊に戻った。時代の流れで騎馬隊はなくなり、馬をおりて戦車隊として硫黄島に出陣…。アメリカで愛された西は、日本の軍人としてアメリカと戦うことになったのである。
西は、この硫黄島で戦死した。そして、西が戦死した1週間後に、後を追うようにウラヌスも亡くなったという。
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【追加雑学①】バロン西は、死ぬまでウラヌスのたてがみを身につけていた
西は、ウラヌスを心から信頼していた。
「自分を1番理解してくれているのは、ウラヌスだ」といっていたそうで、オリンピックで金メダルをとったときにも、「We won(我々は勝利した)」と発言している。
ウラヌスをパートナーだと心から思っていたからこそ、「We(我々は)」と表現したのだろう。西は、ウラヌスのたてがみをひとつかみ切りとり、死ぬまで身につけていたそうだ。まるで自分の一部のように、ウラヌスを思っていたのだろう。
【追加雑学②】日本が馬術でメダルをとったのは、バロン西とウラヌスだけ
ロサンゼルスオリンピックで金メダルをとったバロン西とウラヌス。4年後のベルリンオリンピックにも参加したが、競技中に落馬し、棄権となった。
それ以来、日本は馬術競技でメダルをとっておらず、いま現在でも、西とウラヌスがとった金メダルが、唯一のメダルである。
「バロン西とウラヌス」の雑学まとめ
今回の雑学では、オリンピックの馬術競技で金メダルをとった、バロン西とウラヌスという最高のペアの物語を紹介した。
硫黄島でアメリカ軍と戦っていた西に対して、バロン西とウラヌスの功績を知るアメリカ兵が、西の命を惜しんで投降を呼びかけたという話が残っている。
真実かどうかは分かっていないらしいが、このような話が残るほど、アメリカでバロン西は愛されていたのだろう。日本人で、バロン西とウラヌスの功績を知っている人は少ないかもしれない…。
昔、海外でも絶賛されたバロン西とウラヌスの物語。日本人として知っておくべき歴史ではないだろうか。
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