スポーツでは、試合開始前に第3者によって試合開始を告げるセレモニーが行われる。なかでも有名人やスポーツ選手を招いて行う、野球の始球式はその代表例といえる。
いまや世間にすっかり定着した野球の始球式だが、そのセレモニーの際は、ゲストが投じたボールを打者が空振りすることが慣習となっている。では、それを日本で初めて行った人物は誰だったのか。この雑学記事では、その真相に迫っていく。
【スポーツ雑学】野球の始球式で打者が空振りする慣習は日本から広まった
【雑学解説】日本で初めて始球式を行ったのは大隈重信だった
プロ野球の試合開始前に行われる始球式。人気芸能人や元プロ野球選手などが務めることが多い試合前のおなじみの光景だ。このセレモニーは、野球の本場・アメリカよりも、日本の方が2年ほど古い歴史をもっている。
アメリカでは1910年にアメリカ大統領、ウィリアム・ハワード・タフトが、メジャーリーグで始球式を行ったのが最初といわれる。いっぽう日本では1908年に、早稲田大学の創設者であり、かつて内閣総理大臣も務めた「大隈重信」が、日本初の始球式を行っている。
その始球式は、早稲田大学とアメリカの選抜チームとの交流試合で行われた。当時、大隈は70歳という高齢だったにもかかわらず、羽織袴(はおりはかま)をつけて始球式を行ったとされる。そしてバッターボックスには、一番打者にして早稲田大学野球部主将の山脇正治が立っていた。
このとき、大隈重信が投げたボールはキャッチャーまで届かず、なんと途中で転がって止まってしまったのだ。このボールをアメリカチームのキャッチャーが拾いに走ったため、このままでは「ボール」判定になり大隈先生に恥をかかせることになると、周囲が凍りついたというのだ!
そこで、バッターの山脇選手がとっさにバットを振って、「ストライク」判定にすることで、大隈先生のメンツを保ったのであった。このことから、ピッチャーに敬意を払い、あえて空振りしストライクにするという始球式の慣例ができたのである。
しかも、この話は大隈重信が亡くなった後に雑誌に載って人々が知るところとなったというから、大隈氏がどれだけ人々に尊敬されていた(あるいは怖かったのか)のかがうかがえる。そんな大先生の威厳を保とうと機転を利かせた山脇選手のとっさの判断力もすごい!
なお始球式では、打者は必ずしも空振りをしなければならないというルールはないそうである。その後、この日本式の始球式は各国に広まったとされる。なお、野球の本場・アメリカにおいては、始球式は、貴賓席からゲストがフィールドへボールを投げ入れるのが通例のようだ。
または日本のように、ゲストがマウンドに立ち、ボールを投げる形式の始球式も、アメリカで行われている。ただし、その場合、打者はバッターボックスに立たず、ボールを受ける人物は、始球式を務める人物にゆかりのある者とするのが通例のようだ。
野球の始球式ひとつとっても、アメリカと日本では異なるルールが採用されているのだ。相手への敬意を表するために、あえて打者が空振りをするのは、いかにも日本らしい慣習といえそうだ。
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【追加雑学①】始球式でホームランを放った人物とは?
先ほどご紹介したように、始球式の際には、打者は必ずしもボールを空振しなければならないとのルールはない。なかには投じられたボールを打つ人物もいる。
1996年6月27日の広島市民球場で行われた広島対巨人戦の始球式では、なんとホームランまで飛び出している。この試合の始球式に登場したのは、元広島カープの投手・金城基泰(かねしろもとやす)と、元広島カープの4番打者だった「ミスター赤ヘル」こと、山本浩二だった。
本来始球式は、ピッチャーが1球を投じるのが通例とされるが、この始球式では2球が投じられている。そしてピッチャーの金城が投げた2球目、山本浩二(やまもとこうじ)が見事にはじき返し、レフトスタンドにたたき込んだ。実際の映像をご覧いただこう。
いくら球団に縁のある元プロ野球選手とはいえ、このセレモニーをスタンドで目撃した人々はさぞ、びっくりしたことだろう。後世に語り継がれる大変に珍しい始球式となった。
【追加雑学②】元阪神の新庄剛志は始球式のボールを打ち返していた
山本浩二以外にも、始球式のボールを打ち返したプロ野球選手がいる。
最近では野球経験のない芸能人やモデルがピッチャーを務めることも多く、バッターが打ったボールが当たってしまってはいけないという配慮からも空振りをしているようだ。
しかし! 2006年に現役を引退した、元プロ野球選手の新庄剛志は誰が相手でも基本打ち返していたという。
少年が投げた球でさえ打ち返す新庄だが、相手に当たらないよう配慮して打っているように見える。少年には良い思い出になったであろう!
また、ダチョウ倶楽部の上島竜兵がピッチャーを務めたときも見事に打たれてしまった。「始球式は空振りだろう」と激怒からの仲直りのチューという、一連のネタを選手と披露して会場を盛り上げたこともあるのだ。
【追加雑学③】日本一長い始球式を行った人物とは?
つづいても、一風変わった始球式をご紹介しよう。その名も日本一長いとされる始球式だ。それは、2018年3月31日に横浜スタジアムで行われた、横浜DeNAベイスターズ対東京ヤクルトスワローズでの開幕戦のことである。
この始球式で費やされた時間は、なんと約12分である。この始球式は日本一長いのみならず、日本でもっとも観客の笑いをさそう始球式でもあった。
この開幕戦において始球式を務めた人物とは、芸能人の柳沢慎吾だった。ベイスターズファンにはおなじみの始球式である。
彼の始球式は一風変わっている。その始球式は、高校野球の試合の1コマを再現するというもので、球場に登場するや否や、ピッチャーや応援団、実況アナウンサーなど、1人7役をを演じてみせた。実際の映像をご覧いただこう。
大事なホームチームの開幕戦を告げる始球式のはずが、ひとりで閉会式まで再現してみせたのであった。ボールを投じるまで約12分を記録したのだ。おそらく、日本一長い始球式の記録を破るのは、今後、彼しかいないだろうと思われる。
雑学まとめ
以上、野球の始球式の際に、打者が空振りをするルーツと、またそのセレモニーの2つのトリビアについてご紹介してきた。アメリカが発祥とされる野球において、試合を始める際に行われる始球式にはそれぞれ異なる風習があることが分かっていただけだろうか。
野球の試合の幕開けを告げる始球式。これからも選手やファンが不快にならない程度に、人々の記録や記憶に残るユニークなセレモニーをぜひ見せてほしいものだ。ひとりのプロ野球ファンとして楽しみにしたい。
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