日本の都市部で動物を見かけることはめっきり少なくなった。
時折、野良猫を見かけるくらいで、ひと昔前では街をうろついていた野良犬すら近年ではまったく見ない。
野良犬が消えた理由と背景だけで一記事書けそうではあるが、今回の雑学テーマは犬でも猫でもない。
乳製品・牛肉など、豚や鶏と並んでなくてはらない家畜代表「牛」…の、野良バージョン! 「野良牛」! である。のらうし…。口ずさんでみても大抵の人にはまったく馴染みがないワードだろう。
【面白い雑学】インドには「野良牛」がいる
【雑学解説】インドでの野良牛は日常の風景
まずはこちらの動画をご覧いただきたい。
動画のように、自転車やバイクが往来する道路のど真ん中に普通に牛が居座っている。結構人通りも多い。しかし、現地人はまったく気にする様子はなく、道端の電柱を避けるがごとくスイスイと牛を避けて移動している。日本人の我々からするとなかなかシュールな光景ではなかろうか。
インド人の8割はヒンドゥー教だといわれている。ヒンドゥー教では牛は動物の中で最も神聖な動物であり、ヒンドゥー教徒は決して牛肉を食べない。インド人の人口が13.39億人(2017年)なので、およそ10億人以上が牛と仲良しなのである。
このような背景もあり、とにかくインドは牛が多い。場所によっては石を投げれば牛に当たるくらい多い。
もちろん、これはインド人が生活するうえで牛が密接に関わっていることを意味する。牛乳やバターなどの乳製品は大事な食品であるし、牛肉の輸出産業では水牛を含めると、オーストラリアやブラジルを抑えて世界一である。農業においても糞は肥料になるし、畑を耕すのにも一役買う。
一方、ただでさえお世辞にも整備が行き届いているとはいえないインドの交通網に大量の牛がいるため、牛が原因の渋滞は日常茶飯事であるし、人身事故ならぬ牛身事故といった問題も頻繁に起きている。
おすすめ記事
-
ヒンドゥー教徒なのに!?ガンディーが牛肉を食べた理由とは?
続きを見る
【追加雑学①】インドの牛は実は「野良」ではない!?
インドの野良牛は2種類いる。
ひとつめは、家畜として所有されてはいるが勝手に路上に放牧しているケース。これはちゃんと所有者がいるので厳密には「野良」ではない。ちなみに、現地コーディネーターの話によると勝手に乳を絞っているのがバレるとすごく怒られるらしい。じゃあ路上に放牧するなよとは思うがそれがインドである。
ふたつめは、もう乳が出なくなったり病気にかかったりして、家畜としての機能を失った牛の所有を放棄しているケース。処分するのにもお金や労働力がかかるため、現実問題多く発生している。神聖な生き物もお金には勝てないらしい。
スポンサーリンク
【追加雑学②】インドで起きた牛をめぐる宗教間の対立
インド人の8割はヒンドゥー教だが、イスラム教を始めキリスト教・シク教・無宗教者含む他の2割のインド人では牛肉を食すことは禁じられていない。
このため、「牛の扱い」を巡って宗教間の対立が絶えず、牛肉を食したと濡れ衣を着せられたイスラム教徒が、暴走したヒンドゥー教徒に集団リンチの末殺害されるといった事件も起きている。
恐るべし牛の影響力である。
【追加雑学③】牛だけでなく犬も!インドでは「野良犬」にもご注意!
インドには野良犬もたくさんいるが、狂犬病を持つ可能性のある野良犬は野良牛よりはるかに危険である。
インドは狂犬病による死亡者数が世界一で、年間およそ2万人の死亡者数を出している。狂犬病の致死率はほぼ100%で、発症してしまうと死は免れない。
おすすめ記事
-
致死率100%…!狂犬病はどんな病気?日本は大丈夫?【動画あり】
続きを見る
基本的には日本の飼い犬のように頻繁に吠えることもなく、大体がぐったり寝ているのでこちらから刺激を与えない限り安全だが、狂犬病にかかった犬や、夜間は凶暴化する野犬もいるので、インドへ行く予定のある方は絶対に近寄らないように充分に気をつけてほしい。
「インドの野良牛」の雑学まとめ
今回は、インドの「野良牛」についての雑学を紹介した。
インド人は古くから牛と共存しており、良い意味でも悪い意味でも切ってもきれない関係でありひとつの文化である。
一方で、宗教的・政治的に利用され、食牛を理由に殺人事件にまで発展することもある。
近年では牛をネタに宗教間の対立が激しくなることを防ぐため、政府が首都デリーから大量に牛を緊急保護するというような事態も起きている。牛にとってはいい迷惑だろう。
近い将来、日本の野良犬のようにインドの街中から野良牛が消えてしまうようなことになるかもしれない。やむを得ないとはいえ、政治的な都合でひとつの文化が消えてしまうのは何とも悲しいことだ。
おすすめ記事
-
インドの"九九"は20段まで暗記する。驚異の覚え方がある…?
続きを見る